青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

続・ベニシジミ物語 6 アオミドリフチベニシジミ

2011-03-23 15:58:08 | チョウ







雲南省保山市高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:12】 


(第9回)アオミドリフチベニシジミHeliophorus androcles Ⅰ

《Heliophorus androclesの♂外部生殖器構造について(被検標本:ヒマラヤ地方産)》

「中国のチョウ」には、刊行時点で本種を撮影・観察し得ていなかったことから、本種の♂外部生殖器構造についてはほとんど触れていなかったと思います。ただし、国外(おそらくネパールまたはインド東北部)産を検鏡していて、特徴は把握しています。ごく大雑把に言えばフカミドリフチベニシジミ&キンイロフチベニシジミに最も近いと考えられますが、両種の持つ幾つかの固有形質の発現は弱く、またvinculum背後縁に大型の突起が生じることではサファイアフチベニシジミと共通します(それ以外の形質のサファイアフチベニシジミとの共通性は少ない)。どこかにメモや略図があるはずなのですけれど、現時点では探し出せないので、それが見つかる(あるいは再検鏡する)までは、詳細は割愛します。なお、ここでは種名をHeliophorus androclesと同定していますが、文献によってまちまちで(ことにサファイアフチベニシジミとの混同が見られます)、近似の複数種が存在する可能性もあります。






アオミドリフチベニシジミ Heliophorus androcles[夏型♂]
(全写真)雲南省保山市高黎貢山百花嶺(標高1700m~2200m) 2007.7.5~6
*1段目と2段目左端の計4カット、3番目3カット、4段目左2カットは、それぞれ同一個体(計6頭)。


《アオミドリフチベニシジミHeliophorus androclesの分布と生態について》

アオミドリフチベニシジミは、雲南からインドシナ半島北部やヒマラヤ東部には広く分布していると思われるのですが、僕は、この高黎貢山百花嶺(白花林)のみでしか撮影・観察していません。撮影地は2か所、百花嶺集落の畑脇の草地(2007.7.5標高1700m付近)と、稜線に向けて数百m登った辺りの林内に開けた草地(2007.7.6標高2000m付近)です。今回は、まず畑脇草地での撮影個体、次回に林内での撮影個体を紹介していきます(高黎貢山百花嶺の自然については、この後、12回に亘って紹介していく予定です)。撮影時間帯は、(今手元に出てきた写真に関しては)午前9時12分からの20分間。観察した個体は全て♂で、ここではフカミドリシジミは目撃していません。







↑怒江(サルウイン河)の畔から望む高黎貢山東面、写真右方の山中に百花嶺があります。上2005.6.30、下2005.2.5(フカミドリフチベニシジミⅡでも同一地点からの写真を紹介済み)。







↑百花嶺の集落。2007.7.5。下の写真の手前がアオミドリフチベニシジミのいた草地。





↑草地の葉上で翅を開いて日浴?中の♂。見渡すとあちこちで見付けることが出来ます。イメージは、日本のベニシジミにそっくりです。高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:17】






↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:12】翅表の色や金属青色鱗の範囲はサファイアフチベニシジミの夏型と似ていますが、僅かに緑がかっていて、同じ青でも色調が明らかに異なります。








↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:16】前の写真とは別個体。後翅表の朱色班は、夏型で明らかに減少するサファイアフチベニシジミとは、春型(アオミドリフチベニシジミの季節型については未確認)同様に幅広いことで異なります。






↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:17】近づくと複眼を上に持ち上げてこちらを見ているように思えます。








↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:19】裏面はフカミドリフチベニシジミやキンイロフチベニシジミとほとんど変わらないように思います。チェックした個体(次回にもう1個体)に関しては前翅の褐色条が太いようですが、安定した有意差なのかどうかは確かではありません。













↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:12】葉上に止まるとすぐに翅を開きます。








↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:31】金属光沢青色鱗の範囲はどの個体も安定しています(この個体は前翅が丸味を帯び、基部が濃色)。


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2006.11.6 屋久島モッチョム岳 アズキヒメリンドウ 9

2011-03-23 15:35:37 | 屋久島 奄美 沖縄 八重山 その他



(第9回)リュウキュウイチゴ&ヤクシマキイチゴ(移行型)について



葉形はヤクシマキイチゴに近いように思われますが、より厚く光沢があり、裏面葉脈などは赤色を帯びません。








全体としてはリュウキュウイチゴに近いようですが、、、、。






極めて大型で形も幅広く、一見ビロウドカジイチゴを思わせます。しかし、葉質は革質で光沢があり、その点ではリュウキュウイチゴ的です。








この辺りがちょうど中間程度の印象。
(リュウキュウイチゴの若い個体の葉は、通常深く瓢箪型に切れ込みますが、成木の葉の切れ込みとは無関係)








