一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

シンドラー社製エレベーター問題

2006-06-09 | あきなひ

シンドラー社エレベーター、閉じ込め・急降下各地で
(2006年6月8日(木)08時04分 朝日新聞)

死亡事故以来シンドラー社製エレベーターの信頼性が問題になっています。

シンドラー社はHPに「当社製エレベーターでの事故について」と題する文章を掲載しています。

事故がありましたエレベーターは、シンドラーエレベータ株式会社が1998年に設置を行い、2005年3月までは当社が保守を担当し、その後は2社が保守を行っております。

捜査による詳細が出るまで、事故に関するコメントは差し控えさせていただきます。しかしながら、2006年6月6日時点では、この事故がエレベーターの設計や設備によるものではない事を確信している旨を述べさせていただきたいと思います。


昔エレベーター会社の人に聞いた業界事情です(もう10年以上前の話なので現在は事情が違うのかもしれませんので為念)

① 大手3社の寡占状態
日立、東芝、三菱の3社で市場の70くらいを占めている。4位がオーチスエレベーター(世界シェアではNo.1)、5位がフジテック(世界のシェアは結構高い)で、その他は規模的にはきわめて小さい。

② 利益の源泉はメンテナンス
エレベーターは一度納入すると定期メンテナンスによる収入が継続的に入るので、極端な話大きなビルなどでは原価割れでも納入するほうが大事。

③ メンテナンスのしくみ
メンテナンスはフルメンテナンス(定期点検+部品の無償交換)とPOG(略称うろおぼえ。定期点検のみで部品は都度実費請求)の2つがある。
フルメンテナンスの方が金額は高いが、長期的にはワイヤーの交換など大掛かりな費用が必要になるのでトントンのはず。
部品供給の問題等もあり、納入業者のメンテナンス部隊(子会社)が受注することが多い(こういう形で顧客を囲い込んでいる)。
※その昔、独立系の業者に部品供給を制限したとして大手各社が公取委から指摘を受けたことがあったようです(うろ覚え)

④ 新規参入の難しさ
独立系のメンテナンス専業会社も何社かいる。
中古マンションや中小ビルを中心に管理費削減などにおいてシェアを増やしている。
しかし、メンテナンス会社は定期点検以外に緊急時の閉じ込め対応なども必要で、24時間のコールセンターや対応部隊を揃えないといけないので、独立系といえども参入はなかなか難しい。
※ちなみにエレベーターの非常ボタンは、誤って押したりいたずらも多いので、通常は10~20秒押し続けないとセンターにつながらないようになっているそうです。いざというときのためにお知り置きを。


テレビで聞いたところでは、シンドラー社は世界シェアは2位ですが日本には拠点がなかったため、日本の中堅会社を買収して日本法人にしたそうです。
現在国内シェア1%とかなり厳しい営業状況のようですね。
私自身「そういえばエレベーターでなくエスカレーターで"Schindler"というロゴを見たことがあるような・・・」という程度の認知度でした。

上のリリースによれば、死亡事故のあったエレベーターはメンテナンスはシンドラー社が行なっておらず、同社はメンテナンスの不備が原因と示唆しているように読めます。
もっとも記事を見ると、他のシンドラー社がメンテナンスしている物件でも事故がおきていたようです。
※小ネタですが、普通の電気を動力とするエレベーターは消費電力を少なくするために滑車を中心にして人の乗るカゴとカウンターウエイト(重し)でバランスを取っていて、ウエイトはカゴに定員の1/3(うろ覚え)程度が乗っている状態に設定されているそうです。
なので、ブレーキが壊れた場合「急降下」でなく「急上昇」するそうで、上記記事の「女児をのせて急降下」というのは制御の問題ではないかと思います(あまり自信なし)。
(6/9追記:エレベーターの制御は、地震時には最寄階で停止、火災時には1階に下りて停止、というプログラムが通常のようで、そうだとすると「急降下」というのは火災報知機と制御盤との連携の問題かと)


次に、「では誰に責任があるのか」という話。

エレベーターは建物の一部なので、工作物責任が適用になります(製造物責任(PL)法は不動産には適用にならない)。
そうすると、一義的には管理者、管理者に過失がなかった場合は所有者(これは無過失責任)ということになります。賃貸マンションとか学校などの場合は所有者が責任を負いますが、分譲マンションの場合は共用部なので管理組合(=居住者全員)の責任になります。
そして、所有者はメンテナンスに不備があればメンテナンス会社に求償し、機械自体に不備があれば建築を請け負った建築会社、分譲マンションの場合は売主に瑕疵担保責任を問うことになります。
ただし後者の場合、それぞれの契約で瑕疵担保期間というのが定められているので、一定以上の築年数の物件は責任追及できない、と言うことになります。
そして、シンドラー社は建設会社との契約上の瑕疵担保責任の範囲で責任を負うことになります。

その意味では、シンドラー社は(そもそもが欠陥商品であることを知りつつ納品したのでなければ)被害者に対し直接法的責任を負う立場にはないので、会社の主張も理屈は通っています。 

ただ、商売として考えるのであれば 

シンドラー社のエレベーターは事故が多い 
しかも事故原因がメンテナンスにあるのか機械にあるのかの立証は難しい 
会社としても法的責任をベースにしてしか対応しない 

となると、発注主も二の足を踏んでしまうので、ここで受身で開き直るのは得策ではないと思います。
また、仮に機械自体に問題がなく、メンテナンス(自社および独立系業者)に問題があったとしても、レピュテーションは大きく傷つくと思います。 その意味では今回の対応は問題が多いと思います。
国交省次官、シンドラー社の対応に不快感(朝日新聞)
 (2006年6月8日(木)19時00分 朝日新聞)など参照


では、なんでこういうことが起きてしまったのでしょうか(報道されたように自社メンテナンス物件でも事故があるという前提で)。
想像するに

① 営業先は全国に広がるものの、メンテナンス組織を全国に張り巡らせることが費用的に負担だった。

そのため
②-1 一部地域では独立系のメンテナンス業者にまかさざるを得なかった
②-2 支店といいながら地元業者へのフランチャイズのような形を取らざるをえなかった
②-3 直営面メンテナンス部隊を作ったものの、人員が十分でなかった

③ また、メンテナンスでも利益を上げようと、手順を省略し小人数で簡略なメンテナンスマニュアルを作ったり、独立業者への部品供給においても高値を提示し結果的に部品交換をしないインセンティブを与えた

④ その結果メンテナンスのレベルを維持できなかった

というようなことだったのではないかと思います。
 

今回の事件で心配は、スイスの本社で「どうせ1%のシェアだしここまで評判が傷ついたら回復は難しそう」といって日本を撤退してしまうことです。
そうすると、部品の供給が滞り、利用者は困ってしまいます。
世界的メーカーらしいので、そこまですることはないとは思いますが・・・

万が一シンドラー社に「バンザイ」された場合に、構造偽装同様公的援助、ということになるのでしょうかね・・・
政治家の先生方は、構造偽装問題に比べてそこまで積極的でないかもしれませんね。




ということで最後にちょっとメモ
総研の詐欺容疑、立件を断念…捜査終結の方向
(2006年 6月 8日 (木) 03:01 読売新聞)
だそうです。

コメント (2)
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