青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

続・ベニシジミ物語 5 キンイロフチベニシジミ(その2)

2011-03-20 09:39:12 | チョウ






↑ベトナム北部ファンシーファン山中腹 2010年4月4日。



(第4回)キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma Ⅱ

『中国のチョウ』刊行以降(実質2004年以降)の記録を中心に、簡単にメモっておきます(一応最初の2つは『中国のチョウ』収録の撮影記録)。
■1991年8月9日、四川省大邑県西嶺雪山。
■1995年4月7日、雲南省緑春県。
■2004年7月30日、雲南省騰沖県高黎貢山。
■2010年4月4日、ベトナム北部(サパ)ファンシーファン山中腹。
同時に4~5♂を観察した緑春を除き、各1♂の観察・撮影です。

前記したように、フカミドリフチベニシジミとは♂交尾器にほとんど差異がなく、マクロな分布域はほぼ重なります。ただし、今のところ僕自身は、同一地点では両種を撮影していません。唯一の同一地点での目撃地は、雲南省保山市高黎貢山百花嶺(2007.7.6)で、多数のフカミドリフチベニシジミ、アオミドリフチベニシジミに混じえ、一頭を目撃しています。ちなみに雲南省騰沖県高黎貢山でのキンイロフチベニシジミ撮影地は、百花嶺と同一山系の約40㎞隔てた地点(ともに標高は2000~2300m、7月)、2004年9月末には、その麓の龍川江(イラワジ河支流)畔の水田畔で1♀を撮影していますが、僕の同定能力では、どちらの種であるかの判別は付きません(ただし後述するように、棲息環境からすれば、フカミドリフチベニシジミの♀である可能性が高いと思います)。

最も隣接した地点での同日撮影は、雲南省緑春県東部における、距離にして2~3km、標高にして200~300mほどを隔てた地点の例(標高1500~2000m付近)で、キンイロフチベニシジミが、山間部の道の無い渓流源頭部、フカミドリフチベニシジミが、人里に近い溜池畔の藪と、山腹の雑木林内の山道です。

また、四川省のキンイロフチベニシジミ撮影地(大邑県西嶺雪山)の南西50㎞余の地点(天全県二朗山)でも、フカミドリフチベニシジミを撮影しています。こちらも、標高(1500~2000m付近)季節(8月上旬)とも共通、ただし前者は、山間の渓流、後者は集落近くの国道沿いです。後者の近くでは、別の年に♀も撮影していますが、どちらの種なのかの判別はつきません(おそらくフカミドリフチベニシジミ)。

ベトナム北部のキンイロフチベニシジミ撮影地(サパ・ファンシーファン山)は、ほとんど中国(雲南省)国境に隣接した地点で、緑春県での撮影地と同一の山系に属しています。距離の隔たりは100㎞ほど、その間の元陽県、金平県でもフカミドリフチベニシジミを撮影していて、サパ~金平間は50㎞余です。いずれも標高は1500~2000m。キンイロフチベニシジミの撮影地は、ファンシーファン山中腹の道無き小渓流で、金平と元陽のフカミドリフチベニシジミ撮影地は、それぞれ林内に開けた天然放牧草地と、棚田脇の林縁です。

たまたま僕の撮影した地点が重ならないというだけのことで、完全な混生地も普遍的に存在するのかも知れませんが、フカミドリフチベニシジミが、より人里に近い(あるいは人手の入った)環境、キンイロフチベニシジミが、より原生自然環境に結びついているらしいということも、動かし難い事実と思われます(全体的に見て、後者のほうが明らかに稀)。

♂の活動時間帯と、占有・追飛翔パターンについては、緑春県に於ける観察を『中国のチョウ』に記述しています。ファンシーファン山の小渓流(環境的には緑春での観察地に酷似)でも、ほぼ同様の行動を示し、灌木または高茎草本の葉上で占有姿勢をとっての静止(通常静止直後は翅を閉じていますが、しばらくすると水平に開きます)と、他個体?との追飛翔を、交互に繰り返します。非常に素早くて目まぐるしく、目で追うことはほとんど不可能に思われる程です(葉上から飛び立って姿を消しても、いつの間にか翅を水平に開いて元の葉上に戻っている)。ちなみに、ウラフチベニシジミ群の種(Heliophorus ilaまたはepicles)も、同一地点で同時に占有飛翔を繰り返しており、確認はしていないのですが、両者間で追飛翔を行っている可能性も少なくないと考えられます。

