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日常よく使われる英語表現を毎日紹介します。毎日日本時間の午前9時までに更新します。英文執筆・翻訳・構成・管理:上杉隼人

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毎日更新! GetUpEnglish Updates Every Day! Since April 1, 2006 (c) 2006-2024 Uesugi Hayato(上杉隼人)

History bubbles up from below by people no one has heard of.

2020-06-07 08:50:07 | News

   ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警察官によって拘束死させられた事件を契機に、アメリカ全体で抗議デモが起こっている。
 これはアメリカが抱える長い黒人差別の問題が根差している。
 どうしてこんなことになってしまっているのか、アメリカの長い歴史をさかのぼって考えてみる必要があるだろう。
手前味噌になるが、2018年12月に刊行したジェームズ・ウエスト・デイビッドソン『若い読者のためのアメリカ史』第36章に、黒人差別の問題が詳細に描かれている。
 ぜひご覧いただきたい。
 本日のGetUpEnglishではその一部を紹介する。

Sometimes, it seems as if history revolves mostly around people in high places. “Two men, sitting on opposite sides of the world,” as President Kennedy noted—deciding whether to “bring an end to civilization.” But history bubbles up from below, too, moved by people no one has heard of, doing things that the powerful would never dare. Kennedy witnessed this the year after the Cuban missile crisis, when a quarter of a million Americans came to Washington to take up the unfinished business of slavery and freedom.
 時に歴史は高い地位にある人たちの周辺でほとんど展開するように思われる。第35章で紹介したとおり、ケネディ大統領は「世界の対極に座るふたりの男が文明に終わりをもたらす決断力を備えなければならない」と述べた。だが、歴史は権力者たちが気にも留めない事柄を名もなき者たちが成し遂げることによって、下から湧き上がることもある。ケネディはキューバのミサイル危機を回避した翌1963年、まさにこれを目撃することになった。25万人ものアメリカ人がワシントンに集結し、未解決の奴隷制度と自由の問題について訴えたのだ。

 以下、訳文だけ紹介する。

 だが、奴隷解放は実現したものの、その後もアメリカ社会は分離政策によってより明確な形で分断されることになった。かつての奴隷州では、白人と黒人の学校は別々に、ホテルも病院も水飲み場も分離することを求める法が成立した。アラバマ州は白人が黒人とチェッカー(各12の駒を持って遊ぶはさみ将棋に似た遊戯)に興じることを禁じた。オクラホマ州では白人用と黒人用の公衆電話ボックスを別個に設置した。奴隷と自由な人々を区切っていた線が今度は黒と白の新たな色の線に置き換えられ、それが残酷なリンチによってかつてないほど色濃く強調されることになった。
(……)

 そして1954年、カンザス州トピカの黒人オリヴァー・L・ブラウン(1918~1961)は、白人学校は家から徒歩でたったの7ブロックの距離にあるにもかかわらず、自分の8歳の娘リンダは家から1・5キロ以上離れた場所にある黒人学校に通うためにスクールバスの停留所まで6ブロック歩き、そこからスクールバスに乗らなければならないとして、ほかの親たちとともにトピカの教育委員会に対して集団訴訟を起こした(ブラウンは全米黒人地位向上協会トピカ支部の指導部によって募集された原告のひとりであった)。この「ブラウン対教育委員会裁判」は、アール・ウォーレン首席裁判官の法廷において、満場一致(9―0)で「人種分離した教育機関は本来不平等である」と判決が下された。分離した教育機関は常に0 0 不平等である、なぜならそれによって「劣等感」が生み出され、生徒たちの「心と精神に取り返しがつかないと思われる」影響をおよぼすからである、と判断されたのだ。

