今日,紹介するのはトム・クルーズの映画の方ではありません。ワーグナーのオペラの方です。
4月3日に新国立劇場のオペラ・「ワルキューレ」を見に行きました。
「ニーベルングの指環」の第1日で,先月の「ラインの黄金」(序夜)の続編です。「ラインの黄金」と同様に,ダン・エッティンガー指揮で,キース・ウォーナーの演出です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/40/fb46938cbe5a0687ce03927d607aa73b.jpg)
開演前の舞台です。名剣ノートゥングでしょう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/b9/9c350585fdfc85676307787729848f72.jpg)
「ラインの黄金」のストーリーの終了後,「ワルキューレ」のストーリーが始まるまでの間で,ヴォータンは人間の女性との間にジークムントとジークリンデの2人と兄妹をもうけ,智の神エルダとの間にはブリュンヒルデをもうけたことになっています。
第1幕では,巨大なテーブルセット(歌手は椅子の上にあがるのにも,階段を使ってあがり,椅子が一つのステージになるくらいです。)の置かれたフンディングの屋敷が舞台です。そこには,フンディングとジークリンデの夫婦の肖像画も飾られています。天井からは,ヴォータンの槍,ひいてはヴォータンの意志を象徴すると思われる巨大な矢印のオブジェがぶら下がっています。
そこに逃げ込んできたのは,昼間にフンディングの一族に追われ,手傷を負ったジークムントです。フンディングは帰宅し,自分の家にいるのが昼間の敵と分かったものの,秩序を重んじ,夜明けと共に戦うことを告げた上で,その夜は手出しはしません(実はフンディングの方が秩序を重んじる人間であり,ジークムントの方がいわゆるアウトローの存在です。)。
ジークリンデは,フンディングに眠り薬を飲ませた上で,ジークムントと語らいます。ジークリンデはジークムントの生き別れた妹で,2人は兄と妹であることを知ります。ジークリンデは,連れ去られてフンディングの屋敷に来ることになり,妻となったものの,下女同然の扱いを受けていたのでした(フンディングはささいなことからジークリンデに何度も暴力をふるおうとする,DV夫として描かれています。)。2人はお互いに強く共感し,惹かれあい,結ばれます。そしてジークムントは,フンディングの家のトネリコの木に刺されていたノートゥングの剣を引き抜き,武器を得ます。
第2幕では,古い映写機等の置かれたがらくた置き場のようなセットから始まります。ブリュンヒルデは,古いデパートの屋上にある子供の乗り物のような馬に乗って現れます。ヴォータンはブリュンヒルデに当初ジークムントを助けるよう命じます。
しかし,正妻フリッカが現れ,婚姻の意義等を説かれると,やむなくフリッカに従い,今度はフンディングを勝たせることを決めます。そこでヴォータンは,ブリュンヒルデに対し,ラインの黄金にまつわる自分の野心を打ち明け,その悩みを吐露しつつも,最終的に前の命令を撤回し,フンディングを勝たせるように命じます。
以前の2002年の上演では,ここでヴォータンの身勝手な振る舞いにブリュンヒルデが呆れ果てるというところが強調されていたように思いますが,今回の演出ではその要素は弱められ,ヴォータンの悩みとそれを受け止めるブリュンヒルデという演出になっていたような印象でした。
ブリュンヒルデは,その後,直接ジークムントとも対話し,その人となりにも触れ,あえてヴォータンの命令に背き,ジークムントを助けようとします。それがヴォータンの本当の希望と知っていたからでもあります。しかし,ヴォータンの槍の力により,戦いはジークムントの敗北と死という結末になります。
第3幕のワルキューレの騎行から始まる場面では,ワルハラは病院の救急医療の現場のように描かれています。ワルキューレの馬は病院のストレッチャーです。最初こそ度肝を抜く演出ですが,その後の展開はブリュンヒルデとヴォータンの対話で普通に進んでいきます。第2幕ではブリュンヒルデとヴォータンとの関係が従属的だったのに,第3幕では対等になるという趣旨のことがパンフレットに書かれていましたが,今回の演出では,第2幕,第3幕を通じてブリュンヒルデとヴォータンの関係は常に対等に近いものだったように感じられました。第2幕ではヴォータンはブリュンヒルデを相談相手として話をしていますし,第3幕でも,ブリュンヒルデがヴォータンの本当の、意向を理解しすぎたばかりに,ヴォータンの苦渋の命令に背いてしまい,ヴォータンとしては罰を与えなければならなくなってしまったという葛藤がうまく表現されています。
最後に,罰として神性を奪われたブリュンヒルデは深い眠りにつきますが,臆病者が近づかないように周囲を炎に守られることになります。かくして,次の主人公ジークフリートの救出を待つことになります。
最後の場面は演出のしようがないのだと思いますが,それまでの演出と比べて,非常にノーマルなので,かえってこの部分の演出が目立ってしまうようにも思えました。
以上,長文で書きましたが,演出はやはり面白いです。「ラインの黄金」よりは,わかりやすいように思います。
歌手陣も主要キャストは皆,奮戦しています。ジークリンデ役,フリッカ役が良かったです。ジークムント役はスタートはやや不安でしたが,第2幕以降はよかったと思います。
ヴォータンも「ラインの黄金」では,とても存在感が薄かったのですが,今回は善戦したように思います。
オケももちろんよかったです。
【余談】
今回は17時スタートで22時30分ころに終わりましたので,さすがに疲れました。ドイツで「指環」をみると,23時を過ぎることがざらで,深夜零時過ぎにフリードリッヒシュトラーセ駅(ベルリン)から,当時住んでいたシャルロッテンブルク地区の家までふらふらになりながら帰宅したことが何度もありましたが,今回は久しぶりにそれに近い状態で帰路につきました。
