5本のDVDの1本です。
映画館でやっていたのを知っていたのですが、役所広司と小栗旬の二人のポスターを見て
「さあ、どうしよう?」と思ったのが正直な気持ちです。
役所広司さんは、コミカルな役所(やくどころ)もシリアスな役所(やくしょ)も何となく役所広司なので
どうしよう…という気持ちでした。
でも、見終わった気持ちは、「しまった…映画館で観たら良かった…」という気持ちにさせられました。
何ともいい感じで人間が描かれているのです。
もちろん、コミカルタッチで描かれているので「そんな話はないだろ!」と思う場面がないわけではないのですが…
簡単にストーリーを紹介すると…
役所広司分する林業労働者の岸は妻に先立たれ、仕事をやめた息子と一人暮らしをしています。
岸が、森でチェーンソーで木を切っていると、見知らぬ人が近寄ってきます。
「昔、昔、ある所に木こりが住んでいました。木こりが山で木を切っていると…」まさに昔話の雰囲気で始まっていきます。
見知らぬ人は、「本番中なので静かにしてほしい」という無理難題を押しつけてきます。
次の日、また見知らぬ人と再会します。
映画を撮っているのだが、川の増水のためにロケ地を変更したいので「20人くらいがザブザブ入れる川を知らないか」と言われます。
しかも車の故障で困っているということで、人のいい純朴な岸は言われたとおりに
監督の田辺と助監督の鳥居を別の地に案内していきます。
ということで
60代の岸は2年前に妻を亡くし、現在は仕事を辞めた息子と二人暮らし。岸はきこりの仕事をして生活している。
ゾンビ映画を撮っているという彼らに関心も無かった岸でしただが、
無理矢理案内させられたうえに、他のロケ隊の合流にまで借り出された上、ゾンビ役まで引き受けることになります。
こんな時間まで人を拘束しやがってと怒る岸でしたが、
きこりの仲間達が「映画に出たのか?」「すごいな」と持ち上げてくれてだんだんその気になってきます。
更に今まで撮影をしたものを観るから、「岸にも是非に」と鳥居が誘いにやって来ます。
ゾンビを演じた自分を映像で観た岸はもう止まらなくなります。
近くの温泉では、思わずゾンビの演技を再現してしまうほどです。
そこへ、映画監督の田辺が入ってきます。
ここでは、岸の方から田辺に近づいて話しかけます。このシーンは後の伏線になっていきます。
前半は役所広司さん目線で後半は映画作りの目線になってきます。
監督の田辺(小栗旬)は、気の弱い監督で、現場でも声小さくて、役者の言い分に押され、スタッフにも指示が出せません。
カメラマンからも助監督からもバカにされています。
しかも途中で現場から逃げ出そうとまでします。
本気で追い掛けて来た助監督の鳥居は「何でこんな若造が監督で、俺が助監督なんだ!」の怒りが爆発します。
そんな田辺を救ったのが、岸でした。ゾンビと戦う竹槍婦人隊の数が少ないと聞きつけ、だったらとご近所ネットワークで人を集めます。
予想以上の集まりに、現場の指揮が高まっていきます。
そこは映画好きな仲間の集まりです。助監督もこうしたらどうだ、カメラの人もレールを使ったらどうだ。といろんなアイディアを出してきます。
田辺もだんだん自信が出てきます。
「人が喜んでくれたら何でもやってしまう」岸の単純で純朴な日本人らしさがどんどん出てきます。
まるでフィルムコミッショナーと助監督になっていくほどです。
村の人はほとんど映画関係者になり、大人も子どもも、皆ゾンビメイクになります。ありえないけどいいセンスだと思いました。
どんどん自信をつけていく田辺監督は岸との距離も近くなっていき、ますます監督らしくなっていきます。
岸の方も、田辺との出会いで心境に変化が出てきます。
息子との間に気持ちが通じなくなっています。
「東京に行くから」と出て行く息子を勝手にしろと突き放します。
しかし田辺の映画監督になったいきさつ聞いて、息子への思いが変わっていきます。
父親が買ってきたビデオカメラがきっかけで、でも両親は新潟で旅館をやっている、長男だからこんなことして喜んでいるかわからないといいいます。
三回忌の前日、映画への協力ですっかり自分は頭から抜けていたのに、
東京から戻ってきた息子はちゃんとスーツを岸の分まで出して用意していました。
岸と田辺。出会ったことにより、お互い良い方向へと進んで行きます。
予言者のように言い放つことば「雨になるぞ」「晴れるぞ」自信に満ちた良いことばです。役所広司の張りのある声にぴったりです。
岸と田辺、風呂の場面での距離感が何となく笑えます。
人間を描くにはぴったりの日本映画という感じです。
けっこう好きな映画かもしれません。お勧めです。