一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『貧困のない世界を創る』

2009-02-16 | 乱読日記
2006年度のノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の著書です。

グラミン銀行やマイクロクレジットの話は既にいろいろなところで紹介されているので省略します。

感銘を受けたのは、ユヌス氏の活動があくまでも資本主義と自由市場をベースにしながら、それについての広い視野と深い洞察に基づいて事業を設計しているところです。

貧困の定義の国際的な基準は収入が1日2ドル以下の人々のことをさすそうですが、貧困地域ではその2ドルの収入すら高利貸し・原料供給・製品購入者に収奪されているという現状-ある意味では資本主義のメカニズムが末端にまで徹底している-という現状を認識した上でグラミン銀行を立ち上げたユヌス氏は、それだけに資本主義・自由市場のメカニズムを冷静に認識しています。

そして、自ら提唱し実践する「ソーシャル・ビジネス」は営利企業と一線を画す厳密な定義をし、企業との合弁においても細部においてまでルールの透徹にこだわります。営利企業のCSRの一環に取り込まれることなく(それはあくまでも「営利事業」です)、また貧困の解消に直接に役立つ事業であるか(非営利でも中間層・富裕層がメリットを受けるのでは意味がない)など、出資形態から事業の細部に至るまで目を行き届かせています。

そうしないと組織は自然と規模の拡大など営利企業と同じ指標を目的にしがちになってしまうという危険性を誰よりも認識しているからだと思います。


レーニンは「資本主義を破壊する最上の方法は通貨を堕落させることである」と言ったそうですが、ユヌス氏は「資本に徹底した真面目さを求めることで貧困の撲滅は可能になる」という壮大な実践をしているように思います。


日本企業でもCSRが叫ばれていますが、営利企業が行う(またはそれぞれの勤務先や業界団体で行っている)「R(responsibility)」の定義を厳密に考え直してみるいいきっかけにもなると思います。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする