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平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

「沈黙の艦隊」~自主独立・対米自立・大国の欺瞞・核武装。現代的なテーマを描いた作品

2025年04月28日 | 邦画
 amazonプライムの実写版『沈黙の艦隊』を観た。

「われわれは今ここに〝独立国やまと〟の建国を宣言する」

 ド右翼のドラマだねえ。
 その思想は「対米自立」「自主独立」。
 かわぐちかいじさんって、そういう思想の人だったっけ?
 何しろ「シーバット」から改名した原子力潜水艦の名前が「やまと」。
 その「やまと」がアメリカ第3艦隊と戦って空母エイブラハム・リンカーンを沈める。
 第七艦隊との戦いでは空母ドナルド・レーガンにトマホークミサイルを撃ち込む。
 まるで太平洋戦争の戦艦大和の復讐戦のようだ。

 この〝やまと〟の戦いに官房長官の海原渉(江口洋介)は乗る。
 対米自立を唱える海原は言う。

「日本はずっと頭を下げてきた。
 また百年、顔色をうかがうのか? ヘコヘコしていくのか?
 それじゃあ、この国は永遠に変わらない。
 われわれに必要なのは覚悟です。
 ひとつの船で荒波に踏み出す覚悟。それがなければこの難局は乗り切れない」

『沈黙の艦隊』は「日本人よ、目覚めよ」「対米従属をやめて真の独立国家になろう」と挑発している。
 同時にアメリカとの戦いを通して
・日米安保がいかにインチキか?
・アメリカの面子や都合でまったく機能しないこと
 も暴いてみせた。
 日米安保第一の保守派の方はこの作品をどう見るのだろう?
 ………………………………………………
 
 独立国家やまとを建国した海江田四郎(大沢たかお)の主張はこうだ。
・大国の思惑に拠る偽善的な侵略を許さない。
・世界規模の超国家軍隊の創設に拠って世界平和を達成する。

 この海江田の主張は現在なかなかリアリティがある。

 まず〝大国の偽善的な侵略〟の大国とはアメリカのことだ。
 アメリカは「世界の警察官」を名乗って、さまざまな戦争をおこなって来た。
 それは「世界秩序」と「自由と民主主義」のためと言っているが、果たしてそうなのか?
 たとえばイラク戦争。
 あるいはイスラエルのガザ攻撃の容認・支持。
 最近ではトランプ氏が大統領になって「世界の警察官」をやめようとしているようだが。
 
 ロシアのウクライナ侵攻はまさに海江田が言う「大国の思惑に拠る戦争」だ。
 中国はこれを黙認。
 トランプはロシア寄りで調停をおこなおうとしている。
 小国の主張は無視され、大国の論理によって世界が動きつつある。

 だから現在、海江田の先程の主張が意味を持ってくる。
・大国の思惑に拠る偽善的な侵略を許さない。
・世界規模の超国家軍隊の創設に拠って世界平和を達成する。

 その先頭に立つのが、〝独立国やまと〟であり〝日本〟というわけだ。
 ちなみに世界規模の超国家軍隊の創設に関して竹上総理(笹野高史)は国連を想定している。

『沈黙の艦隊』
 ずいぶん前の作品だが、今、リアリティをもって迫って来る。
 さて、この作品の主張をどう考えるか?


※追記
 この作品のもうひとつのテーマが「核武装が国の独立を担保する」という主張だ。
 海江田の原潜は「核ミサイル」を持っているかもしれないと思われたから怖れられ、
 その主張に皆が耳を傾けた。

 アニメ『攻殻機動隊』でも出島の難民が独立国家を築くために「核」を手に入れようとした。

「核武装が国の独立を担保する」
 さて、これもどう考えたらいいのだろう?

コメント (4)
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「Winny(ウィニー)」~警察は未来の技術者・国民にこの逮捕が正しかったと胸をはって言えますか!?

2025年01月31日 | 邦画
 ナイフは犯罪に使われるが、ナイフを発明した人は罰せられるのか?

