ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

24.02.01 芦原妃名子さんの悲劇について考えるための2本の記事

2024-02-01 | 政治/社会/経済/軍事
 芦原妃名子さんのご冥福を心よりお祈りいたします。








① ITmedia ビジネスオンライン
『セクシー田中さん』の悲劇で加速する 日本マンガ実写化ビジネスの海外流出
窪田順生
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2401/31/news045.html





 「テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動」(記事末に付された肩書より)しておられる方が、このたびの事件の経緯をまとめ、問題点を指摘したうえで、このような事態を齎すに至った日本社会の構造的な欠陥までをも分析した記事。
 いちいち尤もであり、ことに、
「芦原さんが必死の思いで訴えたことについてはこのままフタをするべきではない。なぜこんな行き違いが起きたのかと日本テレビは第三者調査を実施、その結果を踏まえて、テレビドラマ業界、漫画原作者、そして代理人を務める出版社が知恵を出しあって、漫画の実写化で二度とこのような問題が起きないようにすべきだ、と強く思う。」
 といった提言にはふかく頷かされる。ただ、惜しむらくはこの記事、冒頭部分に誤解をうむ余地がある。事情を知らぬまま一読すると、あたかも先に原作者たる芦原さんがネット上(ブログおよびX。現在はいずれも削除)にて発言をされたようにみえてしまうが、じっさいはまったく逆であって、脚本家の側が先にインスタグラムで内部事情を暴露したのである(現在は閲覧不能)。そのため、火の粉が降りかかるかたちになった芦原さんのほうが、小学館の担当者とじっくり検討したうえで、そうなるにいたった経緯をていねいに説明せざるを得なくなったわけだ。
 この時系列をがっちりと抑えておかねば、肝心のところがぼやけてしまうし、芦原さんの名誉のためにもいかがなものかと思う。
 すでに原文が削除されているので、ぼくはスクリーンショットで拝見したのだが、芦原さんの文章は、とても誠実かつ繊細で、心を打つものであった。筋が通っており、関係各位への配慮も行き届いていた。『セクシー田中さん』というタイトルから、「どうせ軽薄なラブコメだろう。」と判断してこの件に無頓着だったぼくが、一転して関心をもつようになったのはその文章を読んだためだ。
 脚本家によるインスタグラムの投稿は、いまは閲覧不能になっているので、こちらもぼくはスクリーンショットで見たのだけれど、芦原さんの文章に比べてずっと見劣りがした。短いうえに曖昧なため、責任の所在が定かでないし、なによりも悪いことに、原作者への敬意が微塵も感じられない。むしろ不満がそちらに向かっているように読める。そこに付いている同業業者のコメントと併せると、原作者に非があるような印象操作をしているとしか映らないのだ。
 こんなものを出されたら、誰だって自らの立場を釈明せざるをえないではないか。そうせざるをえないよう先に仕向けたのは脚本家の側であって、それがこのたびの悲劇につながった。ふつうに時系列を追っていけばそう判断せざるをえず、だからこそこれほどの「炎上」を招いているのだ。
 むろん個人攻撃や誹謗中傷は厳に慎むべきだけど、少なくとも、多くのひとの目にふれるかたちであのような投稿をして火種を蒔いたからには、脚本家の方は、ご自身の口から何らかの言明をすべきだとぼくは思う。いまは混乱してそれどころではないのか、あるいは、日本テレビのスタッフや関係者や法務担当者などと協議してらっしゃる最中なのかもしれないが、いずれにせよ、このままずっと口を噤んでいられるものではない。文筆で口を糊しておられる方なら尚更である。










 とはいえ、繰り返しになるが、個人攻撃や誹謗中傷は厳に慎むべきものである。ぼくなどが義憤に駆られているのは、脚本家さんがインスタグラムに軽率な投稿をして先に火種を蒔いたことに関してであって、そもそもの原因は原作者サイド(小学館)とドラマ制作側(日本テレビ)との齟齬にある。その点においては脚本家もまた被害者なのかもしれない(その根本的な原因にしっかり向き合うことなく、不特定多数が閲覧できるインスタグラムで一方的に内情をぶちまけた非はやっぱりご本人にあるとは思うが)。
 そこでもうひとつの記事。




➁東洋経済オンライン
「セクシー田中さん」悲しい出来事の裏にある現実
ドラマ関係者のバッシング過熱に感じること
木村隆志
https://toyokeizai.net/articles/-/731303



 これは、「コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者」の肩書をもつ木村氏が、「漫画や小説をドラマ化する際、関係者の間などで問題になりやすいところなどを挙げつつ、考えられる対策などを探って」いくために書かれたもの。ちょっと微妙な書き方ながら、「脚本家のインスタグラムのあとで原作者の言明が出た。」という時系列についても明示してある。制作現場の内情を知悉しておられる方らしく、とても参考になるが、率直なところをいわせてもらえば、「やはり業界に近い方のご意見だから、そっちのほうに甘いなぁ。」とぼく個人は感じた。たとえばメディアミックスによる収益配分ひとつ取っても、すべての根源たるべきクリエーター……本来ならば誰よりも大切にされるはずの、「ゼロ」から作品を生み出す原作者その人……がとかく冷遇されているのは周知のことだ。まずはそのあたりから見直していかねばなるまい。
 いずれにせよ、ここで紹介させていただいたお二方がそれぞれのかたちで述べておられるとおり、日本テレビは、なぜこのような行き違いが起きたか、第三者機関を入れて徹底的に調査し、その結果をできうるかぎり公表したうえで、それを踏まえて、ドラマ業界、その代理人を務める出版社、そして原作者たちが知恵を出しあい、実写化のプロジェクトによって二度とこのような問題が起きぬよう、全力を尽くすべきだろう。