ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

物語/反物語をめぐる50冊 2018.05 アップデート版

2018-05-22 | 物語(ロマン)の愉楽
 昨年の5月に掲載した「物語/反物語をめぐる100冊」を大幅にヴァージョンアップしてお届けします。フィクション(小説)は避け、おおむね「評論」に分類されるものを中心に、100を50まで減らして……。多けりゃいいってもんじゃないからねえ。この1年、「物語」ってのは自分にとっての最大のテーマで、まあけっこう読んだですよ。その中から、学術的にどうこうはさておき、ほんとうに面白く、血肉になったと思えるものだけを精選。なるべく安価で、新刊で入手しやすいリストにすべく努めたけど、そうでないのも混じってます。



 01 世界神話事典 大林太良ほか 角川選書
 これだけは外せない。情報量がダントツ。

 02 映画の構造分析 内田樹 文春文庫
 600円ちょっとでさらさら読めて内容たっぷり。お買い得。

 03 物語の哲学 野家啓一 岩波現代文庫
 内田さんのをもっとアカデミックに哲学的に厳密に……という感じ。

 04 物語論 基礎と応用 橋本陽介 講談社選書メチエ
 正直、高い割にはそこまで充実してるとも思えぬのだが、プロップとかトドロフとかジュネットとか、基礎を知るには便利。

 05 物語論で読む村上春樹と宮崎駿 大塚英志 角川oneテーマ21
 大塚さんのはどれも有益だけど、もし一冊だけというならこれか。ただしたぶんもう新刊では売ってない。

 06 批評理論入門 廣野由美子 中公新書
 ロングセラー。「フランケンシュタイン」を素材にして現代批評理論を簡明に紹介。物語論というより、「物語る技術」を知るために。

 07 文化と両義性 山口昌男 岩波現代文庫
 かつて70年代半ば頃の大江健三郎さんを夢中にさせた一冊。今ぼくらが読んでもむろん面白い。とにかく情報の密度が高いのだ。

 08 ファンタジーを読む 河合隼雄 講談社α文庫→岩波現代文庫
 河合さんの著作から学んだことは計り知れない。ユングより、ぼくら日本人は結局のところ河合さんを読むほうがしっくりくるんじゃないか。海外の児童向けファンタジーをやわらかいことばで分析した一冊。
 09 昔話の深層 河合隼雄 講談社α文庫
 河合さんからもう一冊。こちらはおなじみグリム童話の分析。

 10 グリム童話の深層を読む 高橋義人 NHK出版
 グリム童話は物語の宝庫。河合さんのと併せ読むことでより多層的に楽しめる。鈴木晶『グリム童話』(講談社現代新書)もいい。

 11 決定版 世界の民話事典 日本民話の会(編) 講談社α文庫
 12 世界昔話ハンドブック 稲田浩二(ほか編) 三省堂
 13 日本昔話100選 稲田浩二・稲田和子 講談社α文庫
 14 ガイドブック 日本の民話 日本民話の会(編) 講談社
 この4冊でたいていのお話は網羅されてると思う。物語のあらゆるパターンは近代以前に出尽してるってことがよくわかる。もっぱら要約されてるけれど、読めばやっぱり面白い。ただ、新刊での入手が難しいものも。

 15 ヨーロッパの昔話 その形と本質 マックス・リュティ 小澤俊夫 訳 岩波文庫
 昔話研究の泰斗による古典。さきごろ文庫になった。上の4冊とあわせて読みたい。

 16 図説 金枝篇 上下 フレーザー 原著 マコーマック 編著 吉岡晶子 訳 講談社学術文庫
 こちらは民俗学の古典的名著。実証が甘いとの批判もあるが、興味ぶかい読み物であることは間違いない。原著を要約した編集版。

 17 定本 昔話と日本人の心〈〈物語と日本人の心〉コレクションVI〉 河合隼雄 岩波現代文庫
 18 神話と日本人の心   〈〈物語と日本人の心〉コレクションIII〉 河合隼雄 岩波現代文庫
 ここでまた河合さん。これほど柔かいことばで深いところまで連れてってくれる書き手はほかにいないのだ。似たようなモチーフの話なのに、やはり日本人には日本のものが沁みるのはなぜだろう。

