青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

中国の野生植物 Wild Plants of China リンドウ科Gentianoceae-12

2021-02-25 14:38:01 | コロナ 差別問題と民主化運動 中国の花


★2月24日の記事に、いいね!その他ありがとうございます。

Gentiana arethusae 輪葉竜胆* (地域集団:雲南省白馬雪山⓵) 〔sect. Kudoa 多枝組〕
*「ナナツバリンドウ」の和名で、暫定的に纏めています。

風雪の雪宝頂(黄龍渓谷)の峠で、ただ一株の「ナナツバリンドウ」を撮影した夜、成都に戻り、夜行の列車で昆明に移った。バスに乗り換え、香格里拉を経て、もう一か所目星をつけていた、長江とメコン川の分水の白馬雪山の峠 4300mに到着したのは、4日後のお昼。

標高3500mほどの香格里拉の高原から、一度2000m弱の長江岸に下り、再び標高4000m超の白馬雪山の峠に登る。そこで「ナナツバリンドウ」の探索をしたあとは、再度標高2000mのメコン川流域に降りて、チベット省境の梅里雪山の麓に向かう、というスケジュールだ。

香格里拉から徳欽には、タクシーを利用した。一日5000円ほどで、2日間のチャーター。2日目、長江岸から荒漠たる岩と砂に覆われた急斜面を登ってゆく。植生は極めて貧弱で、園芸樹で馴染みのコノテガシワの野生種と、中国奥地、台湾の山頂尾根、屋久島の海岸斜面に隔離分布するカザンマツ(ヤクタネゴヨウ)の針葉樹2種が、茶色い岩肌にへばり付くように生えている。

やがて、標高3000mを超えると、深い緑の温帯性樹林(カエデ属、ナラ属、サクラ属など)に置き換わり、そして、3500m辺りから上は、日本の亜高山帯とそっくりな、モミ、ツガ、カラマツ林が展開する。

亜高山帯林の森林限界付近の長江側峠頂(標高約4000m、峠道はメコン側の頂まで10㎞近くに亘り続く)に差し掛かったところで、「輪葉竜胆(以下、原則として“ナナツバリンドウ”の名で記す)」が出現。いやもう、大感激である。今日は天気もいい(植物の撮影に絶好の薄曇り)し、ここに居座って、徹底撮影することにした。

念のため二台のカメラと数本のレンズを使って、様々なアングルや設定で、お昼過ぎから夕方近くまで、都合3時間ほどかけて撮影を行った。

撮影していた時点では、“ロゼット・クラスター”の存在には気付いていなかった。別の植物(例えばベンケイソウ科など)だと思い込んでいた(ちなみに、周りに点在している赤い植物は、ツツジ科のイワヒゲ属の新芽)。

後に写真で確認中に、このリンドウ(ナナツバリンドウ)の、若いロゼットのクラスターであることが分かった。

ある程度の大きさを持った殆ど全ての(基部が覆われて見えない場合を除く)株に確認できる。

どのような意味があるのだろう?

この後、別の2か地域(共に標高4500m前後)で「ヤクシマリンドウ系」の種を撮影した。

直線距離で50㎞ほどのところにある雲南四川省境山地(迪庆大雪山)では、白馬雪山産とほぼ同じ「典型ナナツバリンドウ」の中に、やはり顕著なロゼット・クラスターを持つ数株を確認し得た。

一方、直線距離で350㎞余り離れた四川省の四姑娘山(巴朗山峠)では、撮影した「ナナツバリンドウ類似集団」の中には、明確なロゼット・クラスターが生じる株は検出できなかった(詳細は後述する)。

「中国植物志(およびそれと連動している中国植物図像庫)」に収納されている、「七葉竜胆」「六葉竜胆」併せて500枚ほどの生態写真と標本写真もチェックしてみた(概ね細部が不明瞭で、明らかな別グループの個体が少なからず混在し、多数の同一個体の別カットが紹介されている)。

「七葉竜胆」とされる写真が約250枚。主な撮影地は、四川省四姑娘山(巴朗山)、雲南省香格里拉県、同白馬雪山、チベット自治区左貢県芒康~雲南省香格里拉間の4か所。いずれの地域の写真からも、各1枚、それ(小形のロゼットの集まり)らしき存在が、かろうじて確認できた(不鮮明なので確定は出来ないが)。