左2枚:典型リュウキュウイチゴの葉
右2枚:典型ヤクシマキイチゴの葉
(いずれも左が葉表、右が葉裏、以前に写したモッチョム岳登山口と山頂付近の写真が出て来ないので、とりあえず別の場所=安房2006.6.21と安房林道終点付近2006.4.28の撮影品を代用しておきます)






登山口(展望台)付近には、典型的リュウキュウイチゴを含む、様々なパターンの葉が見られます。急傾斜の登山道を登り始めると、典型的リュウキュウイチゴは姿を消し、全ての葉が様々な形をした中間個体ばかりとなります。そして山頂付近では、葉が薄く小さく、鋭くモミジ型に切れ込み、葉裏が真っ赤になる、典型的ヤクシマキイチゴが出現します。今回紹介するのは、11月の無花・無果実期ゆえ、積極的な撮影は行っておらず、実際には、更に著しい変異パターンを見ることが出来ます。なお、両典型個体も今回は撮影していないため、安房林道の入り口・終点付近での撮影写真を代用しました。


屋久島産のキイチゴ属は5グループ8種(コバノフユイチゴ群のコバノフユイチゴ、フユイチゴ群のホウロクイチゴとフユイチゴ、クサイチゴ群のリュウキュウバライチゴとヤクシマヒメバライチゴ、ナワシロイチゴ群のナワシロイチゴ、モミジイチゴ群のリュウキュウイチゴとヤクシマキイチゴ)。そのうち、果実が黄色で(注:キイチゴは「木苺」で、「黄苺」ではなく、大半の種の実は赤い)、花柄や葉枝の付き方が独特の様式を持つ(一枝集散形花序)モミジイチゴ群の2種は、非常に興味深い種間関係にあります。

モミジイチゴ群の種は、おおむね日本本土の東半部にモミジイチゴRubus palmatus var. coptophyllus、西半部にナガバノモミジイチゴR.p.var. palmatus(両種は変種関係に置かれていますが、安定的な特徴を示すこと、および同群他種とのバランスを考えれば、種を分けたほうが妥当ではないかと思われます)、南西諸島にリュウキュウイチゴR.grayanus、伊豆諸島と四国・九州などの太平洋沿岸(九州西岸を含む)にビロウドカジイチゴ(ハチジョウイチゴ)R.ribisoideus、屋久島に固有種のヤクシマキイチゴR.yakumontanusが分布します。ほかに、キソイチゴ、マルバモミジイチゴ、トゲリュウキュウイチゴなどの種・亜種・変種も記載されていますが、上記各分類群の生育環境に応じた変異形、あるいは種間交雑起源による特化形質の表現と想定されます(それらを含め、モミジイチゴ種群全体としての種分化の方向性を探らねばなりません)。

モミジイチゴ群には、ほかに、やや特異な形質を持つ、ビロウドイチゴR.corchorifoliusとゴショイチゴR.chingiiがあります。ともに日本では限られた地域に分布するマイナーな種ですが、中国大陸や台湾などでは、むしろビロウドイチゴが、モミジイチゴ種群の代表種となっているように思われます。

モミジイチゴにやや似通った別群の種に、カジイチゴがあります。多くの文献によると、ヤクシマキイチゴは、カジイチゴとリュウキュウイチゴの自然交雑種と記されていますが、これは明らかな間違いです。まず、屋久島にカジイチゴは分布していないこと、そして、ヤクシマキイチゴはカジイチゴ群的な形質を全く示さず、典型的なモミジイチゴ群の性質を持っていることがその理由です。ナガバノモミジイチゴとリュウキュウイチゴの種間雑種、という説もありますが、これも間違い。ナガバノモミジイチゴも屋久島には分布していません(以下に述べるヤクシマキイチゴとリュウキュウイチゴの移行型の中には稀にナガバノモミジイチゴに似た個体が出現する)。ただし、カジイチゴ由来の話と違って、全くが接点ないわけではありません。ヤクシマキイチゴ自体が、モミジイチゴやナガバノモミジイチゴの共通祖先から分化した可能性が強いからです。そして、あえていえば、より遠距離に分布域をもつモミジイチゴのほうに類似点が多く見出されるように思われるのです(似た傾向は他の屋久島産植物にも見られ、例えば、ヤクシマシャクナゲは、西日本のツクシシャクナゲより東日本のアズマシャクナなどにより近い類縁性を有していると思われます)。

