↑雲南省騰沖県高黎貢山2004.7.30
(第4回)キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma Ⅰ
《Heliophorus brahmaの♂外部生殖器構造について(被検標本:雲南省緑春県産)》
【全体の大きさとプロポーション】
●大きさは、ベニシジミ族として中康。Valvaやjuxtaの前後長が短く、全体に丸く頑丈なイメージ。
【Saccusの発達度】
●ウラフチベニシジミHeliophorus ila程ではありませんが、やや長めです。
【Sociusの形状】
●サファイアフチベニシジミHeliophlus saphir同様に、基部が太く後半が内側に湾曲して先端が鋭く尖り、対で「クワガタ」状になりますが、対の幅は本種のほうが広がります。
【Falxの発達程度】
●ベニシジミ族として平均的。
【Vinculum背後縁の張り出し】
●シロオビムラサキベニシジミHelleia pangaともども、張り出しが顕著です。
【Valvaのプロポーション】
●横幅の広い(前後長は幅の約1.5倍)半球形のお椀型で、濃く着色し、(Heliophorus viridipunctataを除く)他の各種に比べて明らかに頑丈な感じがします。
【Costaの発達程度と、Juxta側翼との連接状況】
●Costaの部分が急角度で屈曲してjuxtaの側翼と連接し、costa上方のvalva背基縁が、2分裂した突起となります。
【Juxta両翼面の角度】
●ほぼ90度。
【Juxtaの翼の形状】
●概形はHelleia属3種(オナガムラサキベニシジミ、シロオビムラサキベニシジミ、メスアカムラサキベニシジミ)に似て大型、側翼が発達して左右の幅が前後長を越します。
【Juxtaの腰からsaddleにかけての状況】
●腰の位置が低く、翼面はvalva内面に近づき、腰からsaddleにかけての部分は一様に幅の広い面状となります。
【Phallusの形状】
●ベニシジミ族の一般型。
本種の♂外部生殖器の基本構造は、次に述べるフカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctataと完全に相同です。末端部分には微少な相違点が見られますが、種差と言える程のものかどうかは疑問です。ただし、仮に微少な差であっても、相互に安定的であればその限りではありません。被検標本が少ない現時点では、保留にしておくほかないでしょう。
キンイロフチベニシジミ Heliophorus brahma
1段目左:春型♂:雲南省緑春県 1995.4.7
1段目中:夏型♂:雲南省騰沖県高黎貢山 2004.7.30
1段目右:同上(同一個体)
2段目左:春型♂:ベトナム北部ファンシーファン山中腹 2010.3.20
2段目中:同上(同一個体)
2段目右:同上(同一個体)
3段目左:同上(同一個体)
3段目中:同上(同一個体)
3段目右:夏型♂:四川省大邑県西嶺雪山中腹 1991.8.9
4段目左:春型♂裏面:雲南省緑春県 1995.4.7
4段目中:春型♂裏面:ベトナム北部ファンシーファン山中腹 2010.3.20
4段目右:夏型♀裏面:四川省天全県二朗山中腹 2009.8.3(フカミドリフチベニシジミないしはサファイアフチベニシジミの可能性あり)
*撮影地点はいずれも標高2000m前後(1700m~2300m)
《キンイロフチベニシジミHeliophorus brahmaの分布と生態について》
昨年末、沖縄にヘツカリンドウの調査に赴く際、なかなか予算を捻出出来ず、出発当日の時点で、どう考えても2万円ほどが足りません。思いあぐねた挙句、羽田に向かう途中に、神田神保町の古本屋へ本を売却しに行くことにしました。
用意したのは、作者や出版元から寄贈された、一冊数万円単位の豪華写真集を2冊、高額で購入した学術書を1冊、中国の奥地で入手し苦労をして持ち帰った分厚い図鑑2冊、いずれも手放したくは無かったのですが、背に腹は代えられません。少なくとも万単位の金額にはなるはずです。もし、予想より少な目なら、それらに加えて、中国の研究施設に寄贈するという名目で、つい先日無理を言って出版元より頂いたばかりの、自著「中国のチョウ」も付け加える、という算段です。