 1世紀つづいた習慣はそう簡単に覆くつがえらなかった。100人を超える南部の議会議員はそれぞれの署名を添えて、各自の州に「ブラウン対教育委員会裁判」の判決の受け入れ拒否を促す公開書状を突きつけた。「法のもとによる分離政策」が南部の広い地域でなおつづけられていた。そんななか、アラバマ州のモンゴメリーにおいて、百貨店で裁縫の仕事をしていたローザ・パークスは1955年12月1日、公共交通機関のバス内で白人に席を譲らなかった。これにより市条例違反で逮捕され、拘置所に入れられた。パークスは問題を起こしたくはなかったが、意思に反して立たされることは受け入れたくなかった。全米黒人地位向上協会から今回の件で訴訟を起こし、人種の分離の不正を訴えられないかと求められたが、すぐには返答できなかった。「白人に殺されるぞ、ローザ」と夫は心配した。ほんとうにそう思ったのだ。だが、パークスは協会の提案を受け入れることにした。まさにその晩、黒人女性の一団が密かに集まり、さらに大胆な行動を求めるチラシを印刷した。「バスのなかで席を譲らなかったという理由で、また黒人女性が逮捕され、拘置所に入れられた」とそこには記されていた。「こうした理不尽は逮捕をやめさせない限り、これからもつづけられることになる。次はあなたかもしれない、あるいはあなたかもしれない、あるいはあなたかもしれない。逮捕された女性の判決は月曜日に下される。だからわたしたちは不当な逮捕と裁判に抗議し、すべての黒人に月曜日はバスに乗らないように呼びかけるつもりだ」。モンゴメリーのデクスター街バプテスト教会の牧師に着任したばかりで、当時26歳だったマーティン・ルーサー・キング・ジュニア(1929~1968)が、このバス・ボイコット運動の指導的役割をはたした。キングは友人のエリオット・フィンレイとともにその月曜日の判決後の夜の会合に車で向かうも、激しい渋滞に巻き込まれ、車をどこかに停めてそこからは歩くしかなかった。すると5000人を超える人たちもどこからか出てきて、会場に向かうまでの通りが埋め尽くされた。

 キング牧師は教会内の聴衆に語りかけたが、入りきれずに外にあふれていた人たちにも聞こえるように大きなスピーカーが用意された。牧師は静かに話し出したが、その声は次第に力を帯び、どうしてここにこんなにたくさんの人たちが集まることになったか説明した。「いつの日か人々は疲れてしまいます」とキングは言った。奴隷制度は1世紀近く前に終わりを告げたが、分離に置き換えられただけの話だ。「ブラウン対教育委員会裁判」は分離を違憲としたが、黒人たちは依然「虐待され」、下等な市民として扱われている。抗議する以外に彼らに何ができるのか? 聴衆は興奮して拍手喝采を送り、神に祈りを捧げた。だが、キングは抗議を呼びかける以外のこともしようとした。ある方法によって、すなわち愛と非暴力によって、目的を達成するのだ。牧師は不公平な法にしたがうのを拒む道徳的義務を伝えるヘンリー・デイビッド・ソローの文章を読んできた。神学校ではマハトマ・ガンジー(1869~1948)が非暴力を通じて自国インドをいかにイギリスから独立させたかについて学んだ。暴力や脅しを突きつけられることがあれば、敢然と立ち向かうが、やり返してはならない、と牧師は聴衆に伝えた。フードのついた服を着た黒人が真夜中に白人をリンチにかけることはない。夜に十字架が焼かれたり、通りを暴徒が歩きまわることもない。もし目の前の聴衆がこうしたことを守ってくれれば、彼らは歴史に「偉大なる人々。黒人たち……道徳的勇気を持って自分たちの権利のために立ち上がった者たち」として記憶されるだろうと断言した。