ちなみに巴朗山の小形ロゼットは、あとで述べる予定の僕自身が確認したものと同一タイプの不明瞭なロゼット?の集まりである。また陝西省太白山産の「六葉竜胆」として紹介されている個体の中にも、ロゼット・クラスターの痕跡のような存在が朧げに確認できた。他に、四川省黒水県産の「五葉竜胆」に、不明瞭かつ不完全なロゼット塊(小さな成葉の集まり?)が、「三葉竜胆」の標本にも同様の不完全な塊が見出された。

いずれにせよ、雲南省西北部山岳地帯の標高4000m超の高山草地に生える「典型ナナツバリンドウ」においてのみ、「小さなロゼット葉の集合体からなるクラスター」が明確に存在するわけである。

具体的には、一葉の長さは1㎜未満、それが50~100葉ほど(おそらく成株一茎に付ける葉数に相同)集まって、一個体(一茎?)を成す。一個体の径は5~6㎜。それが成株の中央部分に密集して、20個前後(おそらく成株一株の花茎数に相当)のクラスターを構成する。

それが、どのような意味を有しているのか。

もし、この“ロゼット・クラスター”が「狭義のナナツバリンドウ」を特徴づける形質だとすれば、「典型ナナツバリンドウ」以外の種や地域集団における、一応存在するだろう小さめの(普通の)ロゼット葉の集まりと基本的に同質のもので、それが極端に小さく特徴的な外観を呈し、かつ明確なクラスターとして存在している、と見做せばいいのだろうか。

一般的なロゼット葉と同じように、花茎としての成長に向けて展開していくはずである。

ここまで書いてきて、、、、誤りに気付いた。「ロゼット葉」というのは、「地上に平開する葉」という意味ではなかったか? そこから伸びた茎に付く葉(及びその原型)は、「ロゼット」とは呼ばないのではないか?

僕は、「成体が展開する前の地表面に在る若い葉」を、全てひっくるめて「ロゼット」と捉えていたのだけれど、それは違うような気がする。

「地表面にロゼット状の塊になって存在する若い茎葉の集合体」のクラスター、と表現するべきなのかも知れない。

印象的には、ベンケイソウ科のミニチュア園芸植物「Echeveria」とか「Sempervivum」とか、、、僕は植物形態学的な知識にも乏しいけれど、それと共にこのようなマニアックな対象にも、全く不案内である。でもまあ、一般的にはそのあたりを思い描いて頂ければ良いわけだ(最初は僕もそれらの野生種と思い込んでいた)。

ということで、構造的には“ロゼット”という表現は間違いなのかも知れないけれど、便宜上この後も「ロゼット・クラスター」で通す。

さて、9月末と言えば、緯度が南であるとはいえ、標高4000mの地、あとひと月もすれば雪に覆われるはずだ(あるいは日によっては既に積雪があるのかも知れない)。

ということは、この「ロゼット・クラスター」の状態のまま、冬を越すのだろうか?

どうも、そうは思えない(特に根拠はないが)。以下に紹介する写真の中には、僅かながら「開きかけた」個体もあるようだし。

もとより、(ある意味リンドウ科全体の謎として)なぜ、わざわざ秋遅くに花が咲くのだろうか? 温暖な地域ならばまだしも、いわゆる高山植物として生育する寒冷地の種であっても、そのパターンを踏襲している。

仮に、無雪期が4月~10月とすれば、最初の半年近くを(少なくても人間の目には)姿を現さずにやり過ごし、最後のひと月になって成長し、受粉・結実して世代を繋ぐ、というわけである。その“綱渡り”に、どんな意味があるのだろうか?

僕は、この一帯には、5月下旬から8月上旬にかけて、何度も足を運んでいる。少なくても何らかの目立つ状況になっていれば、その姿を目にしているはずだ。当年度の実生株にしろ、前年からの越年株にしろ、秋になってから展開した、、、そう捉えるのが、最も妥当なように思う。

とすれば、これらの花を付けた成長株も、やはり最初は“微小ロゼット”からのスタートで、ごく短い期間に、一気に成長・展開していることになる。でも、雪に埋もれて翌年まで微小ロゼット状態を保ち、春以降になって徐々に展開していくのではないとすれば、ひと月ほどの間に、全て(成長、開花、受粉、結実)を完了することになるわけで、そのようなことは、可能なのだろうか?

