「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

不安定な対人関係 (1) (分裂)

2008年04月12日 21時49分11秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
 混沌とした人間関係の トラブルが続くことが、BPDの顕著な特徴です。

 激しい対人関係と 衝動性のふたつが、

 BPDを最も識別できる 基準だという研究もあります。

 BPDの人の認識は、お皿の上の ビー玉のようなもので、

 少しでも傾けば 端まで転がり、逆に傾けば 反対に転がり、

 決して途中で 止まることはありません。

 この 「二極認識」 は 「分裂 (スプリッティング) 」と 言われ、

 18~36ヶ月の乳幼児に 見られるメカニズムです。

 一人の人間が、良い人でもあり悪い人でもある という矛盾を、

 受け入れなければならない不安から 自分を守るのです。

 BPDの人は、今まで最高だったものが 次の瞬間には 最低になってしまうので、

 パートナーや仕事などを 頻繁に変えることがあります。

 辛抱や妥協をしたり、折り合いを付ける 中間点がありません。

 歩み寄るには 我慢が必要ですが、

 それには土台となる 過去のそれなりの実績を 前提としています。

 ところが BPDの人にとっては 「今」 が全てであり、

 過去の素晴らしい体験や 想い出などは、一瞬にして消えてしまいます。

 「今がダメなら 全て台無し」 なのです。

 心子は、普段の頑張りは 尋常ではありませんでしたが、

 一旦 ちょっとでもダメになると、それまでの努力を皆 無駄にしてしまうように、

 一切を捨ててしまうのでした。

 まるでいつも 成功を目前にしながら、

 するりと手から 滑り落ちてしまうかのようでした。

 心子は自分のことを、「オセロみたい」 だと言っていました。

 ひとつが黒になると、今まで白だったものが 全部一遍に 黒になってしまうのでした。

 BPDの人の感情や行動は、最も新しい記憶だけに 縛られているのです。

 普通の人でも、それまで積み上げてきた 人生の功績の記憶が 全くないとしたら、

 現在の失敗に耐えて 仕事をやり直ていく意欲は 萎えるのではないでしょうか。

 幾つもの楽しいできごとを ひとつも覚えていなければ、

 パートナーとのいさかいを 乗り切っていく気にならないでしょう。

 あたかも、毎朝 過去の記憶がないまま 目が覚めて、

 ゼロから始めなければならない、

 人間関係を再構築しなければならない ようなものかもしれません。

〔「BPDを生きる七つの物語」(星和書店)より〕

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/53735154.html