今年(2019年)は『魔法少女まどか☆マギカ』全12話がテレビ放映され、8年まえの本放送の時は敬遠していたぼくも、初めて全編を通して鑑賞させてもらった。
このテレビ版・全12話と、再編集/総集編たる『[前編] 始まりの物語』と『[後編] 永遠の物語』、および完全新作の『[新編] 叛逆の物語』の3本を併せた「まど☆マギ・サーガ」は、10年代アニメ、もっというなら平成アニメの金字塔といっていいんじゃないか。
「セカイ系」をとことんまで突き詰めたその構想の訴求力はすこぶる大きく、これ以降につくられたサブカル・エンタメ作品で、何らかの形で影響を受けていないものを探すのは難しい。この26日に最新刊(9巻)が刊行された浅野いにおさんの傑作『デッドデッドデーモンズデデデデストラクション』にも、その痕跡はうかがえた。
「影(シャドウ)」という用語(概念)を使うなら、「まど☆マギ」はまさしくプリキュア・シリーズの陰画(ネガ)であり、影だろう。
プリキュア・シリーズが(商業主義の枠組みの中で)訴えてやまない希望と友愛。
まど☆マギが残酷に突きつけてくる絶望とディスコミュニケーション(関係不全)。
それらは表裏一体、不可分のものだ。どちらを欠いても、ぼくたちの生きるこの「世界」を十全に把握することはできない。
来期のタイトルは『ヒーリングっど♡プリキュア』とのことで、ビジュアルやキーコンセプトやメインスタッフや声優さんが公表された。
栄えある主役・桃キュアのCVは、かつて「鹿目まどか」を演じた悠木碧さん。すでに劇場版には妖精役で出演経験がおありらしいが、「まどかがとうとうプリキュアに!」と、感無量のファンも多いのではないか。
プリキュアとまど☆マギ双方に出た声優は、これまで蒼乃美希(キュアベリー)/美樹さやか役の喜多村英梨さんのみ。しかしこうなりゃいっそ、暁美ほむらこと斎藤千和さんをのちに追加戦士となる敵幹部役で起用して、前半いっぱい桃キュアさんと愛憎渦巻く確執を……などと思ったりもしてしまうが、もちろんそんなベタなことは起きない。出演者リストに斎藤さんの名前はない。
正直いうと、ちょっと残念ではあるんだけどもね。
「神」としてのまどかを愛しすぎたあまり自ら望んで「悪魔」となって叛逆を仕掛けるほむら。ミルトンの『失楽園』(岩波文庫)を彷彿とさせるこの設定が至極ぼくには気に入って、「悪魔ほむらの聖性」てなことをずっと考えている。
とうぶん答えは出そうにないが、考えるうち「メロドラマ」に興味がわいて、11月のアタマ頃にはその話ばかりやっていた。
この「メロドラマ」ってのは「昼メロ」みたいなやつとは違って、れっきとした文芸用語で、奥行きが深く、汎用性も高い。
主な項目を(ぼくなりに編集のうえで)書き出してみると、
(1)喜怒哀楽の「激情」に「ヒロイン」が見舞われる。
(2)すべての人物が、つねに劇的な、誇張された行動をとる。
(5)日常生活のなかで起きるドラマを美学化する。どんな出来事も、さまざまな手法を駆使して「崇高」なものに仕立てる。
といった具合になる。あらためて字に起こすと「なァんだ……。」といった感もあるが、映画・ドラマ・アニメ・マンガ、およそサブカル/エンタメに属するジャンルはおおむねこれに当てはまる。
つげ義春とか、近藤ようことか、こうの史代とか、高野文子とか、この定義から外れる作家のマンガを読んで「まるで純文学みたいだ。」と新鮮に感じるのは、逆にそれだけ「メロドラマ」が蔓延してる証左なのだ。
児童向けファンタジー・エンタメ・アニメたるプリキュアは、まどか☆マギカともども、もとより広義の「メロドラマ」だ。それゆえに、前回の記事で述べたような、ふとしたはずみで「純文学」になってしまう瞬間が、みずみずしく映るわけである。
☆☆☆☆☆
フワを抱き、天文台を出てララたちの待つロケットへと向かうひかるはまだ浮かぬ顔。冷たい雨も降りやまない。そこにカッパードが襲来するのは定跡どおりの展開だ。かくして「純文学」の時間帯はおわり、ここからはメロドラマへと突入する。
プリキュア・シリーズは、バトルアクションであると同時にじつは対話劇でもある。プリキュアたちは50回近い話数のなかで、敵と物理で激しくやり合いながら、作品の根幹にかかわるテーマについて必ず何度も問答を交わす。