幾つかの例では(殊に風衝地においては)、地表から直接花が咲いているごとく見えたりするごく短い花茎の株もある。これも、最初は“微小ロゼット”からのスタートなのだろうか? それとも、今見えている姿(花茎と微小ロゼット)は、それぞれ別次元の存在? 僕は、その辺りが全く把握できないでいる(知っている人は知っていると思うので、誰か教えて!)。

現場に張り付いて、リアルタイムで観察を続けることが出来れば、実態が見えてくるのだろうけれど、、、。

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現時点での纏め。

次のような形質が分類指標とされているのだと思う。

葉(や萼片)の数、形、大きさ。
花筒の長さと、花冠の開長。
花色。
雄蕊(花柱)の位置や長短。
雌蕊(子房)の膨らみ具合。
種子の大きさ、形、模様。
そして「ロゼット葉」の存在状態。

それらの大半は、それぞれの分類群に固有の安定的な形質とは言い難い。互いに「他種」とクロスオーバーしている。僕は、どの形質も、種を特定する上に於いての決定的な指標形質とは見做し得ない、と思う(むろん、それぞれに何らかの意味を持っているとはしても)。
*ただし明確な“ロゼット・クラスター”の存在は、上記したごとく特定の地域集団に固有のように思える。

それ以前に、種の特定をする必要があるのか? 第三者(=人類)に特定することが出来るのか? という根本的な疑問。僕は、種の特定(同定とか命名とか)は、言ってしまえば「事務的手続き」に過ぎないと思っている。

先に進めるためには、手続きは大切である。対象を「俯瞰的に捉える」ための一里塚として。しかし、手続き自体が目的なのではない。どうも、近年の分類学は「手続き(分類群の記載)」そのものが目的と化してしまっているように思えてならない。

「詳細チェック」(正確な検証=答えの特定)と「全体の俯瞰」(曖昧さの維持=特定の放棄)、常にその2つ(しばしば相反する答えが出る)をセットとして取り組む姿勢を持つべきだろう。

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「中国植物志」に示されている、中国大陸産「ヤクシマリンドウ近縁種?」についての分類を整理しておく。

多枝組(ヤクシマリンドウ節) 
以下の4系からなる。多年草で、常に主茎の葉腋から花茎を生じる。  

頭花系 
前出のタイワンリンドウを含む7種(詳細は割愛)。複数個の花茎が茎の途中から分岐する。

密葉系 
4種(詳細は割愛)。花茎は一本ずつ頂生。

華麗系
フタツバリンドウを含む11種(詳細は後述)。茎の基部から一本ずつ生じた複数の花茎に一花が頂生。対生葉。

輪葉系
ヤクシマリンドウ(台湾輪葉竜胆)など8種(変種ナナツバリンドウを含む)。 茎の基部から一本ずつ生じた複数の花茎に一花が頂生。輪生葉。

Ⅰ 典型ナナツバリンドウ
分布(確認地点):雲南省白馬雪山および雲南四川省境中旬大雪山の標高4000m前後以上の風衝草地。
顕著な “超小型ロゼット”のクラスターを備える。
葉数:6-8葉の輪生。
葉形:被針形~長楕円形。
花冠直径:2㎝前後。
花筒長:2.5-3㎝前後(やや太く途中で膨れる傾向がある)。
花色:明るい空色。
*暫定的に、川東竜胆の変種「七葉竜胆」を当てて置く。
*「中国植物志」によると雄蕊の花糸が「ムツバリンドウ」よりも長いとされているが、それは花筒長との相対長に関与するものと考える。

