青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

続・ベニシジミ物語 4 サファイアフチベニシジミ(その2)

2011-03-18 14:11:35 | チョウ
続・ベニシジミ物語 4 サファイアフチベニシジミ(その2)





↑浙江省杭州市西郊臨安県西天目山山麓 2005.4.12


(第4回)サファイアフチベニシジミHeliophorus sapher Ⅱ

このシリーズで紹介するベニシジミ族各種の大多数の写真は、2005年にデジタルカメラを使いだしてからのものです。また、Helleia属の3種とベニシジミLycaena phlaeasは、ポジフィルム(ヴェルビア)使用のカットも多いのですが、主に1995年以降の撮影。それに対して、このサファイアフチベニシジミだけは、1989年~1991年度の、四川省都江堰市(青城山山麓)における、ポジフィルム(コダクローム)使用の写真が、ほとんどを占めます。

1998年に『中国のチョウ』刊行後は、主な撮影・取材対象地域を、四川省から雲南省や陝西省や広西壮族自治区などに移してしまったために、この仲間の主役はフカミドリフチベニシジミ(およびキンイロフチベニシジミ&アオミドリフチベニシジミ)となり、四川省、ことに成都近郊の低山地域に多く見られたサファイアフチベニシジミに出会う機会は、めっきりと減ってしまいました。ここ数年、再び四川省を訪れる機会も増えたので、他地域(浙江省)産を併せ、『中国のチョウ』刊行後に撮影した個体のデータを紹介しておきます。

■2009年7月1日。四川省磨西県ミニャコンカ山麓。1♂撮影。正確には、ミニャコンカ登山口である磨西の村の手前、大渡江支流沿いの滝を車を止めて撮影中に出会った個体です。同行していた中村君が見付け、僕も慌てて撮影に加わりました(中村君は翅の裏面も撮影しています)。2010年8月9日。四川省宝興県東拉渓谷入口付近。1♂(+α)。「My Sentimental Jorney~東拉紀行」でも紹介。同時に♂翅表と翅裏を撮影していますが、別個体の可能性もあります。緯度は、北緯30°(磨西)、30°30′(宝興)付近で、青城山や西天目山山麓とほぼ同じですが、標高は明らかに高く、1500m~2000m辺りに位置するものと考えられます。ともに、前翅外縁黒色部が翅端部で広がり、後翅外縁の朱色班の面積が狭いという、典型的な夏型の形質を示しています。

なお、この一帯(成都西郊の比較的高標高の地域)では、キンイロフチベニシジミ(西嶺雪山)、フカミドリフチベニシジミ(二朗山)も、撮影しています(青城山山麓などの低地帯では、おそらくサファイアフチベニシジミ単独分布)。ただし、この3種を同時に見かけたことはありません(二朗山で撮影した1♀の帰属は未定→キンイロフチベニシジミの項で写真紹介しています)。四川省における3種の相互関係の実態は、今後の検証課題です。

■2005年4月12日。浙江省臨安県(杭州市西郊)西天目山山麓。1♂撮影。『中国のチョウ』に、1989年度の観察・撮影例を記述した場所と、同一地点。『中国のチョウ』では、標高約400mとしていますが、ここでは約200mとしておきました。手元に等高線の入った地図がないため、正確な標高は解らないのですが(判明次第記述します)、いずれにしても、東シナ海沿海部(杭州湾)の杭州市中心部から左程離れていない、山際の低地帯です(西天目山登山口)。同じ時期が発生盛期となる、ヒイロクモマツマキチョウの撮影が主目的で、1989年の場合も、2005年の場合も、ヒイロクモマツマキチョウ撮影中に、同じく成都近郊に多産するキマダラサカハチチョウ共々、畑の縁でたまたま出会ったものです(見つけたのはスーリンで、ヒイロクモマツマキチョウ撮影を中断、あわてて駆けつけて写したのが、この写真です)。

1989年、2005年とも、撮影時期は、主に1989~1991年の成都市西郊の青城山山麓と同じ頃(4月上~中旬)、成都西郊産について言えば、この時期の撮影個体は、全て典型的な春型の特徴を示していますが、浙江省産は、夏型との中間的形質を現わします。すなわち、♂翅表外縁の黒色部が先端付近で夏型のように太くなり、しかし典型的な夏型と違って、後翅外縁の橙色班は、鮮やかで太い春型的特徴を示します(1989年に撮影した裏面の特徴も中間的)。また、尾状突起も、典型的な春型(通常極めて短い)よりは幾分長めですが、夏型に比べれば明らかに短いと言えます。

季節のみでなく、両地域とも、北緯30°~31°(屋久島~種子島に相当)の間に位置し、標高も左程変わりなく(海抜換算では青城山山麓のほうが幾分高い)、地形的にも類似しています。なのに片方(成都近郊産)は典型的な春型、片方(杭州近郊産)は夏型との移行型、というのは、どのような訳があるのでしょうか?異なる分類群に属する(浙江省の♂ゲニタリアは未検鏡)可能性もなくは無いでしょうが、外観で判断する限り、全く相同と考えて差し支えないと思います。おそらく、季節型(ベニシジミ類の場合は、日本のベニシジミなどもそうですが、明確な季節型があるのではなく、低温または短日期と高温または長日期との間で、表現形質が連続的に移行していきます)の形質形成に与える気候的要因が、同一季節、同一緯度・標高といっても、背後に5000~7000mクラスの高山を控えた内陸盆地の縁の成都近郊と、周囲には2000m未満の山しかない沿海部の杭州近郊では、微妙に異なるのではないでしょうか。

