パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

it`s a small world!

2006-09-13 15:54:19 | Weblog
 展覧会もあっという間に終わっちゃいました。ま、一週間ですからね。御来場いただきました、少数の方々に深く感謝します。で、御来場いただけなかった多くの方々は、当然、見ていただけなかったのですが、全部で九点、展示したうち、見本として三つほど、アップします。

    

 ン? そう、見ての通り、潰れた空き缶です。街で拾った空き缶をスキャナーでスキャンしたもので、光が脇から入らないように向かって左がアルミホイール、右がジーパンで覆いました。、
 アップした画像はほんの200KBほどしかありませんが、展示したものは、出力サイズ約七十センチ、解像度400で指定したので、一点で250MB近くあります。しかもtiffで圧縮したて
そのサイズなので、その前は、300MBを優に越え、スキャンに一点あたり20分以上かかりました。後で、リスマチックなどの出力センターのスキャンサービスの料金を調べたら、50MBで5000円、以後10MBあたり1000円とか書いてあったので、250MBだと……2万5千円?! 金額に換算すると実感が出ると思うけれど、展示したものはかなりの精細度です。あるいは、たとえば、蚤の眼が人間なみの解像度、色感を持っていたとしたら、こんな風に見えるのではないか、というか。

 そんなわけで、これは、厳密に言うと、いや、厳密に言わなくとも、明らかに写真ではありません。何故なら、写真はレンズを使うのが大前提だけれど、これは(スキャナーの構造はよく知らないけれど)レンズは使ってないのです。使っていたとしても、少なくともカメラのようには使っていない。したがってこれは、写真だとどうしても「潰れた空き缶のイメージ」ということになるけれど、「イメージ」ではないのです。では、なんというかというと……レーザー光線で実物をなぞることで、位相変換したというか……しかし、人間はどうしても、対象となる存在を、どこかの段階で「イメージ」という、一種のイデオロギーというか、可能性に変換してしまわざるを得ない。
 しかし、たとえば全盲の人は、そのような「可能性」に賭けるわけにはいかない。そんなことをしたら、たちまち車に引かれて死んでしまう。全盲の人は、あくまでも「接触」を基礎とする世界で生きるしかないわけで、それはたとえばこの潰れた缶の世界で言えば、ここには極めて細かい傷が無数に刻まれているのだけれど、その傷一つ一つがリアリティを持つ世界、そういう世界に生きているというか……。

 うーん、どうしても、一度は、生まれついての全盲の人に、その「感覚世界」というものを聞いてみたいと思うところだが……たとえば、全盲の天文学者というのはあり得るだろうか。そもそも、天文学というものは、宇宙のイメージを研究しているわけではない。むしろ、健常者ほどそのイメージにごまかされて、宇宙の真相から妨げられているとも言えるとしたら、盲目はハンディなどではないかもしれない。
 たとえば、大学の先生から、宇宙がいかに広大であるかを聞かされた時、健常者は、どうしてもイメージをそれに合わせて膨らませることで理解しようとする。言い変えると、「自分」が膨らんでしまう。全盲の人は、少なくとも、そういうことはありえない。逆に、「自分」がどんどん小さくなっていくのかもしれない。「潰れた缶」を宇宙と仮定すれば、「自分」が、その微細な傷の中にどんどんどんどんどんどん……入り込んでいくというか。そんなイメージが……うーん、またイメージが(笑)。


 それはともかく、展覧会は終わりましたが、まだ部屋にはそのまま飾りっぱなしなので、興味のある方はどうぞ、見に来て下さい。(ちなみに、it`s a small world!は展覧会のタイトルです)

 ではでは。