 19 共同幻想論 吉本隆明 角川文庫ソフィア
 かつては「政治の書」として読まれたが、いま読めば、柳田国男「遠野物語」に依拠した豊かな物語論だ。

 20 熊野集 中上健次 講談社文芸文庫
 中上さんはじつは物語作家として下手くそだったと思う。ただ、「現実」と「物語」との関係について実作者の立場で終生考え詰めた。これはその記録というべき短篇+エッセイ集。

 21 官能美術史 池上英洋 ちくま学芸文庫
 泰西名画を素材に取り、「エロス」を軸にまとめた本。「ファム・ファタル(運命の女)」など、物語の基本要素がぎっしり。『残酷美術史』『美少年美術史』『美少女美術史』もあり。

 22 千の顔をもつ英雄 新訳版 上下 キャンベル 倉田真木ほか訳 ハヤカワ・ノンフィクション文庫
 「スターウォーズ」の創作に決定的な影響を与えたことで有名。ハリウッドではシナリオ・ライターの必読書とか。

 23 世界史の誕生 岡田英弘 ちくま文庫
 「歴史」もまた物語の一種ではある。「西洋史」「東洋史」「日本史」という(よく考えてみるとおかしな)区分を取り払い、チンギス・ハーンのモンゴルを基軸に「世界史」を語り直した好著。

 24 中国化する日本 増補版 與那覇潤 文春文庫 
 「歴史」を再編集して「物語り」直すという点では、これはぼくが読んだ中でもっとも明快でわかりやすい「日本史」だ。ただし著者の持論を受け容れるかどうかは別。

 25 ホラー小説大全 風間賢二 双葉文庫
 「恐怖」を軸にお話のパターンを考察した一冊。ドラキュラ、狼男、フランケンシュタイン(の怪物)についての考察付き。薄い本で、やや物足りぬが、意外と類書がない。

 26 ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2 東浩紀 講談社現代新書
 27 ゼロ年代の想像力 宇野常寛 ハヤカワ文庫
 東さんのも宇野さんのも、ぼくはここに挙げられてるアニメやドラマをほとんど見てないし、ましてゲームとなるとやったことも見たことも触ったこともなく、金輪際やる気もないけれど、それでも、というか、だからこそ、一応は目を通しとこう、と思って読んだ。それなりに面白かった。

 28 ニッポンの文学 佐々木敦 講談社現代新書
 佐々木さんは東さんや宇野さんよりも年上だし、話題も「ブンガク」に限られてるんで読みやすく、もちろん参考にもなったけれども、その論旨に全面的に賛同できるわけではもちろんない。

 29 テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ 伊藤剛 星海社新書
 マンガ大国ニッポン。しかし個々のマンガ作品をきちんと論じたテクストは少なく、使い勝手のよい方法論もぜんぜん確立されてない。ましてやアニメとなるとまるっきり手つかずに近くて、「ユリイカ」あたりが定期的にやる特集でも、それぞれの書き手が手さぐりでやってる状況だ。むしろネットのうえに、思いがけず優れた批評が転がってたりする。マンガやアニメは映像なんだから、ふつうの物語論とはべつに、視覚記号の束として作品を解析するための方法が必要なのである。『テヅカ・イズ・デッド』は、さほど読みやすくないが、その足掛かりとして評価できる。

 30 柄谷行人講演集成 思想的地震 柄谷行人 ちくま学芸文庫
 柄谷さんはおよそ「物語」が嫌いな方だと思う。歴史から政治から都市論から文学まで、幅広く示唆に富む本だが、「反‐物語」の書としても読める。

 31 カイエ・ソバージュⅠ 人類最古の哲学  中沢新一 講談社選書メチエ
 32 カイエ・ソバージュⅡ 熊から王へ    中沢新一 講談社選書メチエ
 33 カイエ・ソバージュⅢ 愛と経済のロゴス 中沢新一 講談社選書メチエ
 34 カイエ・ソバージュⅣ 神の発明     中沢新一 講談社選書メチエ
 35 カイエ・ソバージュⅤ 対称性人類学   中沢新一 講談社選書メチエ
 大学での講義録を元につくられたシリーズ。中沢さんの文章にはいつも途方もない豊饒さと、その裏返しの危なっかしさがつきまとう。半ば「ライブ盤」たるこの5冊には、その魅力と危うさとがいっそうよく表れている。