 映画『Winny(ウィニー)』はこのテーマを扱った作品である。
 現実に起こった事件でもある。

 金子勇(東出昌大)はプログラマー。
 ファイル共有ソフト“Winny”の開発した。

 WinnyはIT用語で言う「P2P」。
 サーバーを介さすパソコンなどの端末同士でデータをやりとりできるソフトだ。
「P2P」はインターネットの次世代型フォーマットだと言われている。
 つまりWinnyは日本がこのジャンルで大きくリードできる可能性を秘めたものだった。

 しかし、Winnyを利用したユーザーが著作権のある著作物を違法にやりとりしたことで、
 金子勇は「著作権法違反」などで逮捕。
 裁判をおこなうことになる。
 結果Winnyは「問題のあるソフト」として使用禁止に。
 ヴァージョンアップも、進化もできず、Winnyはそのまま消えていくことに……。

 そこで冒頭の命題の登場だ。
『ナイフは犯罪で使われるが、ナイフを発明した人は罪に問えるのか?』

 Winnyで違法なデータのやりとりをしたのは別の人間である。
 この人たちは逮捕されていい。
 しかし、開発者はどうなのか?
 金子勇の逮捕は正当なのか?

 金子勇の逮捕の背景には別の理由もあったらしい。
 Winnyを使ったことによるウイルス感染で、愛媛県警の裏金の極秘文書が漏洩してしまったのだ。
 警察とって極秘文書の漏洩は致命的なこと。あってはならないこと。
 それを引き起こしてしまうWinnyは違法なソフトとして消滅させた方がいい。
 だから金子勇を逮捕した?
 もし、これが事実だとしたら、
 警察の事情で優れた開発者や技術がつぶされたことになる。
 とんでもない愚行だ。

 金子勇の逮捕は別の問題も引き起こす可能性がある。
 他の開発者が萎縮してしまうことである。
 自分の開発した技術が悪用されたこと逮捕されるのなら、
 技術者は危なっかしくて技術開発などできない。
 結果、日本の技術は世界からどんどん遅れをとっていく。

 冒頭でも書いたが、Winny事件は実際に起こった事件である。
 映画『Winny』は、優れた開発者や技術が政治的・組織的な思惑で潰される愚かさを描いた作品で
 ある。
 これは現代日本の縮図とも言える。
 30年間ほとんど経済成長していない日本。
 画期的な技術や製品を生み出せないのは、こうしたことが原因なのだろう。

 現在、世界ではAIの開発競争が盛んだが、ぜひWinny事件のようなことがないことを願う。
 再エネ技術で日本は遅れをとっているが、原子力発電にこだわり過ぎている結果ではないか?
 原子力ムラが再エネ技術の発展を阻害している?


※関連動画
 映画『Winny』予告編(YouTube)

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「翔んで埼玉2~琵琶湖より愛をこめて」~上級の大阪・京都・兵庫と下級の滋賀・奈良・和歌山!

2025年01月08日 | 邦画
「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて」を観た!

 物語は──
 全国を大阪の植民地にする作戦が進行している。
 謎の白い粉をたこ焼きなどにして食べると関西人化してしまうのだ!笑
 たとえば意識は抵抗しているのに「なんでやねん」とツッコんでしまうとか。笑
 作戦を推進しているは「大阪」「京都」「兵庫」の上級・関西グループ。
 白い粉をつくるために甲子園の地下で強制労働させられているのは、
「滋賀」「奈良」「和歌山」の下級・関西グループ。
 ここに埼玉の麻実麗(GACKT)がやって来て、滋賀・奈良・和歌山の仲間と共に
「植民地作戦」を打ち砕く。
 ………………………………………………

 第1作「翔んで埼玉」を観た時、この作品は「自虐のススメ」を描いていると思った。
 自らを笑い飛ばし、最終的に自己肯定する。
 ダ埼玉で何が悪い?
 海がなくて何が悪い?
 誇るべきものがなくて何かが悪い?
 既存の価値観の逆転だ。

