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平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

功名が辻 聚楽第行幸

2006年08月28日 | 大河ドラマ・時代劇
 「功名が辻」原作と映像の間。

 司馬遼太郎の作品は分析的で次の様な描写が多い。
 例えば、今回の聚楽第のこと。
 司馬遼太郎は秀吉と家康を比較してこう描いている。
「秀吉は、ひどく建築好きであった。この点家康とちがっている。家康は、信長、秀吉とちがって、実利一点ばりの男で、芸術への嗜好心がない。田舎の実篤な働き者の旦那に似ている。
 家康の美徳は多い。が、いずれも倹約、用心深さ、実直といった自分一個の自衛的な美徳ばかりで、世間に対してどうこうというひろがりのある美徳ではない。この男の面白さはここにあるだろうし、かれが後世にいたるまで人気を持たなかった理由は、そういうところにある」(第2巻 秀吉)

 司馬遼太郎の作品は人物論の小説である。
 必然、感情の起伏という点では乏しくなる。
 しかし、ドラマは感情を描かねばならない。
 だから拾を可愛いがる千代(仲間由紀恵)にいろいろな顔をさせたり、拾を育てることを許した一豊(上川隆也)に甘える姿を見せたりした。
 また、三成(中村橋之助)や加藤清正、小西行長への一豊の嫉妬心やふてくされて聚楽第の儀式に参加しない一豊、仮病がばれたら酷いお咎めにあうと千代に脅されて慌てて聚楽第に行く一豊などを描いた。
 これらは原作にはない人物描写である。
 しかし、これらを描いた方が一豊・千代が人間くさく見える。

 また主人公のヒーロー性についても映像ではふくらまさなければならない。
 原作では一豊のことを秀吉、寧々にこう言わせている。
「吏才は石田三成にはるかにおよばず、武勇は加藤清正の指ほどにもない凡庸な男」
 一豊に対する秀吉夫婦のつき合いの深さもドラマほどではない。
 寧々は秀吉に言う。
「山内一豊対馬守一豊は、わが家にとってふるき者でありますけれども、さまでの出頭(出世)もいたしませぬな」
「あれは、たしか長浜城主であったな」
 ぐらいのものである。

 これらは脚本の大石静さんのアレンジ。
 一方、大石さんも原作がこだわって描いたところをバッサリ省略している。
 例えば、千代の持っていた芸術的センス。
 今回のドラマでも登場した千代が縫った唐織の小袖。
 司馬遼太郎はこれを千代の芸術的才能として評価している。
「柄、生地の見立て、縫いのたしかさなどは尋常ではない。千代にはそういう点で、万人に一人と言っていいような天分がそなわっているのかもしれなかった」
 また、原作では千代は京の町に立ち、自分の作った唐織の小袖を似合う娘たちにしばしば与えたという描写があるが、ドラマではよねが死んだ時のみ。

 原作のどこをふくらませて、どこを省略するかは脚本家のセンス。
 時にはこういうドラマの見方をするのも面白い。

★追記
 司馬遼太郎の小説は政治論・歴史論でもある。
 司馬遼太郎は人物の目を借りて、時代や政治を表現している。 
 例えば、聚楽第、秀吉の建築好きについての分析を千代の目を借りてこう表現している。
「千代はこう思っていた。
 建築は天下のものなのである。秀吉はこの大工事によって京の土地をうるおし、竣工すれば、ここ数百年貧乏暮らしをしてきた公卿たちや、戦野から手取りにしてきた天下の英雄豪傑に華麗な礼服を着せて荒ぎもをやわらげさせ、聚楽第をもってそれらの社交場にしようと思っているのに違いなかったかった。
 遊びではあったが、秀吉はちゃんとその中に政治を含めている」

★追記 あらすじ(公式HPより)
 千代(仲間由紀恵)は、屋敷の門前に捨てられていた男の赤子を見つけ、拾(ひろい)と名づけて育てることにした。一豊(上川隆也)もそれを認めるが、表情は冴えない。帝の聚楽第行幸の世話役に任じられたのだ。千代は千代で、寧々(浅野ゆう子)から得意の裁縫で打掛を作るよう命じられる。その打掛を豊臣家の宝として飾りたいという言葉に驚き、固辞する千代だが、寧々は、『これは上意じゃ』と譲らない。一豊は慣れない蹴鞠の練習をしたり、同じ世話役の三成(中村橋之助)に儀典について一から教わり、千代は選りすぐった唐織を材料に打掛を縫い上げる。
 そして行幸の当日、秀吉(柄本明)によって案内された後陽成天皇(柄本時生)は、千代の打掛の前で足を止め賞賛、行幸は大成功のうちに幕を閉じた。
 そして懐妊していた茶々(永作博美)が無事に男児を出産。秀次(成宮寛貴)付きの宿老である一豊は秀次に随い祝いに訪れるが、茶々が産んだ赤子を豊臣家の跡取りに決めたと言わんばかりの秀吉の言葉に危惧を覚えた。これまで、跡目は秀次様とされてきたはずだが……。
 
コメント (2)
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