 36 増補 黒澤明の映画 ドナルド・リチー 三木宮彦 訳 現代教養文庫
 シェイクスピアの翻案をはじめ、『隠し砦の三悪人』がスターウォーズの元ネタのひとつになったりと、ひょっとしたら戦後最大の「物語作家」であったのかもしれない巨匠の作品群をくわしく論じた分厚い一冊。絶版なのが惜しい。

 37 監督 小津安二郎〔増補決定版〕 蓮実重彦 ちくま学芸文庫
 「作品」を織りなす映像のつらなりを、「生きた記号の束」としてていねいにていねいに読み解いていく評論。しかしなにしろ蓮実さんだから文章は晦渋、そもそも論の対象たる小津映画を観ずにこれだけ読んでもわからない。そういう意味では、今回あげた本の中で、いちばん敷居の高い一冊ですね。

 38 東京大学のアルバート・アイラー 歴史編/キーワード編 菊地成孔 文春文庫
 39 憂鬱と官能を教えた学校 バークリー・メソッドによって俯瞰される20世紀商業音楽史 上下 菊地成孔 河出文庫
 菊地さんの文章はやたらと面白いんですよ。ふつうのエッセイでも面白いのに、この4冊では「歴史」と「楽理」とが学べるわけ。でもって、楽理ってのは物語論に応用できる。こりゃ読むわな。もちろん、楽器もできないぼくみたいのがただ読んだだけで会得できるはずもないけど、とりあえず「なるほど。楽理ってこういうものか」と、とっかかりは得られますね。

 40 科学哲学への招待 野家啓一 ちくま学芸文庫
 野家さん二冊目。われわれの文明が依拠している「科学的言説」でさえも、絶対不変の「真理」ではなくやはり「物語」の一種、ということがわかる。

 41 聖書入門 小塩力 岩波新書
 欧米における最大の「物語」といえばいうまでもなく聖書であり、文明そのものから日常生活、ものの考え方に至るまで、聖書の影響ははかりしれない。しかし、ぼくらはどれだけ聖書について知ってるだろうか。これは1955年に出たものだが、いまだに版を重ねている。それはこの本の堅牢さを示してるんだろうけど、反面、60年以上もこれを超えるコンパクトな「聖書入門」が書かれてないのかと思うと、どないなっとんねん、という気もする。

 42 文学とは何か 上下 テリー・イーグルトン 大橋洋一 訳 岩波文庫
 ここから4冊は物語論というより文学(小説)論。いま手ごろな値段で買える文学論のうち、もっとも理論的完成度の高いのがこれ。

 43 アメリカ講義 イタロ・カルヴィーノ 米川良夫ほか訳 岩波文庫
 現代イタリアを代表する作家カルヴィーノ(故人)の講義録。すばらしい。この人が、小説のみならず物語のことを考え詰めてたことがよくわかる。

 44 小説の技法 ミラン・クンデラ 西永良成 訳 岩波文庫
 「実存の発見・実存の探求としての小説の可能性を問う、知的刺激に満ちた文学入門」と文庫版の表紙に書いてある。ぼくもそう思う。

 45 書きあぐねている人のための小説入門 保坂和志 中公文庫
 「どうすれば、小説は小説たりうるか。つまり、物語になってしまうことを避けられるのか」について考察したエッセイ。とぼくは読みました。

 46 忠臣蔵とは何か 丸谷才一 講談社文芸文庫
 「討ち入り」という一つの事件がいかにして同時代の「物語」となり、さらに後世に受け継がれていったか、についての(推理小説のように面白い)考察。

 47 ある神経病者の回想録 シュレーバー 渡辺哲夫 訳 講談社学術文庫
 徹底してロジカルに狂った人の、いわば「オレちゃん神話」とでもいうべき回想録。奇怪な妄想をここまで理路整然と語れることに驚く。ひとが「物語」に呑み込まれてしまうメカニズム(の一端)を可視化した一冊。

 48 わが闘争 上下 アドルフ・ヒトラー 平野一郎ほか訳 角川文庫
 これもまた、すこぶる頭のいい男による「オレちゃん神話」なんだけれども、先のシュレーバーと違うのは、この「物語」がこの人物ひとりの妄想に終わらず、爆発的に広まって、同時代のほぼ全国民に浸透し、「共同幻想」となってしまったこと。そして世界に未曽有の悲劇を招き寄せる。「物語」の恐ろしさを知らしめる一書。そしてまた、これを読んで本当に一抹の魅力も同意も感じないのか、ぼくら自身も試されるのだ。

