パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

無気味な錯覚

2005-12-16 16:02:45 | Weblog
 ラマチャンドランの「脳の中の幽霊」、非常におもしろし。ラマチャンドラン、通称「ラマちゃん」は、脚、腕などを事故等で失った人が、失ったにも関わらずそれが「存在」しているかのように感じる「幻肢」の研究、治療で有名なインド人科学者。
 「幻肢」とは、要するに、生活習慣の中で築き上げられた腕や脚に関する「感覚」が、それを失った後も、「感覚」だけが残存する現象だが、「残存」というからには、時間が経てばいずれ解消するのかと思っていたが、全然そうではないらしい。つまり、「残存=記憶」ということならば、脚や腕を失った直後にもっとも鮮明に「幻肢」を感じるはずだが、そうではなく、ある程度の時間、たとえば、一ヵ月とか二ヵ月とかを経過した頃に生じ、その後も決して減じることなく、ずっと持続してしまうのだそうだ。もちろん、意思で是正しようと思っても不可能である。

 なんで、こんなことが起こるかと言うと、ラマチャンドランによると、そもそも「脳」には、それぞれ担当する身体部位がある。たとえば、顔を担当する脳、脚を担当する脳、腕を担当する脳……に分かれている。これを「脳地図」というが、ここで、事故等で脚が失われたとすると、「脚担当」の脳には一切、信号が来なくなる。発信元がなくなるのだから、当たり前だが、その結果、脚担当の脳は、いわば仕事を失ってしまう。すると、脚担当の脳の隣の脳――これは「顔担当」の脳なんだそうだが、この「顔担当」の脳が、無職状態の「脚担当の脳」に侵犯してくる。そのため、顔の表情のほんのちょっとの変化を示す信号が「脚担当の脳」にも伝えられることになり、脚がなくなったことを知らない「脚担当の脳」は、顔の筋肉の変化情報を脚からの情報であると勘違いしてしまう。これが、「幻肢」現象なんだそうだ。すなわち、ラマチャンドランの治療を受けた人曰く、「ラマ先生、ありがとうございました。助かりました。脚がむずがゆくなったら、頬をかけばいいんですからね」というわけだ。

 この「幻肢」現象は、簡単に実験することができるそうだ。
 まず、あなたはテーブルの前に座って、片方の手をテーブルの下に隠す。そうして、友だちか誰かにテーブルと隠した方の手を不規則に、かつ同時に叩いてもらう。(ただし、この時、友だちが自分の手を叩いているところを見てはいけない)これを一分ほど続けると、隠した方の手が「叩かれている感覚」が、次第に「叩かれている机」と一体化してくる。これは、二つの不規則な打撃の連続が偶然に一致することは「不自然」であると「あなたの脳」が判断し、自分が叩かれているのは、「手」ではなく「机」だと結論付けてしまうからである。つまり、「机」が、自分の身体の一部分であると「錯覚」してしまうのだ。「机」の代りに、パーティーグッズの「生ゴムの腕」なんかを使うと、さらに無気味な経験を味わうことができる。クリスマスだし、お試しあれ。

 ところで、「不自然」と言えば、ビル強度偽装事件、マスコミ一同、よってたかって「あなたの言葉は不自然ですね」とか「この鉄筋の量は不自然ですね」とか言っているが、もっと端的に「建築基準法違反だ!」と言えっつーの。もってまわった言い方は、「不自然」だぞ。