さて、問題はリュウキュウイチゴ。同群の他種と異なり、葉はモミジ型に切れ込まず、革質で濃緑色を帯び、一見した限りでは、全く別のグループの種のように見えます。しかし、花序の様式や、花や実は、典型的なモミジイチゴ群の特徴を示し、モミジイチゴやヤクシマキイチゴにごく近縁な種であることは、疑いを持ち得ません。南西諸島に広く分布するということで、単純に熱帯性・南方型の種、と捉えてしまいがちですが、西南諸島から、さらに南に続いているわけではありません。良く考えるとかなり不思議な分布パターンです。南西諸島の固有種なのです(台湾や中国大陸南部などにも分布している可能性はあり、一部の文献にも記録がなされていますが、真否の程は不明)。あえて言えば、南に繋がるというよりも、ナガバノモミジイチゴやモミジイチゴ、あるいは後述するビロウドイチゴを通して、北(日本本土)や中国大陸との関連が深いように思われます。

同様に、(ほぼ)南西諸島固有といえる種は、ほかにも幾つもあり、例えば、この項の主役であるヘツカリンドウ(広義)がまさにそうですし、テッポウユリもその一つです(ともに台湾に僅かな産地あり)。クマゼミやジャコウアゲハ(本州南部~与那国=クマゼミ/西表=ジャコウアゲハ)も、西南諸島に広く分布し、台湾や中国では明確に種が入れ換わることで、同じカテゴリーに含めて考えて良いでしょう。

リュウキュウイチゴは、(ほぼ)西南諸島の固有種と言っても、どの島にも生えているというわけではなさそうです。屋久島、種子島、奄美大島、徳之島、沖永良部島(たぶん)、沖縄本島、久米島(たぶん)、宮古島(たぶん)、石垣島、西表島、といったメジャーな島々には、ごく普通に見られますが(「たぶん」とした島については未確認)、この後述べる、三島列島、口永良部島、トカラ列島には非分布で、代わりに、上記の島々には分布しないハチジョウイチゴ(ビロウドカジイチゴ)が生えています。また、ヘツカリンドウやトカラアジサイの生える伊平屋島には極めて数が少なく(分布の確認はしている)、対岸の沖縄本島ヤンバル地域で至る所に繁栄しているのとは対照的です。

種としての形質は(屋久島のヤクシマキイチゴ交雑集団を除いては)ごく安定しているようで、屋久・種子から石垣・西表に至る各島嶼間の集団に、これと言った変異は見られないように思われます(丸い葉や、深く“瓢箪型”に切れ込んだ葉など、一見著しく変異が多いようにも見えますが、それは発育段階や環境条件の差によって生じる個体内の非安定的な変化で、個体としての安定的な変異ではありません)。

しかるに、台湾や中国大陸に行くと、リュウキュウイチゴ(少なくとも典型群)は消えてしまう(そのことは、九州や本州などでも同様ですが)。

大雑把に俯瞰すると、次のような筋書きになるのかも知れません。

日本本土や台湾・中国大陸には、別の近縁種のモミジイチゴ・ナガバノモミジイチゴやビロウドイチゴなどが普遍的に分布しています。(歴史的相関性やシステムは不明ですが)仮にかつてリュウキュウイチゴが日本本土や台湾・中国大陸にも分布していたとしても、それら繁栄する近縁各種の中に収斂されていき、典型群は残っていない、と考えることが出来るかも知れません。

屋久島にも、リュウキュウイチゴと共に(異なる時空由来で)古い時代から在来分布する、ヤクシマキイチゴの存在があります。しかし、そこでのリュウキュウイチゴもヤクシマキイチゴも、日本本土や中国大陸のモミジイチゴやビロウドイチゴなどのように、空間的にも量的にも圧倒しているわけではなく、勢力は拮抗しています。したがって、互いに(どちらかに)収斂・吸収されてしまうわけでも、押し出されてしまうわけでもなく、両者の影響が及ばない空間では、典型的な「リュウキュウイチゴ」「ヤクシマキイチゴ」として成立し続けることが出来るのです。しかし、大多数の空間では、両者は混じりあって、典型的な個体は、それぞれ端と端にのみ見出される、というわけです。完全に混棲しているのでも、完全に交雑しているのでもない、という図式です。

