一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』

2010-02-03 | 乱読日記

2006年に亡くなった、ロシア語通訳の第一人者であると同時に名エッセイストであった米原万理さんの名作です。

僕は本については大事と思う本ほど読むのがもったいなくて後にとっておくという妙なクセがあって、前世はひょっとしてリスかハムスターなのではないかとときおり思うのですが(そうだとするとけっこう短い前世ですが)、これもしばらく熟成させてあった本。  

米原さんが1960年、10歳のときから4年間を過ごしたチェコスロバキア(当時)のプラハにある「在プラハ・ソビエト学校」に通っていた各国からきた友人達を、ベルリンの壁・ソビエト連邦の崩壊、ボスニア紛争後に消息を訪ねて探し出すドキュメンタリーです。  

人格を形成する時期に知り合った友人たちの、子ども時代の思い出と再会までの人生が、それぞれの時代背景にどのように影響されてきたかが印象深く描かれます。

巻末に斎藤美奈子の秀逸な解説がありますので、詳しくはそちらをご参考にされたほうがいいと思います(本屋で立ち読みでもしてください)。

「」たしかに、社会の変動に自分の運命が翻弄されるなんてことはなかった。それを幸せと呼ぶなら、幸せは、私のような物事を深く考えない、他人に対する想像力の乏しい人間を作りやすいのかもね」
「単に経験の相違だと思います。人間は自分の経験をベースにして想像力を働かせますからね。不幸な経験なんてなければないに越したことはないですよ」

これは米原さんと、ルーマニアのブカレストでのガイドの青年との会話。

他のエッセイを読んでも他人に対する想像力の塊のような米原さんをしてそう言わしめるほど、友人たちの人生も波乱に満ちています。
その一方で、子どものころと同じ表情を、30年後の顔の中に見出す米原さんの暖かい視線も印象的です。

 



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