赤羽のMさんから電話があり、ケータイの調子が悪くてサービスステーションで直させたのが、そのとき、メールが削除されるので、CDに落としたものを渡されたが、うちにはパソコンがないので、とりこめない、やってくれないかという。
多分、用事はそれだけではないなとは思ったけれど、断るのもなんなので、Macだから、できるかどうかわらないが、ということでオーケーした。
やってきたMさんがもってきたCDをセットしたが、案の定、開くと文字化けしてしまう。
Mさんは、「じゃあ、いいです。サービスステーションに持っていきます」という。
そんなこと、はじめからわかっていることなのだが、ちょっとこっちも意地になって、ファイルをMさんのケータイに直接メールしましょう、と言って、Mさんにアドレスを尋ねたら、覚えていないという。
「仕事に欠かせないから」という割には…。
こっちもますます意地になって、「じゃあ、Mさんから僕のパソコンにメールしてください。そうすれば、アドレスがわかる」と言って、私のパソコンのメールを教えると、Mさん、太い指でアドレスを入力しはじめたが、どうやら、これまでは受信専門だったらしく、入力に10分以上かかったと思うと、まちがっていたりで、苦心惨憺で、ようやく送信に成功、ただちにMさんのケータイに、CDデータを送信したが、「開くにはなんとかカードが必要です」という指示が出て、やっぱりサービスステーションに持っていってくださいということになった。
さてこれで一件落着と思ったが、「渡辺篤司が帰らない」じゃないが、Mさん、帰らない。
膝を抱えて座り込んで、タバコを吸い出し、吸い終わると、「まことに申し訳ないが」と、借金の申し込みだ。
実は、ひと月前にほんの少しだが、用立てたうち、半分を給料日の25日に振り込んでもらったばかりだ。
それから2週間しか経っていないが、たぶんそんなことだろうと思っていたので、こちらも驚かない。
派遣の給料は月平均20万くらいあり、少ないときで14万くらいだと聞いているし、それはたしかだ。
Mさんにそういうと、前借りしている分もあるし、南原さん以外にも借りている人があって、その人たちにも返すから、実質手取りは半分くらいだという。
しかし、月によって波があるとはいえ、収入は確実にあるのだからそれにあわせて生活をすればいいのだ。
なんでそれができないのか。
「酒でしょ」とはっきり言った。
実は、2、3年前、Mさんと食事をした。
私はお酒は飲まないので、むしゃむしゃ食ってそれでおしまいなのだが、Mさんは、即ビールを頼み、食事はどうでもいいといった感じで、簡単なものを注文し、実に嬉しそうにビールを空けた。
私はこれほどおいしそうにビールを飲む人は初めて見た感じがし、「これでは、Mさんに酒を飲むなとは言えない。収入が飲みきれないほどあれば別だが、これからずっとお金はほとんど酒につぎこんでしまうのだろう。」と思ったことをMさんに言い、でも、それでもせめて懐と相談しながら飲むべきでしょうと言った。
するとMさんは、「だから、高い酒は飲みません」と言った。
私は、「安い酒だと、その分たくさん飲めると思っちゃうんじゃないですか。結果的には同じことですよ」と言い、「まあ、私は酒飲まないのでいいたいこと言いますが」とフォローした。
するとMさん、「南原さんは、収入はなくても、好きなことを勝手にやっているから、ストレスはあまりないと思うんですよ。でも私は…刑務所です。刑務所で働いているみたいなものです。だから…」と言って口を噤んだ。
「新聞社の校閲室に入るには、カードを差し込んでドアを開けるんですが、私なんか、カードをもらえなくて、ちょっとお手洗いにいって帰ってくるたびに、ドアをノックして自分の名前を中の人に告げて…監獄に戻るような…」
派遣社員だからですか?と聞くと、Mさんは「え?」という顔をしたので、Mさんの「ストレス」は派遣というだけではないようだったが、Mさんの足下から臭ってくる靴下の臭いに閉口し、私は、最少限のお金を渡すと、Mさんは平身低頭して帰っていった。
Mさんのアパートは4万円風呂なしなので、ほとんど風呂には入らないのだろう。
風呂に入らなくても酒は飲みたい。タバコもやめられない。
「タバコ高くなったんでしょ?」
「410円ですよ。」
一日一箱らしいから、タバコ代だけで12000円だ。
「ケータイ代は月いくらくらいですか」と身元調査みたいになったが、聞くと、1万以上になるという。
「ドコモの一番高いやつを買ったので、その分割があるんです。」
「高いのって、いくらくらいするんですか?」
と聞いたら、8万円くらいだそうだ。
「私の住んでいるところは、3万5000円で風呂付きですよ。川口だけど、赤羽から一駅しかちがいませんよ」と水を向けると、「やっぱり赤羽は便利なんで」と。
