goo blog サービス終了のお知らせ 

VOX BM1 Escort Amplifier

2025-03-29 12:32:47 | Other Amps


この小さいアンプは VOX MB1 Escort という。これを手に入れたのはもう3~4年前のことになるだろうか、記憶はもう定かではない。何の気なしに私がよく行く楽器店のウェブサイトを見ていたとき、商品の背後に VOX の小さいアンプが映りこんでいるのに気がついた。しかも Pathfinder 10 とは明らかに違う。これはひょっとすると Escort か。それを確かめるために私はすぐにその店に向かい、そのアンプが Escort であることを確認し、その場で買い求めたというわけだ。ただし、イギリス製で電圧が230Vの仕様なので、ステップアップトランスがなければ使えない。そこで帰りに西田製作所にお邪魔して相談すると、たまたまあったトランスを譲っていただくこととなり、事なきを得たという次第。自宅の近所にこうしたショップがあるというのは本当に心強い限りである。

ところで VOX Escort とは一体どのようなアンプなのかといえば、電池駆動が可能な小さなソリッドステートアンプということになる。2種類あり、電池駆動のみのタイプを B2 といい、1974年から生産が始まったそうだ。それからしばらくして電池だけでなく壁のコンセントから電源の取れるタイプ BM1 が登場し、1983年まで生産が続けられた。電池駆動ができるといっても、当時のイギリスということもあり、使用する電池は PP9 といって、通常私たちがエフェクターなどに使用する 9V角電池と比較するとかなり大きいもので、それを2個使用することになっている。アンプの背中のフタを開けると確かに電池2個分のスナップが確認できる。今となってはこの PP9、日本では手に入れることがなかなか困難となっていて、あったとしても高額な値がつけられたりしている。なので、結局電池を使用した動作確認はできないまま今に至っている。機会に恵まれれば試してみたい。



このアンプは発売された当初、バスカーと呼ばれる路上ミュージシャンたちの間で広まった。彼らが演奏する路上や地下鉄の駅構内には電源がないため、電池駆動のアンプはとても有用だった。それは確かにそうだろう、しかしそれだけではなく、この小さいアンプは自宅での練習用にも使えそうだということで、そうしたニーズに応えるべく、電池に加えてコンセントから電源の取れる新たなタイプ(BM1)が生産されるようになったのである。



私が所有している Escort もその BM1 なのだが、その外観は VOX アンプの伝統的なデザインをそのまま縮小したもので、サイズは高さが22㎝、幅が33㎝、奥行は14㎝くらい。コントロール部は、インプットジャックが2つ、ヴォリュームとトーンのコントロールがひとつずつある。そして電源のセレクターがあり、ON/OFF のトグルスイッチがあるというシンプルなものである。スピーカーは5インチ程度のものがひとつ。VOXのウェブサイトによれば ELAC (ドイツのメーカー) のスピーカーのようだ。



実際に音を出してみると、そもそも出力も高くない (2.5W程度) ので大きな音はしない。ナチュラルに歪んだりもしないので、3~4年ギターを弾かずに過ごした私のブランクを埋める練習相手としてはちょうどいいかもしれない。とてもかわいいアンプで、私はこうしたものに目がないのだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2025年のダンエレクトロ(国内編)

2025-02-15 16:31:29 | Dano Info
2025年のダンエレクトロの新商品については先日このブログにも書いた通りなのだが、日本独自の商品展開があるというので、Chuya-Online のウェブサイトを見てみると、Uシェイプ、59DC、ロングスケール仕様のDC BASS といったダンエレクトロのスタンダードな機種において、レッド&シルバーのメタルフレークを施したモデルが出るということであった。



メタルフレークというのは、要するにラメラメ塗装のことなのだが、今までにない新しいカラーリングかといえばそうではなく、ダンエレクトロがシルバートーン・ブランドで出したアンプインケースの1448、1449、1457、1451、あるいは Wish Book Model として知られている1304、そして PRO-1 などなど、地味ながらもこれらのモデルにはブラックやブラウンの基調色に金や銀のメタルフレークが施されていたのであった。

