蛾遊庵徒然草

おこがましくもかの兼好法師にならい、暇にまかせて日頃感じたよしなし事を何方様かのお目に止まればと書きしるしました。

「白鳳、初優勝ならず!」―だが来場所が楽しみだ。

2006-03-26 23:44:11 | 日常雑感
3月26日(日) 曇り、時々薄日さす。終日温かい。

 優勝決定戦で、朝青龍が白鵬を破って、16回目の賜杯を手にした。白鵬はせっかくお父さんやお母さんがモンゴルから来日しての連日の応援観戦にも係らず、昨日は魏皇にも敗れで、大関昇進は確実にしたものの、いまいち物足りなかったのではないか?。

 それにしても、決定戦での白鵬の白い地肌が横綱と四つに組んで、みるみる桜色に染め上がっていくのは実に美しかった。
 また、向こう正面席に陣取るお父さんをテレビカメラが時々アップしたときに見た、その民族衣装が良かった。どんぐりの実に似た帽子の金の飾り板、緋色の上着。チンギスハーンの重臣が観戦しているかに堂々としていた。

 そして、観客席でふだんはあまり見たことが無いようなモンゴルと日の丸の小旗が打ち振られるのも珍しかった。
国技の大相撲の千秋楽の土俵で、モンゴル人同士で優勝を争う光景など、一昔前には想像できなかっただろう。まさに庇を貸して母屋をとられたの図である。

 WBCの日本とキュウバの決勝戦を見たアメリカ人の多くも同じようなことを感じはしなかっただろうか?。
 もはや、様々な分野で、肌の色や国籍で縄張り争いや云々かんぬんする時代は、確実に融解し始めているのではなかろうか?。

 まあ、しかし、栃東は朝青龍に勝ち、12勝で来場所への綱取りの可能性を残した。
これで、来場所、今度こその初優勝を目指しての白鵬の新大関としての奮闘、そうはさせじとライバル琴欧州の膝を治しての頑張り、栃東のリベンジ、さらには十両で実に43年ぶりとなる全勝優勝を果たした正真正銘の金髪の把瑠都がどこまで勝ち進むか、と今から楽しみがいっぱいである。

 朝青龍もこれからは、そうやすやすと賜杯を手にすることはできまい。どんな世界でも一人勝ちでは○○おもしろくない。どこかの巨大夜郎自大大国のように!。

 と、思うこの頃、さて皆様はいかがお思いでしょうか?。

    「打ち出しの 太鼓に舞うや 花吹雪」―蛾遊庵山人―

         (※ 花吹雪=桜吹雪、まだ少し早かったでしょうか?…)



「決死の密航者たち」を視る。-苛政は虎よりも猛し!

2006-03-26 01:43:55 | 日常雑感
 3月25日(土) 晴れ、暖。黄の蝶が芽吹き始めた雑木林の中を、くの字にひらひら舞ってゆく。

 今朝、天気よし。庭先の畑に、一昨日買ってきた細葱の苗を植えようかと思いつつも、夜更かしの朝寝でたちまち昼近くなってしまった。
 遅い一人膳の朝食の徒然にテレビを付けた。

 BS1、「決死の密航者たち-アフリカからヨーロッパへ」というのが始まるところだった。2004年、フランス・ドゥ作の世界優賞ドキュメンタリーとのこと。

 モロッコのとある古びた街。くねくねと入り組んだ路地に面した倉庫のような扉を押し開けて地下への階段を下りる。穴倉のような部屋に、所在無げに寝そべっている男たちのギョロギョロとした眼が一斉にこちらを見る。
 こうして、いつ、その時(密航への出発)が来るかを、近隣のアフリカ諸国から、やってきて、中には、もう5年もこうして待っているとか。

 そこへ突然仲介者が現れる。一人当たり日本円にして14万円の仲介料が徴収される。彼らの全財産である。
 夜の闇に紛れて幌付きトラックの荷台に18人が、ぼろ屑のように押し込められて、夜道をひた走りに海岸に向けて走る。
 途中いきなり車が止まる。全員が下ろされる。ナイフをちらつかせた仲介の男にその場でさらに金品を強奪される。皆、諦めの表情である。

 そして、その場に置き去りにされた、密航者たちは、付近の藪陰でごろ寝して、パトロールの官憲の眼を避けながら、何時来るか分からない、別の車の迎えを飲まず食わずで待つのである。

 数日して、迎えの車が現れ、また砂漠の道をひた走りに走り、海岸に着く。
海岸には、仲介業者が用意したぼろボートが隠されている。
 しかし、すぐには乗れる代物ではない。まず、全員でボートの修理にから始めるのである。一週間もしてようやく何とか使い物らしくなる。