多くの場合、敵たちは彼女らにまったく耳を貸さないし、彼女たちのことばそのものにもさほどの重みが伴わぬため、対話としては成立せず、堂々巡りの水掛け論に終始する。だが、幾たびとなく折衝を繰り返すうちに、プリキュアたちは成長し、強くなり、そのことばにも説得力が増していく。
本作のカッパードも、初回での登場いらい、ひかる、およびララと繰り返し問答を重ねてきた。かつて命の源である水を奪われて母星を滅ぼされた彼には、異星人同士が分かり合えるなどとは信じられぬし、そんな理想を無邪気に口にするひかるのことが許せない。他者とのコミュニケーションを認めず、ただ恐怖によって相手を従えるのを是とする彼は、裏返していえば、つねに相手を恐れてもいるわけだが……。
ではここから、耳コピで文字に起こしていきましょう。
プリキュア・シリーズは、バトルアクションであると同時にじつは対話劇でもある。プリキュアたちは50回近い話数のなかで、敵と物理で激しくやり合いながら、作品の根幹にかかわるテーマについて必ず何度も問答を交わす。
多くの場合、敵たちは彼女らにまったく耳を貸さないし、彼女たちのことばそのものにもさほどの重みが伴わぬため、対話としては成立せず、堂々巡りの水掛け論に終始する。だが、幾たびとなく折衝を繰り返すうちに、プリキュアたちは成長し、強くなり、そのことばにも説得力が増していく。
本作のカッパードも、初回での登場いらい、ひかる、およびララと繰り返し問答を重ねてきた。かつて命の源である水を奪われて母星を滅ぼされた彼には、異星人同士が分かり合えるなどとは信じられぬし、そんな理想を無邪気に口にするひかるのことが許せない。他者とのコミュニケーションを認めず、ただ恐怖によって相手を従えるのを是とする彼は、裏返していえば、つねに相手を恐れてもいるわけだが……。
ではここから、耳コピで文字に起こしていきましょう。
「ここで決着をつける」との意気込みで、自らの歪んだイマジネーションを増幅させるカッパード。その禍々しい力を籠めると、手にした武器が沙悟浄のもつあの半月型の刃の宝杖にかわる。
迷いを払拭できないひかるは大苦戦。キュアスターに変身するも、「背水の陣」(文字どおり)で臨むカッパードは強い。一方的にやられ、地に倒れ伏す。
「この星の水……。思い出す。俺の故郷を。旅人に分け与えるほどの豊かな資源。麗しき星を。そして、思い起こさせる。あの惨劇を! われらの善意は、奴らの悪意を増長させたのだ。すべて、奪われた! この憤りが、お前には理解できまい。ぬくぬくと生きている、お前にはな!」
フワのワープでかろうじて窮地を逃れるも、すぐに追撃され、さらなる攻撃を食らって、ついに変身が解除されてしまう。
「ひとは変わる。イマジネーションなどすぐ歪む。それなのにお前は、大好き、キラやば、いつもいつもそればかり。そんなものは無力! ……終わりだ。」
そこに、間一髪で、仲間たちが宙を走って駆けつける。
えれな(キュアソレイユ)、まどか(キュアセレーネ)、ユニ(キュアコスモ)は戦闘員たちと交戦。ララ(キュアミルキー)が一人でカッパードの行く手を阻む。
かさにかかったカッパード氏、キュアミルキーを意に介せず、倒れたままのひかるを見下げる。
「いい目だ……恐怖に……歪んでいる。」
キュアミルキー、バリアを張ってひかるを守るも、宝杖の一撃によってあえなく破られ、背中から地面に倒れこむ。
ひかる「私のせいだ……私が……トゥインクル・イマジネーションを見つけられないから……。みんな……ごめん。」
「ふっ。見つけられるはずがないだろう。お前ごときが。この宇宙の現実も知らず、異星人同士が理解できるなどと、綺麗事を言っている、お前ではなーッ。」
そのときララが、よろよろと立ち上がりながら……
「そんなこと……ないルン。……綺麗事なんかじゃ……ないルン。」
「ミルキー……」
……怯むことなく、カッパードと対峙する。
「ちゃんと、仲良くなれたルン。ひかるやえれなや、まどかたち。それだけじゃ……ないルン。あなたも見たルン? 2年3組のみんなを! みんなが、受け容れてくれたルン。私らしくしてても、ちゃんと理解しあえるって、ひかるが、教えてくれたルン。」
「ララ……」
「ひかる……(振り向いて、ほほえみ)ひかるは、ひかるルン。」
遼じいの言葉が蘇る。「デネブは変わらず、輝き続けるんだろうねえ」
ひかる、立ち上がる。
