表題は英文のタイトルです。
邦題は『マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった』という副題を入れると相当長いタイトルですが、英語の表題の方が本書の中身をよく表していると思います。
著者はマイクロソフトのアジア担当のマーケティング・ディレクターに30代前半で昇進し(マイクロソフトにとっては普通のことなのかもしれませんが)多忙な毎日を送っていました。
あるとき休暇をとってネパールのトレッキングに行き、教室が不足し、図書館には子供の読む本や地図すらない(欧米人旅行者の残していった大人向けの本がしかも施錠されてしまわれている)という現実をも目の当たりにします。
このとき、校長と子供たちの読めるような本を持って学校に戻ってくると約束した著者は、友人知人にメールで図書や絵本の寄贈を訴えかけます。
そのメールが思わぬ反響を呼び、集まった大量の本を届けるうちに、著者はマイクロソフトを退職しネパールの他の地域にも広くこの活動を広げようと決意します。
本書はそれから著者が「Room to Read」というNPOを立ち上げ、1999年12月から2007年6月までで活動をネパールからベトナム、カンボジア、インド、ラオス、スリランカ、南アフリカ、ザンビアと広げ、それらの国に英語の児童書140万冊以上、学校287校、図書館3540箇所、コンピュータ教室と語学教室117箇所建設するに至る大きな活動に広げるまでの物語です。
著者は使命感(これ自体が根がいい加減な僕などは圧倒されるものがあり「キリスト教の人は違うなぁ」などと他人事にしたくなってしまうのですが)に加え、目的達成のための計画を周到に行い、大胆に実施する能力を発揮します。
Room to Readの活動の基本は単なる援助でなく地元との「共同事業」にあります。
Room to Readが図書や資金を提供する一方で、地元は土地やボランティアでの労働力を提供します。そうすることで、出来上がった学校や図書館を自分のもの、自分たちが作ったものと考え、大事に育てて定着していくことになります。
そしてまた、Room to ReadはNPOとしては珍しくフルタイムの有給のスタッフを一定程度抱えることで業務の効率化を図っています。
著者は、組織作りにはマイクロソフトで学んだことが大きく役立っていると言います。
マイクロソフトでは「大きく行け、それができなければ家に帰れ」と言われていた。これこそ、何か変化を起こしたいすべての人に送るアドバイスだ。k等の世界が直面している問題はとてつもなく大きい。少しずつと言っている暇はない。時間と勢力をつぎ込む価値のある目標があるなら、大きく考えるべきだ。
大きく考えれば、目標はおのずと実現する。大胆な目標は大胆な人々を引きつけるからだ。
マイクロソフトで学んだことのひとつは、いい人材を見つけたら、カネを出して雇うこと。それ以上の見返りをもたらしてくれるからだ。
新しい組織は、すべてのスタッフに情熱がなければ機能しないだろう。とくに初期の採用が肝心だ。彼らが新しいスタッフに組織の文化を伝えていくからだ。したがって、起業家はたくさんの志望者をやり込めなくてはならない。情熱があって、自分の数字を知っている人間だけを雇うこと。これも僕がスティーブに学んだ多くの教訓のひとつだ。
マイクロソフトで学び、ルーム・トゥ・リードにしっかり植えつけたいと思っているもうひとつの教訓は忠誠心だ。スティーブは要求の厳しいボスだが、部下に対して忠誠を誓う。
(中略)
世間には従業員から信頼を集める努力をしないまま、一方的に忠誠を要求するエグゼクティブが多すぎる。そんなとき僕はトーマス・エジソンの言葉を思い出す。「たいていの人は機会を見逃す。機会は作業服を着て、重労働のように見せかけているからだ。」
これは他の組織にもあてはまる教訓と言えます。
そして本書の最後に40歳の誕生日にあたり、Room to Readの活動に熱中する代償として「彼女なし、借家住まい、日々の資金繰りに追われる」という生活をときに考えないこともない著者にバースデーカードに友人が聖フランシスコサレジオの言葉を引用したエピソードに触れます。
いまの自分以外になろうと望まず、
完璧な自分であるようにつとめなさい。「いまの自分」は、マイクロソフト時代から大きく変わってきた。ありがたいことに、いまの自分は僕にぴったりだ。40歳になって、人生が僕に与えた旅と冒険をいかに楽しんでいるかを、あらためて感じていた。
最後にRoom to Readのサイトをご案内します。
http://www.roomtoread.org/
「日本語のサイト」というのがあるのですがなぜかPDFで、英語のサイト全体の翻訳は追いついていないようです(英語も難しい用語を使っているわけではないので比較的容易に読めると思います)。
残念なのは、Room to Readがアメリカの税制上は寄付が所得控除の対象になるのに対し、日本ではそうでなさそうなところです(アメリカの団体なので仕方ないことかもしれませんが。)。
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