顕著な占有行動を観察したのは、緑春や高黎貢山では正午前後だったのに対し、ファンシーファン山では午後4~5時頃(中国時間に換算、ベトナム現地時間では、午後3~4時頃)でした。しかし、日差しは非常に強く、必ずしも時間帯に係わらず、日照状況などその時々の微気象との相関によって、決定されているものと思われます。

撮影個体のうち、緑春産とファンシーファン山産が春期(4月上旬)で春型、高黎貢山産と西嶺雪山産が夏期(7月末~8月上旬)で夏型に相当すると思われますが、サファイアフチベニシジミとは異なり、前翅表先半部の黒色部の広がりに於いては春夏で全く差異はありません(サファイアフチベニシジミの夏型同様の広がりを示します)。後翅裏面後縁沿いの赤色班は、春型で白色鱗を塗したような様相を呈し、後翅表後縁沿いの朱色班は、春型で発達が良く(色も鮮やか)夏型でやや発達が悪いといった、サファイアフチベニシジミの場合に似た傾向を示しますが、サファイアフチベニシジミのように顕著ではありません。(四川省二朗山で撮影の夏期の♀個体の裏面写真を、一応本種として紹介していますが、フカミドリフチベニシジミか本種かについては、不明です)。

なお、♂翅表が、鮮やかで明るい金色の金属光沢を示す雲南省緑春産・雲南省高黎貢山産に対し、四川省西嶺雪山産はやや緑がかった弱い光沢(飛び古した個体ゆえかも知れません)、ベトナム北部ファンシーファン山はオレンジ色を帯びる(ミャンマー産の所蔵標本も似た色調を示します)、といった差異が見られます。個体変異に由来するものなのか、地域的な(あるいはその他の意味を持つ)安定した変異なのかは、今後の検証課題です。










↑雲南省境に近い、ベトナム最北部ファンシーファン山3142m。









↑ファンシーファン山中腹の、キンイロフチベニシジミとウラフチベニシジミ♂の占有行動が見られる小渓流。













↑ファンシーファン山中腹 2010.4.4(同一個体)。







↑西嶺雪山(大邑原始森林)のキンイロフチベニシジミが棲息する渓谷。






↑おそらく、フカミドリフチベニシジミ、サファイアフチベニシジミも混生しているのではないかと考えられますが、渓流の上部では本種が主体になるものと思われます。花は野生アジサイのアスペラの一種。2009.8.9






↑飛び古した個体なので、正確なことは解らないけれど、ベトナム・サパ産とは反対に、赤色味がほとんど無く、金色というより黄緑色です。四川省大邑県西嶺雪山(大邑原始森林)中腹 1991.8.9






↑♀裏面。四川省天全県二朗山中腹 2009.8.3
成都西郊の山地には、キンイロフチベニシジミ、フカミドリフチベニシジミ、サファイアフチベニシジミの3種が分布している可能性があります。サファイアフチベニシジミに関しては、♀や翅裏面も他種との区別が可能ですが、僕は現時点ではキンイロフチベニシジミとフカミドリフチベニシジミの♀の区別点を把握していません。したがって、この写真の個体も、どちらの種なのかは不明です。







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2006.11.6 屋久島モッチョム岳 アズキヒメリンドウ 6

2011-03-20 09:30:04 | 屋久島 奄美 沖縄 八重山 その他




(第6回)アズキヒメリンドウ ④




花の後期に、花冠が内側に強く巻くことの多い伊平屋島産に対し、屋久島産では外側に強く反り返る花が多いようです。たまたま僕の観察したものがそうなのに過ぎないのか、有意な問題が含まれるのか、今後の調査課題です。

























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