 自らの欠点やマイナスに悩んだり、悲しんだりするよりはそれを楽しもう!
 笑い飛ばそう!
 笑いはすべてを浄化する。
 そんなメッセージだ。

 実際、「翔んで埼玉2~琵琶湖より愛をこめて」は「琵琶湖以外に何もない滋賀」で大ヒットしたらしい。
 滋賀の方は素晴しい。
「自虐」をよく理解していらっしゃる。
 …………………………………………

 今作はパロディ作品でもある。

・埼玉と東京の関係
・埼玉と千葉の対立
・大阪の東京へのライバル意識
・京都、兵庫のエリート意識
・琵琶湖で大阪に水を供給しているという滋賀の自負
 こんな現実(違っていたらすみません)を誇張し、パロディ化することで浮かび上がらせている。

 あと見て思ったのが、このシリーズは『パラレルワールド』なのではないか、と思った。
「われわれの住んでいる世界」と「麗たちの住んでいる世界」は平行世界なのだ。
 ただ、このふたつの世界はときどき交差して同じ現実を共有する。
 パート2で言えば、
「大阪都構想の挫折」だとか「数年後に控えた万博」などが交差して共有した現実だ。

 まあ、wikiに拠れば、映画版は「伝説世界」と「現実世界」という解釈らしいんだけど、
 パラレルワールドの方がスッキリする気がする。
 

※追記
 三重県は滋賀・奈良・和歌山と同じ下級グループだったが、
 それが嫌で「関西」から「中部」に鞍替えしたらしい。笑

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映画「燃えよ剣」~政治やイデオロギーは人や組織を弱くする

2024年12月26日 | 邦画
 新選組・土方歳三(岡田准一)の物語である。

 剣・和泉守兼定を手に入れるくだりが面白い。
 刀商人から渡された剣を鞘から抜いて土方は言う。
「なんだ、錆びた刀じゃないか」
 すると商人。
「この刀は三百年間、あなたさまを待っていたのです。
 これまで多くの方がこの剣を鞘から抜こうとしましたが、抜けませんでした。
 しかし、あなたさまは抜きました。
 あなたさまはこの剣に新しく選ばれた方なのです」

 歴史ドラマでありながら伝奇的なエピソードだ。
 この和泉守兼定。
『ゴールデンカムイ』では土方歳三は生きていて、この刀を取り戻すために銀行を襲う。
 この剣を手にすることで土方は力を手に入れることが出来る。

 新選組と剣の関係はいろいろあって、
・近藤勇は「虎徹」
・沖田総司は「菊一文字」
・斎藤一は「鬼神丸国重」

 そして徳川家を滅ぼす刀は「村正」
 桑名の刀工集団・村正がつくる刃と徳川家には因縁があって、ネット情報に拠ると──
・妻・築山殿(瀬名)を処刑して斬った刀は村正
・関ヶ原の戦いの際、家康が怪我をした槍は村正
・大阪の陣で真田幸村が家康に投げつけた短刀は村正

 歴史の背景には「刀」の力が存在していたのかもしれない。
 ……………………………………………

 さて、本題。

 土方歳三は新選組を「日本一のケンカ集団」「武士の集団」にしようとする。
 そのことしか考えていない。
 しかし、近藤勇(鈴木亮平)、芹沢鴨(伊藤英明)、山南敬助(安井順平)らは違う。
「尊皇」「攘夷」といったイデオロギーに振りまわされ、
 帝、公家、徳川、薩摩、長州といった存在に翻弄される。

 その結果、新選組は弱体化する。
 確かに京都守護職・松平容保(尾上右近)の下で、京の不逞の輩と戦っている時は強かった。
 正しいことのために戦っているという自負があり、勢いもあった。
 だが、薩長が力を持ち、錦の御旗が掲げられ、朝敵になると動揺し、心が折れる。
 政治的な意見の対立で組織が分裂する。
 芹沢鴨のように権力を得た結果、カネや女に手を出して堕落するものもいる。

