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平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

プライド

2007年05月31日 | コミック・アニメ・特撮
 一条ゆかりの「プライド」には、ふたりの主人公がいる。

★麻美史緒はお嬢様。
 「人を見下してる」「協調性がない」「性格がきつい」「正論を武器に相手を傷つける」「神様にひいきにされている」。
 そんなお嬢様。

★緑川萌は庶民。
 のし上がるためにはプライドなんか捨てた人間。
 成功の秘訣を「どんなにみっともなくても与えられたチャンスに食いつくこと。その道の一流の裏と表を知ること」と教えられ、実践する。

 この対照的なふたりでドラマは展開していく。
 ふたりはガチンコ対決をする。

 オペラコンクールでは、萌のハングリーさに史緒は負ける。
 萌は1曲目と2曲目で衣装を変えてインパクトで審査員にアピールする。
 そして史緒の母の死の秘密を歌う前の史緒に告げ、動揺させて勝つ。
 のし上がるためには何でもする。

 やがて史緒は父親の会社が倒産して、生活することを余儀なくされる。
 だがお嬢様育ち。生活能力は何もない。
 たちまち貯金を奪われて途方に暮れるが、彼女には持ってうまれた美貌と幼い頃から培った歌、そしてイタリア語がある。
 銀座のクラブ『プリマドンナ』で歌手として歌うことになり、たちまち話題を集める。
 そのお嬢様気質と美貌でクイーンレコードの副社長・神野にも結婚を申し込まれる。
 一方、萌は同じクラブ『プリマドンナ』で働くがホステスの見習いからのスタート。神野に憧れるが関心を示してもらえない。
 史緒と萌、持って生まれたものが違うのだ。
 美貌を含め、史緒の方が断然有利。
 そのため萌はプライドを捨てて努力しなければならない。
 職場のクラブでは酔っぱらって客の戻したものを手で受けとめ、「レモン水お持ちしますね。お召し物が汚れなくてよかったですね」と笑顔で言い、客の心を掴む。
 同伴をもらうための努力もする。
 悪口を客に吹き込んで蹴落とすことも厭わない。

 ふたりとも見事な人物造型だ。
 この人物造型はこんな面も見せる。
 ふたりの歌う歌だ。
 史緒の歌はひたすら綺麗。
 正しい発声、美しい発声、テクニック。
 しかし人の心を打たない。
 彼女には人生経験が、ソウルがないからだ。
 史緒はピアノを弾く池之端という男を好きになるが、彼の作る曲を歌うディーバにはなれない。なぜなら史緒には「遠吠えの様なせつなさ」がないからだ。
 史緒の歌は会話を楽しむ銀座のクラブに向いている。
 BGMでひたすら心地いい歌がクラブでは求められる。

 一方、萌の歌は対照的だ。
 テクニックは足りないが、ソウルがある。人の胸を打つ。
 哀しみを知っているから池之端の望む「遠吠えの様なせつなさ」も表現できる。

 美貌と美しい歌唱とテクニック。しかしソウルがない史緒。
 ソウルがあるが、テクニックを磨く時間やお金、そして人を魅了する美貌もない萌。
 人はあるものを得れば、同時に別のものを失う。
 それがきっちり描かれているキャラは魅力的だ。

 対照的なキャラクターを配置して描かれる物語。
 対照的なキャラクターのバトルはうねりを作り、読者はある時は史緒を、ある時は萌を応援する。
 こういう作劇もあったかと改めて気づかされた。


コメント
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