今回のメタルフレークは、このような歴史を踏まえてのことなのかは不明だが、Dano研的にはそういうのを踏まえてやっていてほしいな、と思ったりするけどね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ダンエレ女子を探せ(20)

2025-02-01 10:52:14 | Dano Girls


(上 左→右)
YOSHIKO (The 5.6.7.8's) Silvertone 1448
OMO (The 5.6.7.8's) DC Bass
AINA THE END Convertible

(下 左→右)
Molly Payton 59 DIVINE
Sarah Deboe (Me + Deboe) 59DC
MANON (Johnnie Carwash) DC-3, 67 HEAVEN, DEAD ON 67
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2025年のダンエレクトロ

2025-01-25 10:03:36 | Dano Info
Danelectro | NAMM 2025


毎年恒例のNAMMショー、今年は1月21日から25日の開催とのこと。ダンエレクトロも出展しており、その様子を紹介した動画も上がっているので、2025年のダンエレクトロの新商品を見てみよう。



出展ブースに展示されているものを見ると、FIFTY-NINERS のバリトン、4弦、6弦、12弦が展示されていて、昨年と比べてあまり変化がないようではあるのだが、それでもいくつか面白いモデルがあった。

一つ目は PRO-1 のリイシューである。ダンエレクトロは2007年に中国製の Dano PRO として最初にリイシューしたあと、2012年に韓国製の Dano PRO (ヘッドがコークボトルになっている)を再度リイシューし、2021年、2023年には同じスペックながらも限定色モデルを出すなど、いろいろと手を変え品を変えやっていたのだが、今回のリイシューは1ピックアップで、なおかつペグポストの位置が非対称のヘッドなど、かなりオリジナルの PRO-1 に寄せてきているところが特筆すべきところだろう。とはいえ、さすがにブリッジは鉄板を折り曲げたものではなくて、ローズウッド・サドルが乗ったものとなっている。また、ボリュームとトーンのノブもオリジナルを忠実に再現している。

もう一つは何の変哲もなさそうなショートホーンなのだが、よく見るとその形状から kidney(腎臓)と呼ばれるピックガードが装着されていて、このモデルがブラック、コッパー、ホワイトの3色で展開されている。

ギターやベースはそんなところだが、エフェクターの新製品はというと、1999年頃に発売されたリバーブ、「スプリング・キング」をコンパクトにした「スプリング・キング・ジュニア」が登場した。小さくなったといっても本物のスプリングを内蔵しているだけあって、小さくするにも限界があったというわけだが、スプリング・キングのようにキック・パッドはついていないものの、蹴っ飛ばせばガシャーンというサウンドを得ることができるようだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

動画で楽しむDano(428)

2024-11-05 19:02:30 | Dano Movies(洋)
Young Fresh Fellows Still There's Hope


ヤング・フレッシュ・フェローズはスコット・マッコーイとチャック・キャロルによって1981年、シアトルで結成された。シアトル出身のせいなのか、彼らはオルタナティヴ・ロックにカテゴライズされているようだが、サウンド的にはパワーポップ、もしくはギターポップといったほうがいいように思う。

ファーストアルバムのリリースは1984年で、その後ジム・サングスターがベーシストとして参加、スコット・マッコーイはベースからギターに転向したそう。その後オリジナルメンバーだったチャック・キャロルが脱退、1988年のことであった。

彼らは現在も解散しているわけではないようだが、スコット・マッコーイはR.E.Mのメンバーと親しくなり、ツアーに同行したり、彼らとマイナス5というグループを作ったりして、そちらの活動にシフトしているようである。

この映像は1989年にリリースされた5枚目のアルバム「This One's for the Ladies」に収録された「Still There's Hope」という楽曲で、ベースのジム・サングスターがロングホーンベースを弾いている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

