高橋幸宏とダンエレクトロ

2023-02-01 18:07:32 | Music Life
高橋幸宏の訃報は突然にやってきた。2020年に脳腫瘍の摘出手術をしたことは知っていたし、以後は治療に専念していたこと、自身の50周年記念ライヴをキャンセルしたことなど、いろいろと聞き及んではいたものの、近いうちに復帰して元気な姿を再び見せてくれるだろうと、今にして思えば意外なほど楽観的に考えていたからだ。彼が亡くなったのは1月11日のこと。誤嚥性肺炎によるもので、70歳だった。

私は直撃世代なので、中学生の頃にYMOばかりを聴いていた時期があった。アルバムをすべて聴くだけでは飽き足らず、テレビ放映されたワールドツアーの映像も食い入るように見たし、FMで放送された彼らのライブもできうる限りチェックし、ちょっとしたアレンジの違いを楽しんだりもした。その頃の私はシンセサイザーの可能性や彼らの音楽が切り開いていく新たな地平といったものに対し、期待に胸をふくらませるばかりだったのだ。しかし、こうした蜜月状態は長くは続かず、「BGM」と「テクノデリック」で終了することとなった。私がYMOを次第に聴かなくなっていったのは、ほんの2年くらいの間に私の好きなものがシンセサイザーからギターへと変わっていき、60年代と70年代のロックに関心が向かっていったためだ。そんなわけなので、直撃世代といいながらも、私には高橋幸宏を悼む資格などないのだろう。ただ、あらゆる文化から絶縁されていた田舎の中学生が当時ヤンキーにならずにいられたのは彼らのおかげであるわけだし、音楽だけでなく、映画や文学、アートといったものへ関心の対象を広げていくことができたのも彼らがそれらの入り口となってくれたからなのだ。その恩は忘れてはいけないと思っている。



高橋幸宏は優れた音楽家であるだけでなく多彩な活動をしていたが、俳優としていくつかの映画に出演した。2009年に公開された「20世紀少年〈最終章〉ぼくらの旗」では唐沢寿明演じる主人公ケンヂのバンド仲間であるビリーを演じた。そこで彼はドラムではなくベースを演奏しているのだが、そのベースがダンエレクトロの DC BASS だったりするのだ。残念ながらこの演奏シーンではほんの一瞬しか映らなかったりするのだが、ダンエレクトロを抱えた高橋幸宏の姿はなかなかに渋い味わいがある。なぜこの演奏シーンでダンエレクトロだったのかを本人に確認することはもうできないが、彼のセンスでダンエレクトロを敢えて選んだのだと思いたい。
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