一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『笑う大英帝国』-歴史と人材の厚み

2006-06-15 | 乱読日記

今の通勤用図書は富山太佳夫『笑う大英帝国』岩波新書

筆者は青山学院大学教授で「19世紀イングランド小説専攻」。 俗に言う「英国紳士のユーモア」とは違い、情け容赦がなく、時には差別的で、時にはグロテスクなものであり、対象とユーモア表現と自分自身の三者の微妙な緊張感が求められるのがイギリスの笑いだよ、ということを、様々な事例と、妙に生真面目に語ると思えば軽妙な脱線をする独特の語り口で伝えてくれます。
※なんとなく医学都市伝説のWebmasterに通じる語り口であります。

たとえば、国王を笑いの対象にすることについて、シェイクスピアを例に引きながら  

(ヘンリー四世の話に続き)
ハムレットの父親となると、戦場で名誉の死を遂げるどころか、城の中で毒殺され、妻を奪われ、後は亡霊となって、ことの次第を息子に愚痴るだけ--いくら何でもこのような国王の扱い方は異様だと言うしかない。しかもこれらの劇が上演されたとき、王座にはエリザベス一世やジェイムズ一世が現に国王として鎮座していたのである。ことの異様さを理解するためには話を日本に移してみるといいだろう。呆けた天皇や化けて出る天皇の登場する文学作品を初演以来四百年にもわたって楽しみ続けることが、果たしてこの日本でできるだろうか。結論的に言えばイギリス人はおかしいのである。

 確かに天皇とか殿様関係の話は英雄譚とか悲劇はあるものの愚鈍な王というのは大名などに限られるかもしれませんね(殿様だと犬公方くらいか?)。


そして、政治家も情け容赦なく笑いの対象になる、というところでは、プレスコット副首相が取り上げられています。
プレスコット副首相といえば 英副首相が部下と不倫、辞任要求も (2006年4月30日 産経新聞)というニュースぐらいでしか知らなかったのですが、そもそもこの副首相、正真正銘の労働者階級の出身で、有名大学の出身でもなく、正直な物言いと愛嬌のあるルックスもあって、かなり人気がある政治家のようです。

一方でこの人の話は文法を全く無視していることで有名で、それをネタにした『そりゃないだろ、ジョン・プレスコットと学ぶブチ壊し英語』という本まであるそうです(これのことかな?)
これによると、たとえば

Some you it succeed, some you don't.

とか

My Position is that I want to make our position clear...the example in Germany is justone example, for example,
(私の立場は我々の立場を明らかにしたいということで・・・ドイツの例はあくまでも一つの例で、例を挙げれば、)

 All have a contributory contribution to congestion.
(我々は交通渋滞に貢献的な貢献をしているのであります。)

といった具合です。これを筆者は

要するに、意味が相手に伝わるのだから、それが文法的に正しいかどうかという問題は別にして、これでいいのである。しかも、相手に意味を伝えながら、周囲の人間まで笑わせるというのは、生半可な大学出などにできる芸当ではない。

と味わいます。
自分で英語を話す時にも自信になりますね。

さらにプレスコット氏は大物ぶりを発揮し、議会の議事録(『ハンサード』)において彼の発言は意味が通るように実際の発言を修正されて記載されているそうです。  

さすがに長い議会制度の歴史を持つ国だなと感心させられるのは、この事態に対処するための方策が議会の職員の側にきちんと用意されているということである。 
『そりゃないだろ』によれば、「各行の具体的な意味はほとんど判別不可能である。そのために『ハンサード』の関係者はプレスコットの演説をテープ録音したものを、新人のためのトレーニング・プログラムとして利用している」。  

ここまでくると僕もプレスコット氏のファンになってしまいそうです^^

(ちなみにこんな人です)

  


このあと、執事と主人ネタ(これまた傑作)、イギリスの風俗・流行とパロディ、と続きます。


こんなネタが満載のこの本、新書でもあり、通勤読書用にぴったりでした。






コメント
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