興味深いのは、(『中国のチョウ』にも触れていますが)青城山をはじめとする成都西郊の低山帯に於いて、本種とともに極めて普通に見られるキマダラサカハチチョウが、ここ杭州西郊でも混在しているということです。両種は、一般には中国西部を代表する種のように思われがちですが、実際は、より西方では(それぞれ近縁別種の、アカマダラモドキやオオサカハチチョウ、フカミドリフチベニシジミやアオミドリフチベニシジミと入れ代るように)姿を消し、逆に遥か東方の長江河口付近に姿を現すわけで(中間地域の湖北省などに於ける実態検証が必要ですが)、このような種から成る「長江中~下流域固有生物」という分布型のカテゴリーを設置せしめても良いのではないか、と思っています。






↑サファイアフチベニシジミ、キマダラサカハチチョウ、ヒイロクモマツマキチョウの棲息する、西天目山山麓の畑の縁の雑木林。浙江省臨安県2005.4.10。
上の写真は、デジタルを使いだして最初のカットの一つです。その1年ほど前から仕事(旅行本の取材)用には簡単なデジタルカメラを使ってはいましたが、蝶の写真をデジタルで撮影したのは、この日が初めて(ヒイロクモマツマキチョウの翅を閉じたカット)。その直後、西天目山に登山中に、買ったばかりのデジタルカメラが雨に濡れてしまって、作動しなくなってしまいました(デジタルはアナログより雨に弱いのです)。そこで、翌日、翌々日の撮影は、(上海のニコンへ修理に出すまでの間)予備に持っていたアナログカメラを代用することにしました。最初に紹介した、サファイアフチベニシジミ♂のカットが、その時の撮影。ということは僕がポジフィルム使用のアナログカメラで写した、最後の写真の一つということになります(のち半年ほどはアナログカメラも持ち歩いていて、風景や花は念の為両方で撮影していましたが、結局ポジフィルムのほうは現像しないまま今に至っています)。





↑1989.4.9 浙江省臨安県。2005年度と同じ場所での撮影(♂)。この時もヒイロクマキチョウ撮影中に、キマダラサカハチチョウと共に姿を表しました。今回(2005年度)とは逆に、キマダラサカハチチョウは何とか撮影できたのだけれど、サファイアフチベニシジミの撮影には失敗。でも、かろうじて同定は出来ます。後翅裏面後縁朱色帯は白色鱗粉を塗し(典型春型に比べればやや軽微)、尾状突起は典型春型に比べればやや長めで、2005年撮影個体の翅表の特徴と軌を一にします。








↑吸水中の夏型。四川省都江堰市青城山山麓 1989.6.20







↑キツネアザミの花で吸蜜中の夏型2♀。四川省都江堰市青城山山麓 1989.6.14 







↑交尾中の夏型♂♀。裏面の黒条は僅かに現れますが、フカミドリフチベニシジミなど近縁3種に比べれば、明らかに不明瞭です。四川省都江堰市青城山山麓 1989.8.1










↑夏型♀。春型同様に、朱色班は内側に湾曲する傾向があります。四川省都江堰市青城山山麓1989.6.19(上)/1989.6.9(上と下)









↑夏型♂。前翅外縁黒帯の上部が広がり、後翅外縁の朱色帯は、春型に比べ、明らかに発達が悪くなります。四川省都江堰市青城山山麓1989.6.14(上)/1989.6.8(下)








↑夏型♂。後翅裏面外縁沿い朱色帯(の内縁の白帯)は、中程(第4-5室)で強く湾曲する傾向があります(近縁3種やウラフチベニシジミではストレート)。四川省宝興県東拉1989.6.14。宝興県の産地は「東拉紀行」で紹介済み。








↑上2枚とも中村君撮影。僕のより、ずっと良い色が出てる! 悔しいなあ、、、、落ち込んでしまいます。腕の差ではなく、カメラの違いだと思いましょう。






↑中村くんに、オーイ!と呼ばれて、駆けつけて写しました。もっと地味な色だったのを、鮮度を上げて、やっとこの程度です。ミニャコンカ山麓の磨西の村の手前付近にて 2009.7.1 







↑磨西県の撮影地は、ミニャコンカ7556m(写真の左のピーク、1989.5.2撮影)の山麓で、海螺溝入口に近い大渡河の一支流沿いの路傍(標高1600m付近)。ミニャコンカ紀行は、「2009.7.2“20年ぶりのミニャコンカ”」で近く紹介を予定しています。





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2006.11.6 屋久島モッチョム岳 アズキヒメリンドウ 4

2011-03-18 13:59:42 | 屋久島 奄美 沖縄 八重山 その他



(第4回)アズキヒメリンドウ ②



鬱閉した林内に下向きに咲いているので、木漏れ日が当たっていない時は、露出を周囲に合わせて自然光で下から花を写すと真っ黒(上)、露出全開にして、軽くストロボの光を入れてみました(下)。










ストロボ光の同調仕方によって、雰囲気が随分と変わります。












強いストロボ光のみでの撮影。











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