リチャード・トンプソンのダンエレクトロ

2024-08-16 18:21:22 | Dano Column


上の画像でシーフォームグリーンのダンエレクトロを抱えてポーズをとっているのはフェアポート・コンヴェンションのオリジナルメンバー、リチャード・トンプソンである。こんな画像があるからにはライブでもダンエレクトロを頻繁に演奏しているのではないかと動画を探してみたのだが、見つけることはできなかった。そのかわりと言っては何だが、ちょうどこの画像について、ネット上で質疑応答がされている書き込みを見つけたので紹介しておこう。

http://www.richardthompson-music.com/QAgeartunings.asp

質問者はその画像のダンエレクトロはあなたのものかと尋ねたのだが、リチャードさんは時々色だけで選んだギターでフォトセッションをすることがあると答え、自分を気取り屋と言い、恥ずかしいとも言っている。なのでおそらく、このダンエレクトロはリチャードさんのものではないのだろう。だが、発言の続きで、ダンエレクトロは古い友人で、たくさんのレコーディングで使用したとも言っているので、昔から何本かは所有してきたのではないかと思われる。

また、あなたはダンエレクトロの隠れファンだったりするのですか、という質問に対しては、イエスと答え、バリトンやベースも好きだと言っている。

リチャードさんがレコーディングでダンエレクトロを使用した楽曲として思い浮かぶのは「Word Unspoken, Sight Unseen」と「Crawl Black」だそうだが、実際それらを聴いてみた限りでは、それらがダンエレクトロのサウンドなのかどうかはよくわからなかった。

この他にもダンエレクトロに関する質問があったので、ついでに書いておくと、質問者はダンエレクトロのコンバーチブルを持っているそうなのだが、このギターのチューニングが弾いているそばから合わなくなってしまうとのことで、チューニングやイントネーションをキープするコツはあるかというのがその内容である。また、コンバーチブルの、ボディに乗せるだけの安っぽいブリッジなどを素晴らしいものに改造できる腕のあるルシアーがいるか、とも質問している。

これらの質問に対してリチャードさんは、チューニングが合っているということはダンエレクトロにおいては必ずしも美徳とは言えないのだと答えている。とはいえ、新しいペグへの交換がチューニングを安定させるのに役立つとも言っている。ブリッジについては、自分はまだ改造していないが、誰かにやってもらわなければならないと言っているので多少は気になっているのかもしれない。とりあえず、弦を太いゲージにして、ブリッジを少し高めにして、ブリッジからボディへの接地圧を高めることで、多少はズレにくくできるか、といったところで、ブリッジを固定したりするのはちょっと違うかと私は思うけどね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Danecaster の謎が解ける

2024-08-01 17:39:22 | Dano Column
ジム・ウォッシュバーンという、ダンエレクトロについて大変詳しい人がいるのだが、彼の Facebook に面白い記事があったので紹介することにしたい。

その記事というのは、以下の画像でジェフ・ベックとロッド・スチュワートが持っているギターに関するものである。



二人が持っているギターだが、一見、フェンダーのテレキャスターかと思いきや、ネックがおかしなものになっていることに気がつくだろう。このおかしなネック、実はダンエレクトロのベルズーキという12弦ギターのものなのだが、なぜこんなことになってしまったのかは、ギターマニアの間でもときどき話題になることがある。フェンダーとダンエレクトロではスケールが違うから、ネックを取り換えてオクターブチューニングが合うのかといったことが議論されることもあるが、ネックを取り換えた理由については、フェンダーのラジアスのきつい指板よりはダンエレクトロのフラットな指板のほうが弾きやすいからだろうという見解でほぼほぼ一致している。

ジムさんの記事に戻ると、実はこのギターはロン・ウッドが持っていたものだったということが明かされている。さらに驚くべきことに、このギターはロン・ウッドが The Birds というバンドに在籍していた頃に、ロンドンのイーリングにあったジム・マーシャルの店でセッティングしたものだったということも記されているのである。そしてこのギターは当時のイギリスではあまりにユニークだということで、当時の音楽雑誌「Beat Instrumental」に記事が掲載されるほどであった。「BIRD HAS A “DANECASTER” 」と見出しのついた記事を以下の画像で確認できるが、この記事では、誰が命名したのか、ロン・ウッド所有のギターのことを Danecaster と呼んでいる。