ところが何と、、、、数万円どころか、5冊併せて、たったの500円!幾らなんでもそれは無いですよ!と抗議したのですが、今の時勢、写真集などは全く値が付かない、外国物も買い手がない、と埒があきません。『中国のチョウ』なら6000円を出しても良いです、併せて6500円、じゃあどうでしょう、ということで、(必要のない重い本を何冊も中国や沖縄で持ち歩く訳には行かないし)仕方なく、粘って計7000円で引き取ってもらうことにしました。
帰京後、『中国のチョウ』を買い戻しに行ったのです。6000円ということは、8000円ぐらいで店頭に出ているかも、売却者本人ということで、少しは負けて貰えるかも、だったら手持ちの資金でギリギリ足りそう、と思っていたのですが、売値は定価(1万6000円)と左程変わらない1万3500円。1万2000円に負けておきましょう、と言われても、今の僕には購入は無理な話です。
というわけで、今現在『中国のチョウ』は僕の手元に存在しません。幸い、ベニシジミ族全体のゲニタリアについて記述した部分と、サファイアフチベニシジミの記述部分に関しては、以前にパソコン内に取り込んでいたため、それを再編して利用することが可能になったのですけれど、その他の種に関しての(ゲニタリア以外の)記述は、参照することが出来なくなってしまったわけです(原資料を引っ張り出して新たに一から纏めるのは大変!)。従って、キンイロフチベニシジミ以下の種の、『中国のチョウ』刊行以前の記録(1988~1997年)の紹介は、今回は割愛し、そのうちに『中国のチョウ』を再入手した時点で、追加記述をしていきたいと考えています。
↑雲南省緑春県 1995.4.7。元陽県との境界の峠付近から、数100m登った森林中の渓谷の陽だまりで、キンイロフチベニシジミの数頭の♂が、葉上で占有行動するのに出会いました。詳細は『中国のチョウ』に記述しているので、入手後、転載を予定しています。
↑雲南省緑春県 1995.4.7。春型♂。サファイアフチベニシジミと違って、翅表は、後翅外縁の朱色班が鮮やかなことを除けば、夏型との間に目立った差違はありません。数頭の♂による葉上での目まぐるしい占有行動を観察していたのですが、一時間近く絶った頃、突然姿が消えてしまいました。しばらくして、足下の小さな流れの岩上に数頭の♂が吸水にやって来ているのに気がつきました。
↑後方から見ると、翅の輝きは消え、クロミドリシジミを思わせる、味わいのある深い暗色と成ります。
↑雲南省緑春県 1995.4.7。後翅裏面外縁朱色班が白く塗されるのは、サファイアフチベニシジミ春型と同じ。ただし、その程度はより軽微で、裏面の条紋は明瞭、尾状突起はかなり長めです。
↑キンイロフチベニシジミの棲息する渓流周辺の天然林の写真が見つからないので、代わりに緑春への行き帰りに出会った巨大棚田の写真を紹介しておきましょう(「あや子版」では何度か紹介済み」。初出時は日本初の紹介だったはずですが、16年後の現在では、超有名観光地になってしまったようですね。ちなみにこのような開けた環境の周辺には、フカミドリフチベニシジミは見られても、キンイロフチベニシジミは棲息していない筈です。雲南省元陽~緑春1995.4.8
↑雲南省騰沖県高黎貢山 2004.7.30。♂は葉上に静止し、他の個体が近づくと飛び立って、物凄いスピードで目まぐるしく占有飛翔を繰り返します。金属光沢の煌めきは、前方から見た時が最も顕著なようです。春型との差は、翅表では後翅外縁朱色班の鮮やかさがやや弱く、翅裏では朱色班に白色鱗を塗さないことぐらいで、全体としてごく軽微です。翅裏の黒条紋は、サファイアフチベニシジミと違って良く発達します。
↑雲南省騰沖県高黎貢山2004.4.20。キンイロフチベニシジミが見られるのは、峠頂近くの原生林(写真上:樹冠、中:林内2004.4.20)中に開けた、天然放牧草地(下1995.7.30)の周縁です。