金融法務事情の2/5号に「熱血対談 金融円滑化法実務の定石」という連載の第2回「件数は結果であり、目標にあらず」がけっこう「熱血」で面白い、というか緊急対策の政策立案の難しさのいい実例になってます。
以前、亀井大臣のモラトリアム発言の時のエントリ(参照)でちょっと触れたように、前のバブル崩壊局面において中小企業への融資が形式上は中小企業になる投資ビークルとしてのSPCへの融資にすり変わって行ったということが、今回も起きるのではないかという指摘がなされています。
小田(大輔弁護士) パブコメ(金融円滑化法政府令関係5番)によれば、SPCのうち会社法上の会社に該当するものは「中小企業者」に含まれるとの見解が示されており、線引きと言う意味では明らかなのですが、立法当時、当局は、流動化のビークルとしてのSPCはほとんどが会社法上の会社に該当しないとの認識のもとに、会社法上の会社でないSPCを適用除外としておけば足りると考えていたようです。ただ実際には、合同会社をビークルにして不動産の証券化をしたりしているケースがあるわけです。SPC(合同会社)に対するノンリコースローンの条件変更等を促進しても中小企業金融の円滑化に直接つながらないし、法の趣旨からは外れると思いますが(以下略)
行方(洋一弁護士) パブコメで「立法事実の認識に誤りがあるのではないか」とされているものですね(以下略)
このコメントを付けた人の心意気は立派だと思いますが、金融庁は立法の際に実地に検査に入っているSESCなどにSPCの実態をヒアリングしたりはしなかったのでしょうか。
行方 結局この論点は、一昔前に中小企業向け融資の実績を積み上げるためSPCや大会社の関連会社などが悪用されたことが、金融円滑化法でも防ぎきれてないということでしょうか。
小田 ご指摘のとおりだと思います。
ちなみに一般企業の名誉のために言えば、一昔前に「悪用」したのはもっぱら銀行が自分のノルマを消化するためや不良債権の「飛ばし」会社の延命のためだったように記憶しています。(当然結果的に恩恵をこうむった企業があるのは事実ですが。)
行方 現時点では、法令を改正するのも容易ではないでしょうから、悪用事例については、検査や監督を通じて検出するしかないのかもしれませんが(以下略) そうはいっても「悪用」と断定するのは難しい、という話になります。
小田 ノンリコースローンについては、今の不動産市況を反映して、債務の弁済に支障を生じており、又は生ずるおそれのあるもの」に該当するケースもあり得ると思いますので、その場合に・・・実績として積み上がっていくことには、やはり違和感があります。
ダヴィンチのように、あきらめ早くSPCをデフォルトさせるところがあると、特にそうですね(参照)。
小田 しかし、法令上、開示・報告対象に該当する場合に、逆にそれを集計していなかったら、かえって問題になりませんか? (中略)
行方 たしかに行政側での明確化を期待したいですね。もっとも、金融機関側でも、条件変更等の目標数値を掲げるような取り組みが、怪しげな事例を紛れ込ませる原因になっているのではないでしょうか。 (中略)
小田 理念はわかるのですが、法令上除外事由に該当しない場合のSPC向け貸付債権について、現実に条件変更をするケースもあり得て、それを開示・報告するのが不適切だというのも一方で言いにくいでしょう。
行方 だからといってSPC等を悪用して積み上げをしてはいけない、そういう常識的な線ではないでしょうか。
小田 そういう意味では・・・開示・報告に関する態勢整備上の問題が見受けられることはあり得るのかもしれませんが、問題になるのはきわめて悪質なケースに限定されると私は思います。
行方 個々の債務者実態をきちんと把握していない段階で、目標数値などを決めるからおかしくなるのですよね。ここのあたりは運用上なかなか悩ましいですが、金融機関側でも意識改革が必要かもしれませんね。
金融機関の業界紙にしては、「熱血対談」というだけあってかなり踏み込んで言及されていますが、「いのちを守る」政策の前には「自分を守る」という壁が立ちはだかっていることがよくわかります。
そのへんのインセンティブを調整するのが政策立案の腕の見せ所だと思うので、せっかくの「政治主導」であれば掛け声だけでなく作り込みの部分でこそ力を発揮していただきたいと思います。