ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

いまどきのブンガクを考えるための10冊。

2017-10-20 | 純文学って何?
 「いまどきの、つまりポストモダン(苦笑)の文学について考えたいときに嫌でもまあ読んどかなけりゃしょうがない10冊。」というサブタイトルにしたかったんだけど、果たしてgooブログの字数制限に引っ掛ってしまった。べつにgooブログでなくてもどこのブログでも引っ掛かるとは思うが。

 芥川賞の放つ権威は、あれやこれやでジリジリと衰えつつもまだNHKニュースで報じられるくらいの余光を保ってはいる。ノーベル文学賞だって、発表されれば当の作家の本が在庫切れになるくらいの話題性はある。しかしそれらはごく限られた範囲の話で、全体としては、漱石・鷗外あたりから連綿と続いた「純文学」というシステムは、市場としてはほぼ30年前から気息奄々(きそくえんえん)、「もうダメなんじゃないの」などと言われつつ、一部有志(これは作家および編集者、そしてその周辺の人たちをふくむ)の奮闘によって辛うじて生き延びてるような状態である。そういう意味では、なんだかんだ言っても『火花』のヒットは良かったと思うし、村上春樹はえらいとも思う。業界ぜんたいを潤すわけだから。

 ありていにいって、働き盛りの中高年は忙しすぎて小説なんて読む暇がない。今も昔も、もっぱら小説を買い支えてきたのは比較てき若い世代だと思うんだけど、この人たちがさっぱり純文学を読まない。ただ、文字(ことば)で書かれた「物語」をまるっきり読まないのかというとそうでもなくて、イラストやマンガやアニメやゲームと連動した「ライトノベル」はけっこう読まれてるのである。ヒット作など累計100万部を超すそうな。どういうことじゃあ。

 と怒っていても始まらぬわけで、あくまでも「近代」のサイドに立って、「昨今の若者は劣化した。」だの「若いうちは本を読み、人格を陶冶し、教養を身に付けよ。」などと嘆いたり説教したって暖簾(のれん)に腕押し糠(ぬか)に釘、馬の耳に念仏。というのが偽らざる現実であるのだからして、ここは「それはそういうものなのだ。ニホンはそういう国になっちまったのだ」とすっぱり受け入れ、ポストモダンOK、ライトノベル上等と、そういう境地に達するよりほかないのであった。

 しかし私は長年にわたって純文学に「信仰」と呼べるくらいの思い入れを抱いてきたため、そこに達するまでにはなかなかの葛藤があった。とはいえ、よく考えてみたら10代終わりから20代はじめにかけてニーチェを熱心に読んでおり、じつにニーチェこそ、この「ポストモダン」状況を人間界にもたらした筆頭の人物ではないか。そうだったんだよなあ。これぞ灯台下暗し。(今日はコトワザが多いな)

 「ポストモダン」とは「大きな物語があちこちで機能不全を起こし、社会全体のまとまりが急速に弱体化する(ⓒ東浩紀)」時代のことだ。ニーチェは「神の死」という概念によってこの情況を的確かつ冷酷にあらわしたんだけど、そこでは社会(共同体)ぜんたいが挙(こぞ)って目指すべき「究極の目的」がなくなっちまったわけだから、極端にいえば、あとに残るのは「グローバル資本主義」の下で個々の競争者たち(私たちのことです)が自らの利害を賭して闘うラットレースのみ。ゆえに「人格」も「教養」も必要ないし、もっというなら「内面」や「自我」さえ余計であり、求められるのは効率よく勝ち抜いていくための「マニュアル」だけってことになる。わが国の純文学が明治このかた懸命に追求してきた数多のテーマが、ことごとく不要、というかむしろジャマにさえなってしまうのである。そう考えると、純文学が読まれないのはむしろ必然ってことにもなりかねぬ。なんてこった。

 むろんこのような時代でも、いやこのような時代だからこそ競争に疲れて精神の慰めをもとめる人々も少なからず出る。だがそういう層のためには、これもまたけっこう手際よくマニュアル化された「新宗教」とか「スピリチュアル系」が用意されていたりする。純文学の出番はなかなか回ってこない。

 そこでライトノベルなのだが、私はこの分野についてお勉強をはじめたばかりなので、まとまったことは今は言えない。これがたんなる「文字で書かれたマンガ」にすぎず、若い人たちが暇つぶしに消費しているだけなのか、あるいはもっと、本質的というかなんというか、より切実なリアリティーを希求して読み漁ってるのか、そこのところがわからない。今回のリストは、そんな私みたいな「純文学ならわりと読んできたけど、ライトノベルはよく知らない。でもちょっと興味はある」人に向けてのものである。でもそんな人がこの地球上に何人くらいおられるものか。


 01 ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2  東浩紀 講談社現代新書
 02 動物化するポストモダン 東浩紀 講談社現代新書
 03 ゼロ年代の想像力   宇野常寛 ハヤカワ文庫
 04 ニッポンの文学    佐々木敦 講談社現代新書
 05 戦闘美少女の精神分析 斎藤環   ちくま文庫
 06 物語論で読む村上春樹と宮崎駿    大塚英志 角川oneテーマ21   
 07 テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論 伊藤剛   星海社新書
 08 ユリイカ 2004年臨時増刊 西尾維新 青土社
 09 ユリイカ 2011年臨時増刊 涼宮ハルヒのユリイカ 青土社
 10 ユリイカ 2016年9月号  新海誠 青土社