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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

スティーヴン ワインバーグ 著「科学の発見」

2023年08月17日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   「世界を説明する:モダン・サイエンスの発見」というタイトルのこの本、
   理系の知識が乏しく典型的な文系の私が、「科学や数学や歴史について特段の予備知識を持たない学部生」への講義ノートから生まれた、ノーベル賞量子物理学者の快刀乱麻の科学史だという能書きにつられて、読み通したのだが、やはり、関心のなかったトピックスの連続で、正直なところ良く分からないことが多くて、読書を楽しむという雰囲気ではなかった。

   当時私の受験した大学の受験科目は、英数3国理2社2合計9科目で、文理区別がなく、受験勉強し始めた時には、まだ、数学や理科も得意科目で、実際に、数1数2幾何、それに、科学と生物で受験して特に不都合はなかった。多少、経済学部で数学にはお世話になったものの、大学院まで、そして、仕事も文系で通して60年も経つと、恐ろしいほど理系の知識が欠落してしまっているのに気づいて唖然としている。
   尤も、元々天文学など勉強らしきものさえしていないので、アリストテレスやコペルニクスやケプラーの理論や法則、太陽系の解明など詳しく説明されても、上っ滑りの知識をフォローするのがやっとで、周到に準備されているテクニカルノートを精査する余裕さえなかったのが残念である。
   しかし、ガリレオやニュートンになると、やはり、多少知識が入っているのと一般的な歴史的叙述も多くなるので、親しみを感じてホッとする。
   いずれにしろ、良く分からないままにも、ターレスからニュートンまでの科学の歴史、そして、今日までの量子物理学への展開から近未来の科学の展望など、貴重な科学面からの世界の歴史の凄さを垣間見た思いで、今まで味わったことのないような新鮮で知的な感慨を覚えている。

   さて、この本での白眉は、ニュートンまでの、16~17世紀の科学革命の時代である。
   なぜ、その時代にその場所で起きたのか、世界史的にも西欧で最も華やかでエポックメイキングな時代であったで、考えられる理由は少なくない。
   15世紀のヨーロッパで多くの変化が起き、それが科学革命の素地を作ったのである。
   英仏で中央集権国家が確立され、1453年のコンスタンチノープル陥落でギリシャ人の科学者がイタリアなど西欧諸国へ逃れた。ルネサンスにより自然界への関心が高まり、古代の文献やその翻訳に対してより高い正確性が求められた。活版印刷の発明により、研究者間のコミュニケーションが遙かに迅速かつ安価に行われるようになった。米国大陸の発見と探検により、古代人が知らなかったことが沢山あるのだという意識が高まった。また、プロテスタント宗教改革が科学にとって好ましい社会環境を作り出し、合理主義と経験主義、さらに、自然には理解可能な秩序があるとの信念を促進し、特に、17世紀のイギリスの科学の発展の後押しをした。
   興味深いのは、著者が、次のように述べていることである。
   この様々な外的影響が、科学革命に対してどの程度重要な役割を果たしたのか判断は難しい。だが、運動と重力の古典的法則を発見したのがなぜ17世紀末のイギリスのアイザック・ニュートンだったのかは説明できないが、その法則がどのようにしてそのような形を取ったのかは分かる。それは、ただ単に、世界が実際にはほぼニュートンの法則に従って動いているからである。

   ところで、この科学史も、ギリシャから説き起こしているが、欧米の多くの歴史書がそうであるように、完全に、中国やインドは勿論、4大文明の発祥地などに一顧だにせず、西欧の科学史に限定して記述されている。
    古代中国の四大発明* 羅針盤 * 火薬 * 紙 * 印刷 などは勿論、ギリシャの文化文明をそっくり継承して近代ヨーロッパに移し替えたイスラムの文化や科学的貢献など、絶対に無視し得ない世界の科学史をないがしろにしている。
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