 政治やイデオロギー。
 土方はこれらにとらわれると、人や組織はブレて弱くなると考えている。
 土方がこだわっているのは「武士」であること。
「武士」としてどう生き死ぬかということ。

 人の生き方はさまざまであるが、土方歳三の生き様はストイックで潔い。

 ネタバレになるので具体的に書かないが、
 ラスト、土方の戦いぶりを温かい目で見ている人物たちが現れる。
 このシーンはちょっと泣ける……。


※関連動画
 映画『燃えよ剣』予告編(YouTube)

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「福田村事件」~関東大震災の負の歴史・福田村事件が映画化

2024年12月24日 | 邦画
 2023年の最大の問題作・映画「福田村事件」。
 現実にあった福田村事件とはとは次のような事件である。

 福田村事件
 1923年(大正12年)9月6日、関東大震災後の混乱および流言蜚語が生み出した社会不安の中で、
 香川県からの薬の行商団(配置薬販売業者)15名が千葉県福田村(現在の野田市)で地元の自警団に暴行され、9名が殺害された事件である。(ウィキペディアより)

 劇中、女性新聞記者は訴える。
「目の前で朝鮮人の女の子が自警団に殺されるのを見ました。書かせて下さい」
 しかしデスクは首を縦に振らない。
 内務省の「朝鮮人が火をつけ爆弾を作っている」という発表を記事にするように言う。
 これに対して女性記者は──
「新聞は何のために存在してるのですか!?」
「権力の言うことをただ書くだけなんですか?」
「これを書いた結果、何をもたらすのか教えて下さい」
 これに対してデスクは──
「俺はこれを書かないことの方が怖い」←つまり政府の弾圧に遭う。

 共産主義者は摘発・弾圧される。
 警察いはく、
「戒厳令が出ているので亀戸署で保護します」
 その結果、弾圧されて、死の際に共産主義者は──
「社会主義万歳! 労働者万歳!」
 これを見た市民は──
「お上に楯突くと、ああなるんだ」

 福田村で自警団に殺害された行商団は部落出身だ。
 積極的に出自を明かしたくないので、朝鮮人と疑われて殺害されてしまう。
 疑っている自警団はこんなことを要求する。
「十五円五十銭と言ってみろ」
「天皇陛下様の名前を最初から言ってみろ」
「天皇陛下万歳、天皇陛下万歳と言え!」
 捕まって殺されそうになる残りの行商人は念仏あるいは「水平社宣言」を唱える。
『人の世に熱あれ、人間に光あれ」

 水平社宣言を唱えた背景にあるのは、
 ただでさえ出自で理不尽な目に遭っているのに、今も言いがかりで理不尽な目に遭っていることへの怒りと祈念であろう。
 自分たちはなぜこんな理不尽な目に遭うのか? 差別のない社会が来てほしい。
 と彼らは訴えている。
 ………………………………………………………

 ハードな内容だった。
 たまには、こういう心にガツンと来る作品を見た方がいいと思う。
 そして「自分」と「日本人」というものに向き合うのだ。

 この作品に対して、史実と違うという話が早速出ているようだが、
 相変わらず、心の弱い人たちだな。

 もっと人間の醜さに目を向けよう。
 流言飛語で行動してしまう愚かさを認識しよう。
 同調圧力の息苦しさを感じよう。

 僕は少なくとも、この作品で描かれたような愚かで息苦しい社会にしてはいけないと考えている。


※関連動画
「福田村事件」予告編(YouTube)

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映画「ゴールデンカムイ」~明治の社会に居場所のない男たちが北海道で暴れまわる! アイヌの少女・アシㇼパが魅力的!

