雲南高黎貢山百花嶺⑤「ハゴロモⅢ」
↑前回、羽化途上の写真は、午前10時過ぎの撮影。それから大瀑布と天然温泉に向かい、帰路ヒグラシに出会ったところで、忘れ物を取りに山道を走って戻ってきました。ついでに、ハゴロモのいた木をチェック、午後3時です。前回紹介した、羽化途上の写真の場所にあったのは抜け殻だけ、午前10時過ぎの撮影ですから、5時間弱の間に全て羽化し終えて、どこかに移動してしまった、というわけです。
↑羽化したての成虫です。
↑これでもウンカ・ヨコバイの仲間としては、(セミを除いて)最も大きな部類に入るのだと思う。
↑時間が経つと、アオバハゴロモ同様に、虹色がかった青緑色を帯びて来ます。
↑上・前・斜め・横から。
さて、これまでセミをはじめとしたウンカ・ヨコバイの仲間を、同翅目(Homoptera)あるいは広義の半翅目(Hemiptera)同翅亜目の、頚吻群(頚吻亜目)として来ました。従来は、カメムシやセミなど全てを半翅目に含めた上で、2つの亜目、すなわちカメムシ類(亜目)とセミなどの類(同翅亜目)に分け、さらに同翅目を頚吻群(セミやヨコバイやウンカ)と腹吻群(アブラムシ=アリマキやカイガラムシ)に分割、という考えが一般的でしたが、最近は2つの亜目を独立の目(異翅目=カメムシ目Hteroptera/同翅目=ヨコバイ目)に明確に分離する、という処置に研究者たちの総意がほぼ固まりつつあったのです。
ところが、20世紀末になって成されたDNAによる分子生物学的解析では、驚くべき結果が示されています。同翅目の一員とされてきた腹吻群が、実はその他全ての群(頚吻群や異翅目)の側系統となり、同翅目のうちの頚吻群と異翅目が単系統群に含まれる、という意外な展開になって来ているのです。さらに、従来の頚吻群のうち、以前から“セミ・ヨコバイ型群”と“ハゴロモ型群”とされてきた両者は、必ずしも単系統に収斂されない可能性も出てきた(今のところ一応単系統である可能性も残されていますが)。
まだ決定事項ではないとしても、意外な展開です。おおまかには従来の組み合わせと、ほとんど正反対の組み合わせになったわけで、いずれにしても、“同翅目”という分類群は完全に消失することだけは確かなようです。
このような、系統分類における劇的な組み換えは(何事にも先入観を持たずに様々な角度から検討し直すという僕のポリシーに於いては)大歓迎ではあるのですが、少なからぬ戸惑いもあります。
僕としては、とりあえず同翅目・異翅目の概念を解消して全てを半翅目に戻し、カメムシ群(旧異翅目)、ウンカ・ヨコバイ群(旧同翅目頚吻群)、アブラムシ群(旧同翅目頚吻群)と並立せしめたたうえで、旧頚吻群の中に、狭義の頚吻群Archenorryncha(ウンカ・ハゴロモ)とClyperrhyncha(セミ・アワフキムシ・ヨコバイなど)を置く、というスタンスを取っていくつもりでいます。
問題は二つ。一つは半翅目とは関係のないことですが、他の昆虫各目の系統関係、ことに鱗翅目は一体どうなるのでしょうか?“チョウ”という分類群は成り立つ(“アゲハチョウ上科”と“セセリチョウ上科”の単系統性の支持)のでしょうか?踏み込んで言えば、“アゲハチョウ上科”の単系統性もひょっとすると怪しくなってくる。“Zephyrus”なども、本当に単系統なのかどうか(他のカラスシジミ亜科のいずれかの属が編入されて、一部が側系統になってしまう、などという事態も考えられなくはなさそうです)。興味深々!
もう一つ、非常に重要な問題。分子生物学的な手法による系統解析結果を、どこまで信用して良いのかという、、、、これは、もしかしたら、とんでもなく複雑で難しい問題なのかも知れません。