ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

「これは面白い。」と思った小説100and more パート2 その⑤ 「戦争にかかわる作品」02 日記・記録

2023-11-04 | 物語(ロマン)の愉楽
 さて、というわけで(委細は前回の記事を参照)、ようやくここでブックリストを更新するわけだけれども、のっけから乱暴な言い方をさせてもらうと、ぼくが「戦争にかかわる作品」の後半5冊をなかなか発表できなかったのは宮﨑駿のせいである。宮﨑さんの10年ぶりの新作『君たちはどう生きるか』のせいなのだ。
 ぼくはこの作品を観ていない。『千と千尋の神隠し』いこう、彼の全作を公開から一週間以内に観てきたぼくが、今回ばかりは劇場まで足を運ぶ気になれない。当ブログの「ジブリ」のカテゴリに、前作『風立ちぬ』への評論が7回分にわたって置いてあるけれど、あれは鑑賞ののち何年も経ってから書いたもので、ずいぶんソフトになっている。10年前、映画館から帰宅した直後に書いてブログに発表したものは、もっと激しい批判文だった。そのときはこのgooブログではなくocnブログだったので、あちらの閉鎖とともに記事も消え去ってしまったけれど、作品を観た直後にはぼくは相当腹を立てていたのだ。その理由は、「現代日本を代表するクリエイターで、多方面に大きな影響力をもつ宮﨑駿が、すでに人生の晩年に差し掛かっていながら、太平洋戦争の記憶に真正面から向き合おうとせず、結局はいつものファンタジーに逃げてしまった。」と感じたからだ。ぼくはそのことにたいそう失望した。
 もとより、彼にとっての同士であり盟友であり先輩でもある高畑勲氏が、すでに80年代バブル期に『火垂るの墓』というリアリスティックな秀作を残している(あまりに悲しいのでぼくはこれまで一度きりしか観てないけれど)。宮﨑さんがあれと同じような作品をつくることは、いろいろな意味でできないだろう。そのことは承知しているつもりだが、それにしたって、いくらなんでもあの描き方は甘すぎると思った。
 「風」からこのたびの「君たち」とのあいだには10年という歳月が横たわっている。政治的・社会的・国際的な動きは別にして、ことアニメ業界に限っていえば、このかんに起こった大きな出来事は、メジャーデビューした新海誠氏の大成功と、片淵素直監督による『この世界の片隅に』が製作・公開されたことだろう。このばあい、言及すべきは『この世界の片隅に』のほうになるけれども、この作品は、『火垂るの墓』のような実写に近い人物造形をせず、こうの史代さんの原作の描線を生かした漫画ふうのキャラで綴られている。そのことがかえって、庶民の平凡で穏やかな日常と、「戦争」という巨大な狂気との対比を際立たせ、作品のテーマをより広い観客へと届けることに寄与しているはずだ。そして、何よりも肝心なことに、『この世界の片隅に』はファンタジーではない。漫画ふうのキャラで綴られ、随所にファンタジックな趣向が凝らされてはいても、まぎれもなくリアリズムでつくられた作品である。
 いかに独立不羈の巨匠といえど、宮﨑さんが、この約20歳年少の後進監督の秀作を観ていないとは考えられない。そして、それを観たからには、従来の宮﨑タッチをあるていど改めて、より写実的な手法で「太平洋戦争下の庶民の日常」を描いてくれるのではないかと思っていた。つまり今度こそ、「いつものファンタジーに逃げ」ることなく、「太平洋戦争の記憶に真正面から向き合」ってくれるはずだと、ぼくとしては、ひとりで期待を大きく膨らませていたわけだ。
 前宣伝を一切しない、というプロデューサーの方針のもと、まるっきり事前情報のないまま公開日を迎えた『君たちはどう生きるか』であったが、ぼくが雑事に追われて映画館に行きそびれているうちに、ネット社会のありがたさ(もしくは恐ろしさ?)で、少しずつその内容が垣間見えてきた。もとより「そんなの一切顧みず、何はともあれ、一目散に劇場へと足を運ぶ」というのが然るべきファンのありようなんだろうけど、そこまで純真でないぼくは、来るべき鑑賞のよすがにしようと、できうるかぎり情報を集めた。そしてその結果として思ったのは、「なんだ、太平洋戦争下のニッポンを舞台にしたとはいっても、結局これは、またしてもファンタジーじゃないか?!」であった。がっくりきちゃったわけである。
 だから反撥として、このブログにおいては、ビジュアルではなく言葉によって、できるだけリアルで切実な「太平洋戦争の記憶」を伝えてくれるノンフィクションを紹介しようと思った。記録なんだから地味である。ファンタジーの対極に位置するものだ。読めばひたすら気が滅入る。だからこそ値打ちがある。そして、それと絡めて、『君たちはどう生きるか』への批判を盛大にやってやろうと思ってもいた。
 とはいえ、最初からいってるとおり、ぼくはこの作品を観てないのだ。本音をいうと、仮に来年か再来年あたりに「金曜ロードショー」で地上波初放送されることになっても、観る気になるかどうかわからない。それくらい、いまは嫌気がさしている。これは近頃アニメに飽きてしまったせいもあろうし、まあ、その時になってみなくちゃわからないけれども。
 だけどもちろん、どんな形であれ、じっさいに自分で観てもいないものを批判はできない(いや、何言ってるんだ今さんざんやったじゃないかと言われるやもしれぬが、さっきからやってるのは作品そのものに対する批判ではなく、あくまで、ぼくがネットから得た情報をもとに、自分なりの作品像を勝手に拵えて、勝手に嫌気がさしてるってことの説明である)。それで、とにかくにも劇場までは行かなくちゃ行かなくちゃ君たちを観に行かなくちゃ、でも傘がない、などと言っているうちに、はや夏も過ぎ、うかうかとしてると年も暮れようかという候になってきた。それで、このままではぜんぜんフツーに越年をしてしまうのは必定なので、とりあえず、エイヤッとばかりに筆を執った(実際には「パソコンのキーを叩いた」)次第なのである。
 いやいや、こうやって言語化すると、だいぶんすっきりした。なんだ、別にそんな大したことでもなかったな。もっと早くやっとくんだった。
 というわけで、なんだか前置きと本題との比重が入れ替わってしまった気もするが、 “「これは面白い。」と思った小説100and more パート2 その⑤ 「戦争にかかわる作品」” の後半5冊、小説ならざるノンフィクションの巻でございます。ウクライナに続いて今またパレスチナでも戦火が上がる。戦争の話はけっして過去のものにはなってくれない。いつだって現在進行形なのだ。




25 太平洋戦争日記 1~3 伊藤整 新潮文庫
26 敗戦日記        高見順 文春文庫
27 戦中派不戦日記     山田風太郎 ちくま文庫
28 ドキュメント 太平洋戦争全史 上下 亀井宏 講談社文庫
29 ガダルカナル戦記 1~4     亀井宏 講談社文庫