青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

続・ベニシジミ物語 3 サファイアフチベニシジミ(その1)

2011-03-17 11:29:46 | チョウ






↑四川省成都市西郊都江堰市青城山山麓 1989.4.14 





(第3回)サファイアフチベニシジミHeliophorus sapher Ⅰ

《Heliophorus sapherの♂外部生殖器構造について(被検標本:四川省都江堰市産)》
*第1回「はじめに」で述べたように、『中国のチョウ』からの転載(全て僕自身の観察)です。形質ごとのまとめから、種ごとのまとめに、文脈を入れ替え、学名と和名を併記しました(『中国のチョウ』では数字記号に変換)。外部生殖器各部分の簡単な説明は「はじめに」(*)を参照して下さい。また、その他の観察事例についても、原則として、語調の変更のみを行い、『中国のチョウ』記述文をそのまま引き写しました。注約を付した部分は文中に*印で示し、新たな観察については、末尾に『追記』として記述しました。

翅の色や斑紋などの外観は、中国大陸南部や台湾から東南アジア各地に広く分布するウラフチベニシジミHeliophorus (Heliophorus) ilaや、その近縁種のHeliophorus (Heliophorus) epiclesによく似ていて、通常同じHeliophorus属に含められますが、雄交尾器の形状差は顕著で、以下に述べるキンイロフチベニシジミHeliophorus brahmaやフカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctata、さらにアオミドリフチベニシジミHeliophorus androclesともども、類縁的にはかなり離れて位置付けされるべきものと思われます。

しかし上記2種に対しても、valvaがきわめて横長なこと、juxtaの翼も前後に長いことなどの明確な差があり、一見したところ雄交尾器の概形は、むしろオオベニシジミLycaena(Rapsidia)disperやミヤマムラサキベニシジミLycaena(Rapsidia)standfussiに類似しています。また、vinculum背後縁が著しく突出し、鋭く尖った遊離板となり、この傾向に限っていえばアオミドリフチベニシジミHeliophorus androclesと共通します。

【全体の大きさとプロポーション】
●ミヤマムラサキベニシジミLycaena sutandfussiと並ぶ最大種。最小種のメスアカムラサキベニシジミHelleia tseng、シロオビムラサキベニシジミHelleia pang、オナガムラサキベニシジミHelleia liに比べて、juxta長で約3倍、valva長で約2倍の差があります。valvaやjuxtaが前後に長くスリムな点も、ミヤマムラサキベニシジミと共通します。

【Saccusの発達度】
●ウラフチベニシジミHeliophorus ilaのように著しく長くはなりませんが、キンイロフチベニシジミHelleia brahma、フカミドリフチベニシジミHelleia viridipunctata共々、他の各種に比べればやや長めです。

【Sociusの形状】
●基部が太く後半が内側に湾曲して先端が鋭く尖り、対で「クワガタ」状になります(キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma、フカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctataと共通、ただし2種に比べ対の幅が狭い)。

【Falxの発達程度】
●ベニシジミ族としては平均的(著しく細長いウラフチベニシジミHeliophorus ilaを別格とすると、オナガムラサキベニシジミHelleia li が最もよく発達、メスアカムラサキベニシジミHelleia tsengが最も発達が悪い)。

【Vinculum背後縁の張り出し】
●アオミドリフチベニシジミHeliophorus androclesとともに、大型の突起状を成します(シロオビムラサキベニシジミHelleia pang、キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma、フカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctataも顕著に張り出しますが、突起状にはなりません)。

【Valvaのプロポーション】
●前後長が長く、幅の5~6倍、扁平で後方が細まったのち後縁が広がります。ミヤマムラサキベニシジミLycaena standfussiに似ていますが、後縁は丸みをおびて微細な粒状突起を伴います。

【Costaの発達程度と、Juxta側翼との連接状況】
●広く扁平な板状遊離突起となり、屈曲し強く張り出したjuxta側翼と連接します(キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma、フカミドリフチベニシジミHeliophorus.viridi-puncutataと異なり、costa上方のvalva背基縁は2分しません)。

【Juxta両翼面の角度】
●ミヤマムラサキベニシジミLycaena standfussi、キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma、フカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctata共々、ほぼ90度(ベニシジミLycaena phlaeasでは、きわめて急、その他の種はごくゆるやか)。

【Juxtaの翼の形状】
●主翼が前後に極めて長く、左右の幅の約2倍、valva長の約4/5、大きさや概形はミヤマムラサキベニシジミLycaena standfussiと似ていますが、主翼先端はさらに鋭く突出し、下翼は袖状に発達せず、袋状部分がごく狭いことが相違点です。

【Juxtaの腰からsaddleにかけての状況】
●キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma、フカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctata共々、腰の位置が低く、翼面はvalva内面に近づき、腰からsaddleにかけての部分は一様に幅の広い面状となります。