ちなみに、トカラ列島などの島々に於けるリュウキュウイチゴの欠如は、小さな島々ゆえ、ハチジョウイチゴ(ビロウドカジイチゴ)と共存しうるだけのキャパシティが無かった、と考えることが出来るかも知れません。と言って、それならば、ハチジョウイチゴ(ビロウドカジイチゴ)の形質の中に、リュウキュウイチゴの形質の浸透が見られても良さそうに思うのですが、そのようなことはなさそうです。これらの島々には、リュウキュウイチゴはもともと分布していなかった、と考えるべきかも知れません(現在の分布に至る主要因は、果実の鳥散布による、とするのが常識なのでしょうが、それだけで考えうる単純な問題ではないと思う、鳥散布だとすれば、鳥自体の飛行航路が分布決定の重要な、かつ唯一の要素になってくるわけですが)。

以上の筋書きは、何の根拠もない、絵空事です。ついでに、もう一つ空想めいた話を追加しておきます。

屋久島に於ける、リュウキュウイチゴ・ヤクシマキイチゴ“コンプレックス”(複数の異分類群の集合体という意味では無く、もっと広く一般的な意味での複雑な集合体として)は、モミジイチゴ群内の各分類群の形質を(もともと)併せ持った表現体ではないかと。いわば「ヤクシマリュウキュウモミジイチゴ」とでもいうべき、モミジイチゴ群の祖先的形質をトータルに内包した(通常は、様々な形質表現の可能性が内包されていても、実際に表現される形質は限られているはずなのですが、それが全て表現されてしまった)、基本型。その山上タイプ(ヤクシマキイチゴ)から本土のモミジイチゴが派生し、海岸タイプから沖縄のリュウキュウイチゴが派生した、という逆の発想も考えられます(多くの地域集団と共通した様々な段階の白帯出現頻度を示す、屋久島産クマゼミの存在の意味、あるいは多型であることが本来の性質と考えた、沖縄本島産ヘツカリンドウの存在の意味においても、同様のことが言えそうです)。

この“空想”は、実際には様々な無理があり証明は困難です。僕自身、自ら否定したいと思っています。しかし、それぞれの種の由来を探るに当たって(由来はともかく、結果としての祖先的形質の内包を考えるに際して)、“発想の根源”のような部分が鍵を担っている、ということも、言い得るのではないかと思うのです。

一般的な考え方に話を戻しましょう。屋久島産のリュウキュウイチゴは、山上部でヤクシマキイチゴに接し、その影響によってのみ中間的形質を持った個体が出現すると考えるべきか、それとも、山上の環境に移行することによって、次第に中間的形質を表現、さらには典型的ヤクシマキイチゴに至る、という遺伝的な性質が内包されているのか。

後者だとすれば、他の南西諸島の島々でも、標高さえ高ければ(種子島約280m、奄美大島約700m、沖縄本島約500m、西表島約450m)、ヤクシマキイチゴ的集団が出現しても良いことになります。

ちなみに、台湾の山地では(中国大陸の一部でも)、種としてはおそらくビロウドイチゴに帰属すると思われるとしても、リュウキュウイチゴ的、もしくはヤクシマキイチゴ的な葉を持った個体が、しばしば見受けられます(拙書「屋久島の植物:リュウキュウイチゴとヤクシマキイチゴ」参照)。九州南部産のナガバノモミジイチゴにも、しばしばリュウキュウ的な、あるいはヤクシマキイチゴ的な葉の個体を散見します。それらの実態の把握と解釈は、今後の課題です。

僕自身の観察では、これまでのところ、典型リュウキュウイチゴのみが産する島は、種子島、奄美大島、沖縄本島、西表島。このうち奄美大島では、湯湾岳山頂(標高約700m)付近で、リュウキュウイチゴらしからぬ、柔らかで大型の葉の個体を観察しています(葉の質以外はヤクシマキイチゴとは全く別方向の形質表現)。また、沖縄本島の与那覇岳山頂(標高約500m)付近(標高約450m地点)に於いては、葉の形が極めて細長く伸長した(その点では、ナガバノモミジイチゴやヤクシマキイチゴに幾らか類似した個体を観察しています。それらがどのような意味を持つのかも、今後の検証課題です。

三島列島(黒島)、口永良部島、トカラ列島(口之島)は、完全にハチジョウイチゴ(ビロウドカジイチゴ、どの島にも極めて豊富)
の単独分布となり、リュウキュウイチゴもヤクシマキイチゴもナガバノモミジもビロウドイチゴも、全く分布していません。一方、屋久島や奄美大島にはハチジョウイチゴ(屋久島のリュウキュウイチゴ~ヤクシマキイチゴ移行的個体の中には、ややハチジョウイチゴに概形の似た個体が見出されますが、葉の概形以外の諸形質はハチジョウイチゴと全く異なります)は、全く分布を欠きます。鳥散布が分布の主要因であるなら、複数種の(非交雑)混在なり交雑なりが生じても良いはずですから、不思議としか言いようがありません。





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