 49 シュルリアリスム宣言・溶ける魚 ブルトン 巌谷国士 訳 岩波文庫
 「溶ける魚」は、おとぎ話のフォーマットで「言語実験」をやった作品。体調の悪い時は、ただの訳の分からぬ戯言の羅列としか見えない。しかし波長の合う時に読むと、ほとんど麻薬的な快楽に見舞われる。いや麻薬をやったことはないが。

 50 百物語 杉浦日向子 新潮文庫
 マンガ。46歳で惜しまれながら逝去した天才が遺した、『百日紅』(ちくま文庫)とならぶ代表作。江戸の怪談にヒントを得ているのだとは思うが、どれもが杉浦さん自身の色に染め上げられて、汲めども尽きぬ物語の井戸ともいうべき恐るべき作品。




HUGっと!プリキュア 16話のラストについて

2018-05-22 | プリキュア・シリーズ









 HUGっと!プリキュア 16話「みんなのカリスマ!? ほまれ師匠はつらいよ」のラストで起こったショッキングな件につき、すこし混乱があるようなので、かんたんに整理してみます。
 ルールーは、回路がショートしたのでも、なんらかの方法で爆破されたのでもありません。キュアエール姿のはなを庇って突き飛ばし、彼女のかわりに、頭上からの赤い光線(おそらくはレーザービームのような)に撃たれたわけです。
 きわめて分かりにくいけれど、一連のアクションを起こす直前、ルールーの眼球がほんの僅か上に向きます。それは彼女じしんの真上ではなく、キュアエールの上方なんですね。コンマ何秒という話だから、助けるためにはああするよりなかった。
 ルールーの計算能力なら、ポジションからいって、自分がかわりにビームの直撃をくらうのを避けられないとわかったでしょう。はなの眼前で、くちもとが小さく開く。あれはおそらく、「さようなら」の「さ」を言おうとしたのだと、私は解釈しています。
 ダメージを受けて両膝を付くとき、ガシャンと、かなり鋭い金属音がしますね。これまで、顔の辺りに電子基板みたいなイメージが浮かぶことはあっても、彼女が「アンドロイド」であることを露骨に示す描写はなかった。しかもそのあと、画面がルールーじしんの視界になって、ぼやけて歪んでブロックノイズが入り、ついにはぷつんと暗転してしまう。ニチアサの児童向けアニメとしては、ぎりぎりまで踏み込んだ描写でしょう。
 これまでのコミカルなイメージから、ここにきて一気にホラーチックなまでの極悪ぶりをみせたパップル(CV 大原さやか)は、意識のないルールーの頭を小突いて突き倒しながら、「できそこないの機械人形が、あたしの邪魔をするなんて、調整し直しね」と言いますが、あの「あたしの邪魔」というのは、キュアエトワールに変身アイテムを返したことではなくて、「キュアエールを狙った攻撃をルールーが妨害したこと」を指しているわけです。
 エトワールにアイテムを返した時は、まさに「何やってくれちゃってんのよー」という感じで、事情がいまひとつ呑み込めなかったんですが、身を挺してエールを助けたことで、ルールーがはなたちを好きになってしまったのを確信したわけです。
 いずれにせよ、クライアス社に対する裏切りが発覚した時点で、ルールーの回収~初期化はとうぜん予期しうることなので、遅かれ早かれこうなったとは思うんですが、それにしても、こちらの予測をはるかに超える演出でした。
 そもそも今回の作画・演出そのものが、「光と影」「晴天と曇りと雨」「花」「足元のアップ」などを十全に駆使した魔術的なまでの素晴らしさで、日常パートもバトルパートもよく動いており、仲直りした「じゅんな」と「あき」の遠景に向かって手を差し伸べたエトワールが、(彼女のキーイメージである)「星」を掴みとるくだりなど、ただ舌を巻くばかりでした。そんでもって、そのあとがアレですからね……。
 15周年の節目を飾る今年のプリキュア、われわれは毎週、すごいものを見せてもらっているのかもしれません。