一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

被害者国選弁護?

2008-01-22 | 法律・裁判・弁護士

被害者国選弁護 費用返還求めず 法務省案を自民了承
(2008年1月19日(土)04:15 産経新聞)

刑事裁判に犯罪被害者らが参加する「被害者参加制度」をめぐり、法務省は18日、公費で選任される弁護士費用については原則、被害者側に返還を求めないなどとする原案を自民党司法制度調査会などの合同会議に示し、了承された。同省は総合法律支援法などの改正案を通常国会に提出する方針。

久しぶりにものすごい違和感を感じた報道です。

法律の改正案がすぐに調べられなかったのですが、被害者参加制度の概要は、殺人や業務上過失致死傷などの犯罪において被害者や遺族が一定の制限付きで、被告人質問や量刑に関する意見陳述などをすることができるというもののようです。

違和感の中身は

① なぜ被害者の意見陳述に代理人として弁護士が必要で、弁護士に限らないといけないのだろうか。
被害者の気持ちを伝えるのならマスコミやジャーナリストでもできるのではないか。弁護士に限定する理由は何か?
刑事訴訟制度上被害者は被告人に対峙する立場ではないので、法律紛争の代理人ではないし、弁護士法上も弁護士の職業独占にする必然性はないのではないか
(あくまでも国選弁護人を選べるということで弁護士の職業独占にはしていないのかもしれませんが)

② 弁護士が被害者の代理人になったとして、刑事訴訟法上は推定無罪の被告人に対してどのようなスタンスで被害者の心情を伝えるのだろうか。
もし弁護士に限るとするなら誰かの法律的権利を保護する必要があるからでしょうが、被害者は意見陳述をするだけなのでこれ以上権利を侵害されるおそれは少ないように思います。
そうだとすると被告人の人権を保護する、ということになるのでしょうが「あなたのせいでこうなった!」という発言は弁護士としては職業倫理上言えない(言うべきでない)はずで、「もしあなたが犯人だとしたら、(または、あなたかどうかはわからないが犯人のせいで)私はこのような苦しみを受けた」としかいえなくなります。
でもそれは被害者にとって歓迎されることなのでしょうか。

弁護士を代理人として選任することは、制度自体の矛盾点を浮き彫りにする感じがします。
 
日弁連からは昨年の3月に会長声明として被害者の参加制度新設に関し慎重審議を求める会長談話が出されているようです。

 これまで、犯罪被害者等が、経済的補償の面でも、また医療・精神的ケアの面でも、十分な支援を受けられずにいたことについて、われわれは真摯に反省し、当連合会は、犯罪被害者等補償法の制定及び公費による被害者の弁護士選任制度の導入が早急になされるよう強く要請するものである。

(中略)

被害者参加制度には、以下に述べるような裁判現場での影響を考慮すべき様々な問題点がある。

まず、犯罪被害者等の生の声を被告人に伝えることの重要性は理解できるが、既に被害者等の意見陳述制度が導入されている。さらに被告人に対し、直接法廷で犯罪被害者等の生の声を尋問や求刑という形で対峙させるよりも、検察官や弁護人を介して伝える方が被告人に冷静に受け止められて反省を促すには有効であり、実際そのような努力がなされている。

また、本来刑事手続が予定しているところとは異なり、結果の重大性に圧倒され、検察官の主張に対して言うべきことが言えない被告人は少なくない。特に、正当防衛の成否、被害者の落ち度、過失の存否という重大な争点について、結果が悲惨であればあるほど、これらの点を主張すること自体が心理的に困難な状況に置かれている。法廷で犯罪被害者等から直接質問されるようになれば、被告人は沈黙せざるを得なくなる可能性がある。

そのほか、被害者参加制度が現行の刑事訴訟法の本質的な構造である検察官と被告人・弁護人との二当事者の構造を根底から変容させるおそれがあることや、犯罪被害者等の意見や質問が過度に重視され、証拠に基づく冷静な事実認定や公平な量刑に強い影響を与えることが懸念される。

これも若干違和感があります。
反対の論拠としては「そのほか」の部分が一番大事なんじゃないでしょうか。
一番最初に「犯罪被害者等の生の声を被告人に伝えることの重要性は理解できる」と言ってますが、推定無罪の被告人に被害者の声を伝えることにどのような意味があるのでしょうか。
そのこと自体が「精密司法」を追認しているのではないでしょうか。
個人的には精密司法にもそれなりのメリットはある(応報刑的考えよりはある意味健全)と思うのですが、少なくとも日弁連が追認しちゃまずいんじゃないでしょうか。


また、日弁連会長声明の言う「公費による被害者の弁護士選任制度」というのは、ざっと検索した範囲では「犯罪被害者補償法」というのはドイツの「暴力犯罪被害者補償法」という国が被害者への経済的補償をする制度を手本にしているようです。
またドイツの刑事訴訟手続きでは、①被害者の手続参加(異議申立、忌避、陳述権など)や、②被害者の情報取得(記録閲覧)、③弁護士の付添い・支援、④被害者のプライヴァシー保護などが認められていて、さらに2004 年の「被害者の権利に関する法律」で公費により被害者弁護人(付添人)をつける権利が認められたそうです。(参照

このような背景(と私は考えたのですが)のなかで「犯罪被害者等補償法の制定及び公費による被害者の弁護士選任制度の導入が早急になされるよう強く要請するものである。」といっておきながら「慎重審議」というのもちょっと説得力に欠ける感じがします。

ビジネスチャンスが増えるとすれば、反対もしづらい、ということなのでしょうか。


上のドイツの例による被害者の「異議申立」「忌避」(それぞれ何に対してなのでしょうか?)とか被害者のプライヴァシー保護という部分については弁護士の選任というのも意味があると思います。
ただ、ドイツ流に刑事訴訟制度を大きく見直すのではなく、被害者の意見陳述を認めるだけなら国選弁護人を雇うまでのこともないように思います。

また、ドイツではボランティア団体が被害者支援を行っているということで、国選弁護制度が導入されたとしても、弁護士法の職業独占を認める必要はないのではないでしょうか。


依然としてよくわからない問題なのですが、このまま進むのはなんとなくよくないのではないかという感じがしているので、折を見てフォローしたいと思います。
また、単に私が良く調べもせずに脊髄反射的に文句を言っているだけなのかもしれませんので、制度の概要や論点などをご存知の方がいらしたら教えていただけると幸いです。



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