2024年08月17日 | 邦画
 映画『ゴールデンカムイ』を観た。
 なるほど~、この方法があったか!
 日本だと、銃の撃ち合いはどうしてもウソっぽくなってしまう。
 でも、それが明治三十七年の日露戦争後で、舞台が北海道があれば、ほとんど違和感はない。
 主人公の杉元佐一(山﨑賢人)や敵は陸軍の軍服を着ているしね。

 物語はアイヌの金塊をめぐる戦い。
 脱走した死刑囚の背中に金塊の隠し場所を描いた入れ墨があり、それを集めていくというのが
 メインのストーリーラインだ。
 これにアイヌの少女アシㇼパ(山田杏奈)が関わり、主人公・杉元の人生観が変わっていく。
 敵は金塊を狙う陸軍第七師団の鶴見中尉(玉木宏)。
 それに土方歳三(舘ひろし)! 何と土方は箱館戦争で死なずに生きていた!
 自分の愛刀・和泉守兼定を取り戻すために襲撃したりする。
 こういう虚実皮膜な所が面白い。

 第七師団の鶴見や土方がアイヌの金塊を求める理由は、これを資金にして『北海道に独立国家』を
 つくること。
 土方はもちろんそうだが、鶴見も明治政府に反抗的な、はみ出しものなのだ。
 主人公の杉元もそうだ。
 そんな彼らがイキイキと生きられるのは、まだ政府の手が行き届いていない北海道。
 いいですね、この世界観。

 日本史では、昭和の時代に入って満州馬賊が登場するが、
 彼らも鶴見同様、日本社会の枠の中で安住できない男たちだった。

 一方、彼らとは別の価値観で行動する人物もいる。
 ヒロインでアイヌの少女のアシㇼパだ。
 アシㇼパを始めとするアイヌの生き方は、自然との共生、神との会話だ。
 彼らは生きるためにリスや熊を殺して食べるが限度を知っている。
 親のいない小熊や狼がいれば育てる。
 神の言葉を心に刻み、民族の慣習や自らの運命に従って素朴に生きている。
 彼らには節度があり、過剰な欲望はない。

 こんな彼らの姿勢に、観ている僕たちは心を洗われる。
 主人公・杉元佐一もそうだった。
 だから、これらを体現するヒロイン・アシㇼパが魅力的!
 アシㇼパは山田杏奈さんがやっているのか。
 純粋さと芯の強さをもったアシㇼパを見事に演じている。

 杉元とアシㇼパのやりとりも面白い。
 アシㇼパは杉元の所持している味噌を「オサマ(ウンコ)」だと思って口にしない。笑
 杉元は助けた小熊をアシㇼパに食われると思って懐に隠している。笑
 こういう人間同士の交流! 異文化交流!
 アイヌのサバイバル技術が杉元を助ける所も面白い。

 面白い作品を見せてもらいました。
 アニメ版も見てみようと思う。
 脚本は映画『キングダム』シリーズも書いた黒岩勉さん。
 やっぱ黒岩さんの漫画脚色は上手いな。

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「怪物の木こり」「死刑にいたる病」~映画でサイコパスについて考える

2024年08月01日 | 邦画
「怪物の木こり」「死刑にいたる病」──サイコパスを扱った映画を観た。

 サイコパスの属性は次のようなものである。
1.口が達者で表面的な魅力がある。
2.誇大的な自己価値観。
3.刺激を求めやすい。
4.病的に虚言を繰り返す。
5.人を操作するために偽り騙す傾向がある。
6.良心や罪悪感が欠如している。
7.浅い感情。
8.冷淡で共感性がない。
9.かなり衝動的。
10.性行動が奔放。

「怪物の木こり」は特殊な脳チップを埋め込まれて
 倫理や共感能力がなくなってしまった主人公たちの物語だ。
 彼らはサイコパス的な行動をする。
 煩わしい人間は平気で殺害する。
 倫理や共感能力がないから殺害しても「痛み」を感じない。
 彼らは自由で不安がなく、サイコパスである自分を肯定している。

 ところが何かの衝撃で脳チップが壊れてしまった時──主人公は共感能力を取り戻す。
 他者の痛みや感情を共有して戸惑い、驚き、
 他者と触れ合うことに込み上げてくる喜びを感じる。
 他者が煩わしいだけのものでないとわかる。