(……)
 そして彼らモンゴメリーの黒人たちが公民権運動への道を切り開いた。各種の行動をまとめるには、組織が重要だった。全米黒人地位向上協会は活動をつづけた。キングはほかの牧師たちと1957年に南部キリスト教指導者会議(SCLC)を創設した。ほかに人種平等会議(CORE)や学生全米調整委員会(SNCC[「スニック」と呼ばれた])もあった。だが、こうしたグループは最初の危険な一歩を自ら踏み出した一般人がいたからこそ、すべて成り立ったのだ。ローザ・パークスは勇敢にそんな一歩を踏み出したひとりだった。先ほど紹介した真夜中にチラシを印刷した女性たちもそうだ。さらに当時ノースカロライナの大学生だったジョセフ・マクニール(1942~ )もそのひとりだ。1960年1月のある晩、マクニールはあるレストランで食事をしようとしたところ、「ここは黒人は受け入れていない」と言われた。それではと彼は2月1日の夕方、クラスメート3人とともに(彼らは「グリーンズボロの4人」と呼ばれることになった)、グリーンズボロのウールワース・ドラッグストア内の黒人が着いてはならないとされていた軽食用カウンターに「座って」(シット・イン)、飲み物が供される0 0 0 のを待った。店主は驚いてそのカウンターから彼らを締め出したが、翌日には4人の「座り込み」(シット・イン)に27人が参加した。さらにその翌日は63人が加わった。そして4日目には300人以上が、週末には約1600人が押し寄せ、店主はついに店の方針を変えて、彼ら黒人がそのカウンターで食事や飲み物を摂れるようにした。こうした軽食用カウンターへの「座り込み」(シット・イン)活動はひとつの都市から別の都市へと広がり、かつては「白人のみ」の世界だった場所を黒人に開放した。
(……)

 ジェームズ・ウエスト・デイビッドソン『若い読者のためのアメリカ史』(すばる舎)より好評発売中。

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『若い読者のためのアメリカ史』(すばる舎)好評発売中!

2020-06-07 06:36:13 | ありがとうございます!

2018年12月に刊行した『若い読者のためのアメリカ史』(すばる舎)、好評発売中!
そしてこんなにありがたいコメントがたくさん!
みなさんのおかげです。ほんとうにありがとうございます!
めいろま
@May_Roma
 12月24日
日本は意外とアメリカの歴史をきちんと知っている人がいない。学ぶとアメリカがいかに特殊な国かということがよく分かる→ジェームズ・ウエスト・デイビッドソン の 若い読者のためのアメリカ史 【イェール大学出版局 リトル・ヒストリー】
素晴らしい本なので沢山の方に読んで頂きたい!訳も凄く良くて読みやすいです!!!
https://twitter.com/May_Roma/status/1209797095118561280

好物日記さま
https://kinokeno.hatenablog.com/entry/2020/02/24/160306
防毒面
@bodokumen
12月25日
若い読者のためのアメリカ史全部読んだ。ディスカバリーチャンネルの歴史モノをそのまま書籍化したような感じで、つまりは読みやすかったです。歴史と言っても自分たちと同じ庶民一人一人がその時代にいてそれぞれの人生があるという視点からの説明が多く、その時代時代にリアリティを感じた。
何と訳者様からコメントが!アメリカ史に興味があったため読んだのですが、読みやすくて面白かったため、あっという間に読み終わりました!素晴らしい和訳をありがとうございます。5000回感謝!https://twitter.com/bodokumen/status/1210211921384726529
蔀(しとみ)
@0si43
いい本に対していい翻訳、ありがとうございました!https://twitter.com/0si43/status/1229370175029305344

若松紘介
@cha_na_maru
アメリカ史が圧縮されすごく読みやすい良い本。同盟国の歴史を学べば日本の姿も見える。私たちが今いるのは潔癖の伝統の中ではなく、戦争により作られ権力の腐敗と差別が蔓延する国家だ。

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胡麻
@GotoSesame
本人から「大変わかりやすい、素晴らしい翻訳をありがとうございます。先日出版された『若い読者のための宗教史』も是非読ませていただきます」とのことでした。2大学を行ったり来たりして基礎医学・倫理学・公共政策学・社会学・科学技術社会論・医事法実務を並行して進めている貪欲な男です。
午後6:28 · 2019年4月29日 · Twitter Web Client
https://twitter.com/GotoSesame/status/1122794700308500481?s=20
胡麻
@GotoSesame
すごい勉強家の医大生の人(鍵垢)が『若い読者のためのアメリカ史』という本がめちゃ推しだそうなので、私は未読だけど紹介します。アメリカ成立前史がかなり丁寧に書いてあるそう。
午後3:13 · 2019年4月28日 · Twitter for Android
https://twitter.com/GotoSesame/status/1122383278294458370?s=20
 
ikuodanaka
@dora_e_m
アメリカ史と宗教史の2つは、リトルヒストリーの中でも白眉だと思います!!素晴らしい翻訳をありがとうございます。
午後10:01 · 2019年4月28日 · Twitter for Android
https://twitter.com/dora_e_m/status/1122486078038872065?s=20
 