「わたし、知りたい。宇宙のこと、みんなのこと……もっと知りたい! (生身のまま、カッパードに向かって、すたすたと歩み寄りながら)……それに、カッパード、あなたのことも!(決然たる面持ちで)」
「知るだと! ぬるい環境で育ったお前に、何がわかる!」
「……うん、そうだよ(悲しげに)。わからない(瞳がうるむ)。でも、だから私、あなたの輝きも、もっともっと、知りたいの!(きっぱりと顔を上げる。溢れる涙がこぼれて、ペンダントに落ちる) みんな星みたくさ、キラキラ輝いてる(この台詞ではもう涙はない)。その輝きが、教えてくれるの。輝きはそれぞれ、違うんだ、って。……わたしはわたし、輝いていたいんだーっ」
かくて、ひかるは覚醒し、トゥインクル・イマジネーションが発動する。
ひかる「私のせいだ……私が……トゥインクル・イマジネーションを見つけられないから……。みんな……ごめん。」
「ふっ。見つけられるはずがないだろう。お前ごときが。この宇宙の現実も知らず、異星人同士が理解できるなどと、綺麗事を言っている、お前ではなーッ。」
そのときララが、よろよろと立ち上がりながら……
「そんなこと……ないルン。……綺麗事なんかじゃ……ないルン。」
「ミルキー……」
……怯むことなく、カッパードと対峙する。
「ちゃんと、仲良くなれたルン。ひかるやえれなや、まどかたち。それだけじゃ……ないルン。あなたも見たルン? 2年3組のみんなを! みんなが、受け容れてくれたルン。私らしくしてても、ちゃんと理解しあえるって、ひかるが、教えてくれたルン。」
「ララ……」
「ひかる……(振り向いて、ほほえみ)ひかるは、ひかるルン。」
遼じいの言葉が蘇る。「デネブは変わらず、輝き続けるんだろうねえ」
ひかる、立ち上がる。
「わたし、知りたい。宇宙のこと、みんなのこと……もっと知りたい! (生身のまま、カッパードに向かって、すたすたと歩み寄りながら)……それに、カッパード、あなたのことも!(決然たる面持ちで)」
「知るだと! ぬるい環境で育ったお前に、何がわかる!」
「……うん、そうだよ(悲しげに)。わからない(瞳がうるむ)。でも、だから私、あなたの輝きも、もっともっと、知りたいの!(きっぱりと顔を上げる。溢れる涙がこぼれて、ペンダントに落ちる) みんな星みたくさ、キラキラ輝いてる(この台詞ではもう涙はない)。その輝きが、教えてくれるの。輝きはそれぞれ、違うんだ、って。……わたしはわたし、輝いていたいんだーっ」
かくて、ひかるは覚醒し、トゥインクル・イマジネーションが発動する。
このとき、えれな、まどか、ユニがその様子を遠目から見て安堵の表情を浮かべるところがよい。プルンス氏などは感涙にむせぶほどである。表立っては描かれなかったが、彼女たちがひそかにひかるを慮っていたことがよくわかる。
ひかる、再変身。その全身はトゥインクル・イマジネーションの輝きをまとって眩い。
カッパード、絶叫しながら渾身のパンチを叩きつけるも、キュアスターは難なく片手で受け止める。
「怖くない。あなたのことが少し、わかったから!」
「ほざけ! お前らに、なにがわかる!」
剣先を三叉の矛にかえ、それを繰り出すカッパード。キュアスターはその斬撃をかるがると躱す。躱し続ける。
「カッパード、ほかの星の人のこと、信じられないかもしれない。でもさ、私のことや、みんなのことも、わかってほしい。知ってほしいの。」
「黙れーっ。」
「怖がらないで……。」
「俺が、恐れているだとぉぉぉーっ。」
カッパード、大量の水を集めて空中に巨大な球体をつくる。
「砕け散れーっ。」
キュアスター、身構える4人を手で制して、
「スターパンチ」で粉砕。
最後はみんなの力を借りて、ついにカッパードの、歪んで捩れて膨れ上がったどす黒いイマジネーションを打ち破る。
雨も上がって晴れ間ものぞく。
ひかるは右利きだけど、「スターパンチ」はいつも左腕で打つ。決め技に使うのは左手と決めているようだ。しかし、相手に差し伸べるのは右手なのである。
しかし、その手を掴もうとしたカッパードは、無理やりダークネストに召喚され、背後に開いたワームホールの彼方に吸い込まれてしまった。
ラストカットは、4人の祝福を受けたあと、ふっと気づかわしげな表情になって夜空に浮かぶ遠い星を見つめるひかるのアップ。年明けはどうやら、最終決戦の幕開けのようである。