 サイコパスである自分。
 サイコパスでない自分。
 主人公にとって、どちらが幸せであったのだろう?
 現代社会は前者の傾向が多いかな?
 殺人まではいかないが、他者と共感することを苦手な人、拒む人が多い気がする。
 たとえば都知事選で話題になった、あの人とか。
 ……………………………………………………………………

「死刑にいたる病」は完全なサイコパスの物語だ。
 榛村大和(阿部サダヲ)は快楽殺人をおこなう。そこに何のためらいもない。
 泰村は人を操る。
 他者が求めていることを感じ取り、そこにつけ込み信用させて殺害に及ぶ。
 サイコパス的な資質をもった人間を見つけることにも長けていて、
 それを引き出しサイコパスにする。

 物語は、自分の中のサイコパス資質に悩む筧井雅也(岡田健史)の視点で描かれるが、
 もうひとつ注目すべきは──
 サイコパス殺人鬼・泰村がなぜ警察に簡単に捕まってしまったかだ。

 今まで泰村は完璧に殺人をおこなって来た。
 しかし、ある時から犯行が杜撰になり、捕まえて来た少女を逃がし、証拠を残して、
 結局、逮捕されてしまう。

 おそらく泰村はサイコパスである自分に疲れてしまったのだろう。
 はやく死刑になって死んでしまいたかったのだろう。
 人間の心って、そんなに強固じゃないだろうし。
 あるいは泰村はサイコパス殺人すらも、つまらなくなってしまったのかもしれない。
 ただ自分の因子は残したかったので、筧井雅也をサイコパスにしようとした。

 現代社会──人の心はどんどん壊れていっている。
 人は多かれ少なかれ、上に書いたようなサイコパス要素を持っているような気がする。

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「アルキメデスの大戦」~「数字はウソをつかない」が「人間はウソをつく」。ここに人間社会の悲喜劇が生まれる。

2024年06月20日 | 邦画
 空母VS戦艦。
 来たるべき戦争で有効なのはどちらなのか?

 山本五十六(舘ひろし)と永野修(國村隼)は空母派。
 嶋田繁太郎(橋爪功)と造船中将・平山忠道(田中泯)は戦艦派。
 戦艦派の主張の根拠は──
「戦艦こそが日本海軍の象徴である」
「砲撃戦こそ日露戦争以来の日本海軍の伝統である」
「巨大戦艦を目の当たりにすれば敵は怖じ気づくだろう」
「戦艦は美しい」
 
 こんな理由で物事は決められていくんですね。
 戦闘機による戦いこそが次の戦い方なのに。
 現在の日本の防衛は大丈夫なのだろうか?
 今になって「ドローンが重要」とか言っているけど……。

 さて、空母VS戦艦。
 山本五十六ら空母派は「空母の建造費より戦艦の建造費が安いこと」に疑問を持つ。
 戦艦派の見積もりのウソを暴くために、自ら巨大戦艦の建造費を割り出そうとする。
 そこで抜擢されたのが、帝大の数学の天才・櫂直(かい・ただし 菅田将暉)だ。

 櫂は奮闘する。
 補佐するのは海軍少尉の田中正二郎(柄本佑)だ。
 艦船の建造費は海軍の機密であるため、十分な情報を得られない。
 七転八倒の末、櫂はこんな数式を導き出す。
『艦に使用された鉄の総量から建造費を割り出す数式』だ!←すげえ!