【Phallusの形状】
●ベニシジミ族の一般形。種ごとにいくらかづつの差はありますが、著しい特徴を示すシロオビムラサキベニシジミHelleia pangとウラフチベニシジミHeliophorus ilaを除く各種とは、ほぼ共通します。


   

     



サファイアフチベニシジミ Heliophorus saphir [♂翅表]
(全て別個体)
1段目中:春型♂:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.15
1段目右:春型♂:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.16
1段目左:春型♂:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.16
2段目左:春型♂:浙江省臨安県西天目山山麓(標高約200m) 2005.4.7
2段目中:春型♂:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.13
2段目右:春型♂:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.13
3段目左:夏型♂:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.7.9
3段目中:夏型♂:四川省宝興県東拉渓谷(標高約1800m) 2010.8.9
3段目右:夏型♂:四川省磨西県市東ミニャコンカ山麓(標高約1700m) 2009.7.1
   

   

   


サファイアフチベニシジミ Heliophorus saphir [♀翅表と♂♀翅裏]
(全て別個体)
1段目左:春型♀:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.14
1段目中:春型♀:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1990.4.8
1段目右:春型♂裏面:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.15
2段目左:夏型♀:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.6.9
2段目中:夏型♀:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.6.19
2段目右:春型♂裏面:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.15
3段目左:夏型裏面(交尾):四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.8.1
3段目中:夏型♀(産卵):四川省都江堰市玉塁山(標高約800m) 1991.8.7
3段目右:夏型♂裏面:四川省宝興県東拉渓谷(標高約1800m) 2010.8.9

《サファイアフチベニシジミHeliophorus saphirの分布と生態について》

四川省成都市西郊の青城山周辺には最も普通な蝶のひとつで、ここでは日本のベニシジミLycaena(Lycaena)phlaeasに代わる生態的位置を占めているように思えます。長江流域に沿って東西に広く分布し、成都から東へ2000km程離れた浙江省の杭州市近郊でも本種を撮影しています(1989年4月15日、西天目山山麓Alt.400m)が、青城山周辺以外の成都市近郊をはじめ、重慶市近郊、西安市近郊などでは未見出、多産する地域は限られているものと思われます。なお青城山周辺で見られるベニシジミ族は本種のみで、逆に多数のベニシジミ族の種が混棲する雲南省北部などでは本種を確認していません。

雄の翅表は金属光沢のある青緑色、雌は褐色の地に赤紋を有し、その姿は一見ミドリシジミ類を思わせます。しかし、彼らのように樹上性ではなく、林縁や渓流沿い、路傍などに生える草本や低木上によく見られます。雄の占有性は顕著で、翅を水平に開いて葉上に静止し、別の雄が近づくとすぐに飛び立ってこれを追い激しくもつれあいますが、一部の高等ゼフィルスに見るような明瞭な卍どもえ飛翔をなすまでには至りません。飛翔時は一斉に数頭~10数頭がもつれあい、追飛を行わないときは数mおきにほぼ等間隔の距離を保って、いくつもの個体が葉上で翅を平開したまま静止しています(ひとつの畑の周囲に多い時は20頭を超え、その中にはごく新鮮な個体から、かなり汚損が進んだ個体まで混在しています)。春・夏とも、追飛行動は日中の短時間(主にPM2:00~3:00頃の一時間弱)に限られていて、その活動時間帯の中で、雄が一斉に飛び立って行う目まぐるしい追飛翔と、平開姿勢をとっての静止を繰り返します。

雄は吸水性も顕著で、主に晴れた日の午前中、上記の畑のすぐ下を流れる渓流の、岩と岩にはさまれた砂地(地元の住民が料理の準備や洗濯の場として利用している)に、マドタテハDilipa fenestra、チュウゴクコムラサキApatura here、キマダラサカハチチョウAraschnia doris、ヒメフタオチョウPoliura narcaea、シロヘリスミナガシStibociona nicea、カバタテハモドキPseudergolis wedah、タイワンホシミスジLimenitis sulpitia、アカキマダラヒカゲNeope bremeri bremeri、ムラサキヒメキマダラヒカゲZophoessa violaceopicta、ウスアオヤマキチョウGonepteryx amintha amintha、マルバネエグリキチョウDercas wallichii、チュウゴクスジグロチョウPieris napi mandarina、クジャクカラスアゲハPapilio bianor、ルリモンアゲハP.paris、タイワンタイマイGraphium cloanthus、ユウマダラセセリAbraximorpha davidii、ムモンマエルリシジミOrthomiella sinensis、オオスギタニルリシジミCelastrina sugitanii lenzeni、ルリシジミC.argiolus、タッパンルリシジミUdara dilecuta、などとともに訪れ、ときにはサファイアフチベニシジミだけで10頭近い吸水集団を形成することもあります。岩上の鳥の糞で吸汁していることも多く、また、雌雄ともに訪花性も顕著で、路傍に咲くキツネアザミには、フィールドベニモンキチョウColias fieldiiとともに好んで訪れ(‘89年6月11日の観察では午後7:00頃まで吸蜜行動が見られた)、ナノハナやキイチゴ属Rubusの花でも吸蜜中の個体をよく見かけます。