Ⅱ そのほかの集団(「ムツバリンドウ」etc.)
分布:陝西(太白山)/甘粛南部/青海南部/四川西部/雲南北西部/チベット東南部 (ミャンマー北部?/インド・アッサム?)標高2000m?~4800m。
“ロゼット”クラスターは不明瞭。
葉数:3-6枚。
葉形:短被針形~楕円形。
花冠直径:1.5-2㎝。
花筒長:2.5-5㎝(花筒は概ね細い)。
花色:青味の強い空色~濃紺色。
*両極個体の外観上の特徴は、ナナツバリンドウ典型と、フタツバリンドウに移行する。
*複数分類群に分け得る(=単系統ではない)と思うが、それぞれが既存の分類群(三葉竜胆、四葉竜胆、五葉竜胆、六葉竜胆、川東竜胆原変種、および無尾突竜胆)に相当するとは限らない。



雲南省白馬雪山。標高3900m付近。2005.9.27(以下、データを示していない写真は全て同じ)
最初に出会った個体を、いろんな角度などから、数時間かけて撮影した。



標高3700m付近から望む白馬雪山前衛峰とモミ・ツガ・カラマツ林。2005.6.22
ここから少し登った辺りから「ナナツバリンドウ」が出現する。



右手前に“ロゼット・クラスター”。赤はツツジ科イワヒゲ属の新芽。



左の黄色はベンケイソウ科キリンソウ属の花。



フィルムの右上付近に“ロゼット・クラスター”。

   










30~35個ほどの“ロゼット・クラスター”を成していた。下中央の株(直径約6mm)の葉を数えたら、80数枚あった。



姿の良く似た、ベンケイソウ科の栽培種。昆明にて。2016.4.24(中国では大人気でモニカも一時期嵌っていた)






右上の花の左にあるロゼットは、やや成長しかけている?中央の幾つかも基部の葉が大きめに(泥上の地面が何か関与しているのかな?)









萼筒の色は顕著な赤味をさすものから、他の茎葉と変わらないものまで、様々。












開花口上面から撮影した3個体のうち、右下は雌蕊がまだ発達せず雄蕊の葯が覆っている。その上の個体は雌蕊が姿を見せだした状態。その左下は雌蕊が発達し2つの柱頭が見とれる。雄蕊は葯が落下し濃紺色の花柱だけが(外側=花冠内壁へは向かわずに)子房に寄り添ったまま残っている。上四枚の写真個体で注目したいのは、雄蕊自体ではなく、花冠の内壁部の模様。各裂片の中央部に、まるで雄蕊が移行して張り付いたごとき、花柱の色や形とそっくりな濃紺色の条線が配されていること。この「リンドウ」の話題の最初の回に紹介した写真のパターンと酷似している。もちろんそれは本物の雄蕊、こちらは偽物である。このような表現をしない個体もあることから、必然的な現象ではなく、偶然には違いないのだろうけれど、、、。



【参考】
それで思い出したのが、翌日(2005.9.30)、梅里雪山の麓で撮影した「不思議なモンキチョウ」。これまでにも何度か紹介済みだが、ここで追加紹介しておく。夕刻、寝床を探しながら飛んでいた一頭の(たぶん)雌。木立の合間をふらふらと飛び続け、なかなか止まる場所が決まらない。どこかに停まろうとしてはそこを離れ、それを何度も繰り返したのち、やっと今夜の寝床が決まったようである。そこに留まって、ぴたりと動かなくなった。モンキチョウの側と、植物の側の、この見事なまでの色調相似。僕は本来こういう表現は余り好きではないのだが、、、、昆虫や植物にも、何らかの“意思”があるように思えてならない(結局、人類の「無意識強要同調空気」も、同じことなのかも知れないのだけれど、笑)。



余程拡大して見ないと分からないと思うが、フィルムの真下(2枚の細長い単子葉植物の葉の間)に、“ロゼット・クラスター”がある。その左の小さな葉の株の大きさに、すぐに移行していくのだろうか?



“ロゼット・クラスター”は、これも2枚の細長い単子葉植物の葉の間。開花前の蕾が多数見える。



これは分かり易い(“ロゼット・クラスター”は真ん中)。



右上の一株が四川省雪宝頂(標高4100m付近)、他は全て雲南省白馬雪山(標高3900m~4100m付近)。2005.9.29
2つの全体株個体には、その中央に“ロゼット・クラスター”が付随している。



上図の拡大。



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