 結果、見積もりのウソがバレる。
 主人公・櫂は胸を張って言う。
「数字はウソをつかない!」

 だが、物語はここで別の展開を迎える。
「数字はウソをつかない」が「人間はウソをつく」のだ。

 人間や組織の意思決定は必ずしも「数字の正しさ」でおこなわれない。
「思惑」「利害」「思想」「理想」で決められる。
 そのためには数字を誤魔化すし、ウソもつく。
 だから人間社会は厄介なのだ。
 数字の正しさや合理性がなくても、あらぬ方向に突っ走ってしまう。
 ここに人間社会の悲喜劇が生まれる。

 物語はここからさらに、ひと捻り、ふた捻りされる。
 ネタバレになるので書かないが、この捻り方が素晴しい。
 これが映画『アルキメデスの大戦』を深い作品にしている。

 それにしても、平山中将ではないが、やはり戦艦大和は美しい。
 主人公の櫂もこの美しさには抗えなかった様子。

 監督・脚本・VFXは『ゴジラー1.0』の山崎貴さん。
 山崎貴監督はVFXで大和を再現したかったのだろう。
 山崎監督はTAMIYAのプラモデルを一生懸命作った子供だったに違いない。


※追記
 本作に拠れば、太平洋戦争開始時のアメリカと日本の国力差は──
 工業力~アメリカ:日本=50:1
 石油 ~アメリカ:日本=120:1
 やはり無謀な戦争だった。

※追記
 ヒロインの尾崎鏡子役は浜辺美波さん。
『ゴジラー1.0』でも使っていたけど、山崎監督、浜辺美波さんが好きだねえ。
 浜辺さん(鏡子)の顔がなぜ美しいのかを数学的に解明するシーンもあった。笑


※関連動画
 映画『アルキメデスの大戦』予告(YouYube)
 攻撃を受けて傾く大和……!

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『十角館の殺人』『屍人莊の殺人』~やはり「館もの」のミステリー作品は面白い!

2024年06月07日 | 邦画
 日本のミステリー作品を2本見た。
 いずれも『館(やかた)もの』だ。館に人が集められ殺人事件が起こる。
 一応「ネタバレなし」でレビューを書いてみる。

『十角館の殺人』
 綾辻行人・原作 Huluでドラマ化。

 この作品、『絶対に映像化できない作品』なのだ。
 小説だから成り立つ話なのだ。
 でも今回映像化されて僕はダマされてしまった。
 ええっ、そんな~!?
 ぜんぜん気づかなかった~!

 この作品を見ていると、人間の認識能力がいかにいい加減なものかがよくわかる。
 思い込みが認識を大きく歪めることがよくわかる。

 トリックは実にシンプルだ。
 さまざまな作品で擦られていて手垢のついたものだと言っていい。
 ただミスリードがいろいろ仕掛けられていて、それが真相を覆い隠している。
 ミスリードを取り除いていけば、真実はくっきり浮かび上がる。
 …………………………………………………………

『屍人莊の殺人』
 今村昌弘・原作 2019年映画化。

 ゾンビが凶器になるミステリーである。
 ついに『ゾンビが凶器』になるミステリーが来たか!
 斬新だねえ。画期的だねえ。
 まあ、ミステリーの古典には『毒蛇』や『オランウータン』が凶器になる作品があるが。

 個人的には、最初の殺人と最後の殺人のトリックがすごいと思った。
 これらは『ゾンビが凶器』でなければ実現不可能。
 ふむふむ、なるほど。
 最後のトリックは犯人がどうしてゾンビの特性を知り得たか、という疑問が残るが……。

 この作品の魅力は、剣崎比留子役の浜辺美波さんだろう。
『賭ケグルイ』『シン仮面ライダー』など浜辺美波さんはやはり2.5次元俳優。
 特異な衣裳を着たエキセントリックな変人役がよく似合う。
 その集大成が今回の比留子役だ。
・推理の時、白眼を剥いて頭をグリグリする。
・チッ! と舌打ちする。
・推理を披露する時、相撲の雲竜型をする。
・「協力してくれたらキスさせてあげる」と言う。←こんなこと言われたら、絶対協力するだろう!

 浜辺美波さんと神木隆之介さんは三度目の共演。
『屍人莊の殺人』(2019)
『らんまん』(2023・朝ドラ)
『ゴジラ-1.0』(2023)
 公私ともに仲がいいらしいし、もうお前らつき合っちゃえよ!←by『葬送のフリーレン』

 いい感じのコメディ&ミステリーになっています。
 原作は既読で、その地の文に若干のユーモアを感じたが、
 映画版では、監督が木村ひさしさんなのでコメディ要素が強くなっている。


※予告編はこちら
 映画『屍人莊の殺人』予告編(YouTube)

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「東京リベンジャーズ」~クソな人生から熱い人生へ! これが俺の人生のリベンジだ!