雌は、雄とは平時の活動空間を異にするものと思われ、雄が占有中の畑の縁を緩やかに飛翔していたり、稀に吸水集団の中に混じっていたりしますが、一般には雄とは離れて単独でいることが多いようです。産卵は1991年8月6日AM11:30頃、雄の多い比較的明るい渓流沿いや畑の周辺とは著しく異なった環境の、イナズマオオムラサキSasakia funebrisの多産する玉塁山山頂付近の鬱閉した林内で観察しています。尾根上に近い石段の縁に横倒しに生える茎高10cmほどの半藤木性タデ科植物の周囲を、腹を曲げたまま歩き回り、葉縁に2卵を産付しました。交尾は89年8月1日PM5:30頃、青城山山麓の集落に近い路傍の草上で撮影しています。

第1化成虫は4月(上~中旬にきわめて多く、3月後半に出現)、第2化は6月(5月後半に出現)がピークで、7~8月に見られる個体は第3化に相当するものと思われますが、第2化以後の出現にはばらつきが予想され、正確なところは解りません。第1化(春型)と第2化以後(夏型)では、翅型や斑紋に顕著な差を示し、かつては互いに別種とされていたこともあります。春型は尾状突起が短く、後翅裏面外縁沿いの赤色帯の上に白色鱗が塗ぶしたように重なる傾向を示し、雄の翅表は金属光沢青色部が外縁を除く翅全面に広がり、雌翅表の赤色紋も大きい、といった特徴があります。夏型は後翅に明瞭な尾状突起を有し、後翅裏面外縁は鮮赤色で、雄翅表は外縁の黒帯が発達して(ことに翅頂部は黒色帯が著しく広がる)金属光沢青色部が狭く、雌翅表の赤色班もやや小さいことなどが特徴です。ただし、春型と夏型は明確に入れ代るのではなく、5~6月頃にはどちらの型とも判断し難い移行的な形質をもつ個体も、少なからず見出されます。これらの傾向は、日本産ベニシジミの季節変異のパターンと軌を一にするといって良いでしょう。秋期の状況は未確認ですが、晩夏から秋にかけてさらに数回出現するものと思われ、日本のベニシジミ同様に、晩秋の最終世代が春と同じタイプに戻るのかも知れません。




 





↑1989年から1991年にかけて毎日のように訪れていた青城山山麓の小渓流。この周辺だけで50種近い蝶を撮影したと思います。1995年に再訪した時には、新築のホテルに続くアスファルト道路が作られ、跡形も無くなってしまっていました。下の写真左上に見えるのは、黄花のヒガンバナ属野生種。








↑山麓の小渓流に吸水に来た春型♂(上の写真左はタテハチョウ科コムラサキ属のマドタテハ) 四川省都江堰市青城山1989.4.16







↑キイチゴの仲間の花で吸蜜中の春型♂ 四川省都江堰市青城山1989.4.16






↑葉上で占有姿勢をとる春型♂ 四川省都江堰市青城山1989.4.16


 





↑春型♂ 翅表の金属青色鱗の面積が広く、後翅後縁の朱色帯が発達し、尾状突起は短い。四川省都江堰市青城山1989.4.14-15 









↑春型の翅裏面 後翅裏面外縁の朱班は白色鱗で塗されています。近縁3種(フカミドリフチベニシジミ、キンイロフチベニシジミ、アオミドリフチベニシジミ)と異なり、黒条はほとんど発達しません。四川省都江堰市青城山1989.4.15









↑春型♀ 夏型に比べ前翅表の朱色班がより大きく現れます。朱色班の概形は、単調な楕円型のフカミドリフチベニシジミに比べ、外側に膨らみやや内側に膨らむ傾向があるようです。写真上の個体のように、基半部に♂と同じ青色金属光沢鱗が僅かに出現することもあります。四川省都江堰市青城山(上)1989.4.14(下)1990.4.8







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2006.11.6 屋久島モッチョム岳 アズキヒメリンドウ 3

2011-03-17 11:23:15 | 屋久島 奄美 沖縄 八重山 その他





(第3回)アズキヒメリンドウ ①




急坂を登り始めてしばらくするとアズキヒメリンドウが現れます。












でも道脇の崖っぷちに下を向いて咲いているものですから、撮影は至難の業です。







こんな風に三脚を横に寝かせてカメラをくっつけたり、、、







崖の縁ぎりぎりまで後ずさりしてアングルを狙ったりと、苦心を重ねねばなりません。







「屋久島にも沖縄と同じ明るい薄緑の花が咲いてる」との指摘もありますが、花の裏側を上から見て、“淡緑色の花”と間違えたのではないでしょうか?











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