 夜の闇に紛れて出発である。波が高い。全員がしぶるのを業者が急き立てる。仲介業者は乗船しないのである。密航志願者のお客が死のうが生きようが知っちゃあいないのである。粗末なコンパスを手渡し、「このまま、沖へまっすぐ30分走れ。そこで90度梶を切れ。…後は、陸が見えたらまっすぐいけ。」と、指示してさよならである。全員ライフジャケットを着けてる様子もない。これで夜の大西洋に乗り出すというのである。

 案の定、船は沖合い300Mも行かないうちに取り付けた中古エンジンの力不足で大波を乗り切れず、無残に横転してしまう。全員が必死に岸に向かって泳ぐ。ほうほうの体で岸にたどり着いて仲間はと、見渡せば二人が行方不明。その内の一人は兄弟で弟を亡くしたというのにそれほどの愁嘆も見せない。

 しかし、彼らはそれでも密航を断念しない。何度でもトライするという。「今更、自分の国に帰ったところで、仕事も無く食べていけないから」だという。

 ナケナシの追加金を仲介業者に渡して、再度ボートを調達する。今度は前よりまだ酷いぼろ船である。でも、彼らはめげない。またこつこつと船の裂け目に何かを詰め込みコーキングに余念がない。

 再び船出だ。たちまち、船底のあちこちから浸水が始まる。全員で掻い出す。それは、ドラクロアの名画、メディユス号の筏を連想させる光景だ。
 そんな中、ぼろエンジンは何度も止まってしまう。しかし、かれらは器用に修理し、また何とかカタカタと始動させる。

 今度は、ようやく陸地が見えた。モロッコの海岸、沖合い100kmとかのスペイン領カナリア諸島の一つである。

 だがしかし、そこへスペインの沿岸警備艇が現れる。全員が収容される。それでも今度は、全員、無事上陸し取調べが始まる。中に一人女性が混じっていたと係官が驚く。彼女は途中での仲介業者の暴行から身を守る為、男装していたのだ。

 この取調べで、出身地を上手く言葉が分からないふりをして誤魔化しとおせれば、スペイン本国のバルセロナなどに送られ1年間の滞在が許可されるそうだ。
 この密航に命懸けで同行した、記者とカメラマン二人はカメラ機材を没収されたとナレーションがあった。

 そして、岸壁の一部にローッカーのようなものがあり、ここに密航に失敗して流れ着いた死者が収容されているという。真鍮の名刺大かと見える、小さな番号札が哀れな漂着死体の墓碑銘なのだ。
その真鍮の番号札をアップしてドキュメントは終わった。

 視終わって、何だかずしんと重いものが胸に落ちる気がした。19世紀の話ではないのだ。今同じ地球の裏側で日常茶飯事のように起きているのだ。今日も、明日も。何と言うことだろう。こうした情景は、ボートピープルとしてキュウバでも中国でも、いつかはヴェトナムでもあった。

 そこからの脱出を、生命を懸けてもと人間に思い込ませる独裁、圧政、悪政とは、一体どんなものなのか?。“苛政は虎よりも猛し”とおしゃった孔子さまの時代も今も、少しも人智は進まず、変わらない無いのだろうか?。

 幸いにして、私たちはこれほどの苛政を知らないですんでいる。
 今、小泉自民党は、教育基本法を改定して、愛国心を義務付けようと画策しているかと聞く。
 しかし、そんなことをしなくても、このビデオ一本見せれば、日本人であることが、この国で暮らせることが、何だかんだと言ったところで、どれだけ有難いことか、たちどころに体得できるのではないか?。

 そして、今や、もうこのへんで、何とかならないかと思うのは、誰のものでもないこの地上を、早い者勝ち、強いもの勝ちで切り刻み、勝手に線引き、占拠、占有している人類普遍の常識とされている縄張り根性の極致、国家、国境についてである。
 しかも、西欧人の身勝手さである。昔は奴隷として、鎖で引きづり散々連れ出し、巨富を得ながら、つい最近でも自国の単純労働者が不足すると、さんざん甘言でつっておきながら、手が余ってくれば、もう来るなとばかりに国境戸締り躍起のありさま。

  「てふてふ ひらひら 甍を越えた。ー山頭火・句ー」

  「春 てふてふ一匹 韃靼海峡を渡って行った。-安西冬衛・詩ー」

 人間は、何時の日に、パスポートもビザも無しに、自由にこの地上の行きたいところへ、この一匹の蝶のようにひらひらと飛んで行けるようになるのだろうか?。

と、思うこの頃、さて皆様はいかがお思いでしょうか?。