2024年05月24日 | 邦画
 実写版『東京リベンジャーズ』を観た。

 内容はタイムリープ×ヤンキーもの!
 現在を変えるために主人公が過去に戻って奮闘するというタイムリープものの王道と
 ヤンキーものを掛け合わせた作品だ。

 主人公・花垣 武道 (北村匠海)はカノジョの橘 日向 (今田美桜)を救うため、
 過去に戻ってヤンキー同士の抗争の中で奮闘する。

 物語が進むにつれて、武道の奮闘する目的が拡大していく所が面白い。
 当初の目的は、日向を救うためだったが、
 それが親友の千堂 敦(磯村勇斗)のため、
 「東京卍會」の副総長、通称ドラケンこと龍宮寺 堅(山田裕貴)を救うためと拡大していくのだ。
 その過程で武道はどんどん強くなっていく。
 人は背負うものが多くなればなるほど強くなれるのだ。
 この物語のダイナミズム!

 武道の戦いは自分のためでもある。
「俺の人生クソだって!」
 現在の武道は逃げてばかりだった自分を責めている。
 戦わずに逃げた結果、現在の人生は底辺の卑屈なものになっている。
 武道はそれを変えるために過去に戻る。
「こんな俺だってよ、譲れねえものがあるんだよ!」
「これは俺の人生のリベンジだ!」
 卑屈でない自分
 困難から逃げない自分
 ケンカが弱くても立ち向かう自分
 そんな自分を取り戻すために武道は過去に戻る。

 そんな奮闘の過程で、武道は心から信頼できる仲間を得る。
・前述のドラケンこと龍宮寺堅
・ダチの千堂敦
・「東京卍會」総長で通称マイキーこと佐野 万次郎(吉沢亮)

 彼らは弱くてもツッパって戦う武道を認めてくれる。
「タケミっち、お前、これから俺のダチ」
「お前。カッコいいよ」
「ケンカが強いヤツはクソほどいるけどな。
 譲れねえもののためにはどんなヤツにも楯突ける。そんなヤツはなかなかいねえ」

 これ、ヤンキーものの王道なんですよね。
 こうやって熱い絆で結ばれた仲間ができていく所が心地いい。
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 というわけで、1980年代に衰退したヤンキーものが復活した。

「ヤンキーなんてダサい」
「もっとお洒落にスマートに生きようぜ」
「やっぱ二次元。オタク万歳」
「ひきこもり。ニート」
「失われた30年。俺の人生お先真っ暗」

 こんな40年の時を経て、ヤンキーが自己主張を始めたのは何なのだろう?
 武道がタイムリープして、ヤンキーの熱い自分を見出したというのも象徴的だ。 

 ヤンキーの価値観とは何か?
 万次郎の言葉を借りれば、
「ひとりひとりがみんなのために命をはれる生き様」
「肩肘張ってケンカして自分の尻は自分で拭く生き様」

 僕はナンパなのでヤンキーは苦手なんだけど、感じるものはある。
 こういう価値観・生き様が見直される時代が来たのかもしれない。


※追記
 何という豪華なキャスト!
・北村匠海
・杉野遥亮
・吉沢亮
・山田裕貴
・永山絢斗
・高杉真宙
・眞栄田郷敦
・鈴木伸之
・磯村勇斗
・高良健吾
・村上虹郎
・間宮祥太朗
 今やドラマに欠かせない主役級の若手俳優ばかり。
 日向役は今田美桜さんがやっているのだが、最初は気づかなかった。

※追記
 宮藤官九郎さんの『不適切にもほどがある!』は『東リベ』に対するアンサー作品なのだろう。

コメント (2)
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