「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

翻弄された生命 …… 「生死命の処方箋」 (66)

2011年01月02日 20時47分23秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)
 
○ 街景
  

○ 東央大病院・ 外景(夜)

  

○ 同・ 淳一の病室

  ベッドに座り込んでいる淳一。

  多佳子、 淳一に抱きついて 泣いている。

  美和子、 がっくりとして立っている。

多佳子 「(涙) …… 手術が中止なんて …… !

 ジュンくんが、 やっとここまで決心したの

 に …… !」

美和子 「 …… ごめんなさい …… 」

多佳子 「先生って、 人の心 もてあそぶみたい

 なことばっかり …… ジュンくん、 かわいそ

 う …… 」

  ベッドの中で淳一、 体を震わせている。

  泣き声とも笑い声とも聞こえる 声を立て

  ている。

美和子 「ジュン …… !! (涙)」

  淳一を抱こうとする美和子。

多佳子 「さわらないで …… !!  先生なんか

 ジュンくんに …… ! (美和子の手を払いのけ

 る)」

美和子 「 !! …… 」

  淳一を抱いて 泣く多佳子。

  美和子、 なすすべもなく立ち尽くす。

  

○ 同・ ICU

  人工呼吸器に繋がれた安達。

  杏子が寄り添っている。

  安らかな寝顔の安達。

杏子 「 ……… 」

  

○ 同・ カンファレンスルーム

  美和子、 緒方、 川添。

美和子 「(落胆して) …… これで、 よかった

 んでしょうか …… ?  安達さんを助けるこ

 とができて …… 」

川添 「僕は、 安達さんを 何とか助けようと思

 って、  様々な治療をしてきました …… 」

緒方 「うん …… 」

川添 「でも …… 体中に チューブを差された

 スパゲティ状態で、 機械に繋がれた 安達さん

 を見ていて、 僕は不思議な疑問に かられて

 きた …… 」

美和子 「? …… 」

川添 「この人は、 一体いつ、 “死ぬことを許

 されるのだろうか ?” って …… 」

美和子 「!? …… 」

川添 「移植という プロジェクトに組み込まれ

 て、 あっちへやられたり、 こっちへやられ

 たり …… 安達さんはまるで、 臓器を取られ

 て死ぬために、 この病院へ来たみたいだっ

 た ……。  僕が安達さんにしたことって、 

 一体何でしょう?  もし僕が、 あの人に蘇生

 術を ほどこさなかったら、 いや、 もしこの

 世に 蘇生術なんてものがなかったら …… 

 安達さんはもっと安らかに、 天に召された

 かもしれないのに ……。  医学は、 何のために

 ここまで発達してきたんでしょう …… ?

 (一粒の涙が落ちる)」

美和子 「川添先生 …… 」

緒方 「医学の歴史は、 人体実験の歴史だ。

 それが人々を 幸福にしていく。  我々は危険思想

 ぎりぎりのところで 生きているんだ …

 …」

美和子 「 ……… 」

(次の記事に続く)