なんだか、贅沢なんだよなあ、Mさん。
多分、用事はそれだけではないなとは思ったけれど、断るのもなんなので、Macだから、できるかどうかわらないが、ということでオーケーした。
やってきたMさんがもってきたCDをセットしたが、案の定、開くと文字化けしてしまう。
Mさんは、「じゃあ、いいです。サービスステーションに持っていきます」という。
そんなこと、はじめからわかっていることなのだが、ちょっとこっちも意地になって、ファイルをMさんのケータイに直接メールしましょう、と言って、Mさんにアドレスを尋ねたら、覚えていないという。
「仕事に欠かせないから」という割には…。
こっちもますます意地になって、「じゃあ、Mさんから僕のパソコンにメールしてください。そうすれば、アドレスがわかる」と言って、私のパソコンのメールを教えると、Mさん、太い指でアドレスを入力しはじめたが、どうやら、これまでは受信専門だったらしく、入力に10分以上かかったと思うと、まちがっていたりで、苦心惨憺で、ようやく送信に成功、ただちにMさんのケータイに、CDデータを送信したが、「開くにはなんとかカードが必要です」という指示が出て、やっぱりサービスステーションに持っていってくださいということになった。
さてこれで一件落着と思ったが、「渡辺篤司が帰らない」じゃないが、Mさん、帰らない。
膝を抱えて座り込んで、タバコを吸い出し、吸い終わると、「まことに申し訳ないが」と、借金の申し込みだ。
実は、ひと月前にほんの少しだが、用立てたうち、半分を給料日の25日に振り込んでもらったばかりだ。
それから2週間しか経っていないが、たぶんそんなことだろうと思っていたので、こちらも驚かない。
派遣の給料は月平均20万くらいあり、少ないときで14万くらいだと聞いているし、それはたしかだ。
Mさんにそういうと、前借りしている分もあるし、南原さん以外にも借りている人があって、その人たちにも返すから、実質手取りは半分くらいだという。
しかし、月によって波があるとはいえ、収入は確実にあるのだからそれにあわせて生活をすればいいのだ。
なんでそれができないのか。
「酒でしょ」とはっきり言った。
実は、2、3年前、Mさんと食事をした。
私はお酒は飲まないので、むしゃむしゃ食ってそれでおしまいなのだが、Mさんは、即ビールを頼み、食事はどうでもいいといった感じで、簡単なものを注文し、実に嬉しそうにビールを空けた。
私はこれほどおいしそうにビールを飲む人は初めて見た感じがし、「これでは、Mさんに酒を飲むなとは言えない。収入が飲みきれないほどあれば別だが、これからずっとお金はほとんど酒につぎこんでしまうのだろう。」と思ったことをMさんに言い、でも、それでもせめて懐と相談しながら飲むべきでしょうと言った。
するとMさんは、「だから、高い酒は飲みません」と言った。
私は、「安い酒だと、その分たくさん飲めると思っちゃうんじゃないですか。結果的には同じことですよ」と言い、「まあ、私は酒飲まないのでいいたいこと言いますが」とフォローした。
するとMさん、「南原さんは、収入はなくても、好きなことを勝手にやっているから、ストレスはあまりないと思うんですよ。でも私は…刑務所です。刑務所で働いているみたいなものです。だから…」と言って口を噤んだ。
「新聞社の校閲室に入るには、カードを差し込んでドアを開けるんですが、私なんか、カードをもらえなくて、ちょっとお手洗いにいって帰ってくるたびに、ドアをノックして自分の名前を中の人に告げて…監獄に戻るような…」
派遣社員だからですか?と聞くと、Mさんは「え?」という顔をしたので、Mさんの「ストレス」は派遣というだけではないようだったが、Mさんの足下から臭ってくる靴下の臭いに閉口し、私は、最少限のお金を渡すと、Mさんは平身低頭して帰っていった。
Mさんのアパートは4万円風呂なしなので、ほとんど風呂には入らないのだろう。
風呂に入らなくても酒は飲みたい。タバコもやめられない。
「タバコ高くなったんでしょ?」
「410円ですよ。」
一日一箱らしいから、タバコ代だけで12000円だ。
「ケータイ代は月いくらくらいですか」と身元調査みたいになったが、聞くと、1万以上になるという。
「ドコモの一番高いやつを買ったので、その分割があるんです。」
「高いのって、いくらくらいするんですか?」
と聞いたら、8万円くらいだそうだ。
「私の住んでいるところは、3万5000円で風呂付きですよ。川口だけど、赤羽から一駅しかちがいませんよ」と水を向けると、「やっぱり赤羽は便利なんで」と。
なんだか、贅沢なんだよなあ、Mさん。