はやて
@hayatebass
ご返信を頂きありがとうございます。「若い読者のためのアメリカ史」は、まるで初めから日本語で書かれたかのような読みやすい文章でしたのでアメリカのことがよく理解でき、とても勉強になりました。
午後8:40 · 2019年4月20日 https://twitter.com/hayatebass/status/1119566467228323841?s=20

フリーチベット
翻訳が良い 
2020年2月8日に日本でレビュー済み
若い人向けというのがどのくらい若い人を指しているのかはよくわかりませんが、ちょっと物語仕立てになっていて、文章も洗練されていて、とても素晴らしい。翻訳者さんがいい仕事をしています。装丁も素晴らしい。
https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R1J0MQ9Y6PCQ2X

取扱テーマもさる事ながら邦訳の上手さも光っており、感情を込めて映画の様に読める♪ 
2019年1月24日に日本でレビュー済み
原著は、教科書編纂にも関わる米国歴史学者が綴った長編歴史書で、この本書も大ヒット映画の小説邦訳も多数手掛けた、ベテラン翻訳家の力作と言え、静かな作風ながらも要所には感情がこもっている。
その内容は、解り易くコロンブスの大陸発見から始まり、まるで物語の一説を読んでいるかの様な臨場感と共に「差別、不平等、経済格差、そして暴力との闘い」と、学校の教科書でも大きく取り上げられている部分を、独自の観点から冷ややかに見つめている。
ただ邦訳作風のせいか、10行置きぐらいで区切られた全ての段落毎に、それぞれで何を一番訴えたかったのかが、手に取る様に理解出来るメッセージ性が強くあり、その一説で起きた出来事にどの様な意味があって、我々がそこから何を学ぶべきなのか、とても強く考えさせられる。
従って、現在の日本教育現場なら、本書自体を教科書としても、自己消化力強化に役立ちそうな内容と言え、タイトル通りに若年層が読んでこそ、身になる1冊と断言出来る。
書面は、少量の挿絵や図面が用意されていはいるが、上述邦訳者が気合を入れて詰め込み過ぎた感はあり、活字アレルギーの方にはちょっと抵抗を感じる質量。
個人的には、時代を毎に数冊に分けて欲しかった感はある。
総じて、単純な歴史教科書では無く、若干のエンタメ性も織り込まれていると言え、扱い方次第では若人の気も引き易く高評価出来る物です。
https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R3B5Z4KHZFCLM9

イェール大学のアメリカ史の教授が書いたアメリカ史の教科書 
2019年4月13日に日本でレビュー済み
イェール大学のアメリカ史の教授が書いたアメリカ史の教科書。もちろん正確なアメリカの歴史を知ることができますが、著者の義父が経験したことをはじめとして、名もない人たちに降りかかった知られざる史実も随所に盛り込まれていて、市井の人たちが現実に体験したアメリカ史の大きなうねりを味わうことができます。政治家たちだけでなく、マーク・トウェインやウォルト・ホイットマンやレイチェル・カーソンほか文化人もたくさん出てきて、文化や社会的潮流がアメリカ史の方向性を変えていったこともわかります。日本語が非常にわかりやすく読みやすいのですっと頭に入ってきます。アメリカ人の視点から書かれた歴史書だからか、広島と長崎の原爆投下などは詳しく書かれていません。最大の読みどころは、コロンブスの大陸発見後に西洋人が先住民に対して行った残虐行為が記された最初の数章です。ここまではっきり書かれている歴史書はないと思います。索引が充実しているので、読み終えた後も気になる人物を確認できます。とてもいい本です。今年読んだ最高の一冊になりました。https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/RQB9X7KKDICC5

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