4月3日に新国立劇場のオペラ・「ワルキューレ」を見に行きました。
「ニーベルングの指環」の第1日で,先月の「ラインの黄金」(序夜)の続編です。「ラインの黄金」と同様に,ダン・エッティンガー指揮で,キース・ウォーナーの演出です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/40/fb46938cbe5a0687ce03927d607aa73b.jpg)
開演前の舞台です。名剣ノートゥングでしょう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/b9/9c350585fdfc85676307787729848f72.jpg)
「ラインの黄金」のストーリーの終了後,「ワルキューレ」のストーリーが始まるまでの間で,ヴォータンは人間の女性との間にジークムントとジークリンデの2人と兄妹をもうけ,智の神エルダとの間にはブリュンヒルデをもうけたことになっています。
第1幕では,巨大なテーブルセット(歌手は椅子の上にあがるのにも,階段を使ってあがり,椅子が一つのステージになるくらいです。)の置かれたフンディングの屋敷が舞台です。そこには,フンディングとジークリンデの夫婦の肖像画も飾られています。天井からは,ヴォータンの槍,ひいてはヴォータンの意志を象徴すると思われる巨大な矢印のオブジェがぶら下がっています。
そこに逃げ込んできたのは,昼間にフンディングの一族に追われ,手傷を負ったジークムントです。フンディングは帰宅し,自分の家にいるのが昼間の敵と分かったものの,秩序を重んじ,夜明けと共に戦うことを告げた上で,その夜は手出しはしません(実はフンディングの方が秩序を重んじる人間であり,ジークムントの方がいわゆるアウトローの存在です。)。
ジークリンデは,フンディングに眠り薬を飲ませた上で,ジークムントと語らいます。ジークリンデはジークムントの生き別れた妹で,2人は兄と妹であることを知ります。ジークリンデは,連れ去られてフンディングの屋敷に来ることになり,妻となったものの,下女同然の扱いを受けていたのでした(フンディングはささいなことからジークリンデに何度も暴力をふるおうとする,DV夫として描かれています。)。2人はお互いに強く共感し,惹かれあい,結ばれます。そしてジークムントは,フンディングの家のトネリコの木に刺されていたノートゥングの剣を引き抜き,武器を得ます。
第2幕では,古い映写機等の置かれたがらくた置き場のようなセットから始まります。ブリュンヒルデは,古いデパートの屋上にある子供の乗り物のような馬に乗って現れます。ヴォータンはブリュンヒルデに当初ジークムントを助けるよう命じます。
しかし,正妻フリッカが現れ,婚姻の意義等を説かれると,やむなくフリッカに従い,今度はフンディングを勝たせることを決めます。そこでヴォータンは,ブリュンヒルデに対し,ラインの黄金にまつわる自分の野心を打ち明け,その悩みを吐露しつつも,最終的に前の命令を撤回し,フンディングを勝たせるように命じます。
以前の2002年の上演では,ここでヴォータンの身勝手な振る舞いにブリュンヒルデが呆れ果てるというところが強調されていたように思いますが,今回の演出ではその要素は弱められ,ヴォータンの悩みとそれを受け止めるブリュンヒルデという演出になっていたような印象でした。
ブリュンヒルデは,その後,直接ジークムントとも対話し,その人となりにも触れ,あえてヴォータンの命令に背き,ジークムントを助けようとします。それがヴォータンの本当の希望と知っていたからでもあります。しかし,ヴォータンの槍の力により,戦いはジークムントの敗北と死という結末になります。
第3幕のワルキューレの騎行から始まる場面では,ワルハラは病院の救急医療の現場のように描かれています。ワルキューレの馬は病院のストレッチャーです。最初こそ度肝を抜く演出ですが,その後の展開はブリュンヒルデとヴォータンの対話で普通に進んでいきます。第2幕ではブリュンヒルデとヴォータンとの関係が従属的だったのに,第3幕では対等になるという趣旨のことがパンフレットに書かれていましたが,今回の演出では,第2幕,第3幕を通じてブリュンヒルデとヴォータンの関係は常に対等に近いものだったように感じられました。第2幕ではヴォータンはブリュンヒルデを相談相手として話をしていますし,第3幕でも,ブリュンヒルデがヴォータンの本当の、意向を理解しすぎたばかりに,ヴォータンの苦渋の命令に背いてしまい,ヴォータンとしては罰を与えなければならなくなってしまったという葛藤がうまく表現されています。
最後に,罰として神性を奪われたブリュンヒルデは深い眠りにつきますが,臆病者が近づかないように周囲を炎に守られることになります。かくして,次の主人公ジークフリートの救出を待つことになります。
最後の場面は演出のしようがないのだと思いますが,それまでの演出と比べて,非常にノーマルなので,かえってこの部分の演出が目立ってしまうようにも思えました。
以上,長文で書きましたが,演出はやはり面白いです。「ラインの黄金」よりは,わかりやすいように思います。
歌手陣も主要キャストは皆,奮戦しています。ジークリンデ役,フリッカ役が良かったです。ジークムント役はスタートはやや不安でしたが,第2幕以降はよかったと思います。
ヴォータンも「ラインの黄金」では,とても存在感が薄かったのですが,今回は善戦したように思います。
オケももちろんよかったです。
【余談】
今回は17時スタートで22時30分ころに終わりましたので,さすがに疲れました。ドイツで「指環」をみると,23時を過ぎることがざらで,深夜零時過ぎにフリードリッヒシュトラーセ駅(ベルリン)から,当時住んでいたシャルロッテンブルク地区の家までふらふらになりながら帰宅したことが何度もありましたが,今回は久しぶりにそれに近い状態で帰路につきました。