さて、ここで横道にそれるが、「Beat Instrumental」という雑誌について触れておきたい。これは1963年5月に「Beat Monthly」として創刊された雑誌で、誌名は18号から「Beat Instrumental Monthly」、37号から「Beat Instrumental」に変更となった。ギターやアンプ、エフェクターといった楽器や機材のレビュー、ミュージシャンへのインタビュー、レコード評、音楽に関する最新ニュースなどで構成される、今の日本で言えば「ギターマガジン」のような雑誌である。1960年代だと表紙は以下の画像のような感じである(「Dano研」的にロングホーンを弾くグラハム・ナッシュとショートホーンを弾くピート・タウンゼントが表紙になっているものを敢えて選んでおいた)。



ロン・ウッド所有の Danecaster とジム・マーシャルとの関係など、ジムさんの記事によって新たな発見があったが、そうなるともう一つの Danecaster のことが気になってくるというもの。以下の画像でピート・タウンゼントがアンプのキャビネットに突き刺しているギターのことである。



テレキャスターのボディにコークボトルヘッドのダンエレクトロのネックを取りつけたこのギターも、おそらくはジム・マーシャルの店でセッティングされたものではないだろうか。ピートとマーシャルとの関係や今回のジムさんの記事からすると、その可能性は非常に高くなったと言えるだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

動画で楽しむDano(427)

2024-07-27 20:17:36 | Dano Movies(洋)
Buzzcocks - Promises (Official Video)


バズコックスのメンバーがどんなギターを使っていたかなんて気にしたこともなかったので当然知らなかったのだが、ベースのスティーヴ・ガーベイがロングホーン・ベースを弾いている古いプロモーション映像(曲は彼らの7枚目のシングル「Promises」)を見つけてびっくりした。

バズコックスはイギリスのパンク・ロック・バンドであるが、その結成は、ボルトン工科大学の学生だったハワード・デヴォートがヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「シスター・レイ」を演奏するためにメンバーを募集し、同じ大学に通うピート・シェリーがそれに応じたことから始まる。

彼らは1976年2月にNME誌に掲載されたセックス・ピストルズの記事を読み、わざわざロンドンまで見に行き、大いに触発され、ピストルズをマンチェスターに呼ぼうと思いつく。セックス・ピストルズのマンチェスターでの最初のライブは40人ほどしか集客できなかったそうだが、観客の中にはバーナード・サムナーやモリッシーがいて、その後マンチェスターがイギリスの音楽シーンの中心地となっていく下地をつくったとされている。

バズコックスは1976年8月にマルコム・マクラーレンが主催した100クラブ・パンク・フェスティバルに出演し、UKツアーも行うなど、イギリスのパンク・シーンの中で次第に存在感を高めていくことになる。そんな中で自身で立ち上げたレーベルから4曲入りのEP「スパイラル・スクラッチ」をリリースし、独立レーベルを起こした最初のパンクバンドとなったものの、バズコックス結成を呼びかけたハワードがうるさい音楽に疲れ、大学に復学するためにバンドを脱退してしまったため(ハワードはその後、マガジンを結成することとなる)、ピート・シェリーを中心に活動を続けていくこととなった。

彼らはその後、ピート・シェリーを中心に、スティーヴ・ディグル、スティーヴ・ガーベイ、ジョン・マーの4人で1981年にいったん解散するまでに3枚のアルバムをリリースした。再結成は1989年、2018年には中心メンバーのピート・シェリーが亡くなってしまうが、メンバーチェンジをしながらも現在に至るまで活動している。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

動画で楽しむDano(426)

2024-06-02 18:55:23 | Dano Movies(洋)
DOGS - Little Johnny Jet (TV 1983)


フランスのパンク、といっても別にダフト・パンクのことを書きたいわけではなく、フランスで発生したパンクロック・ムーヴメントのことをあれこれと書いていこうと思っているのだが、まずはそもそもパンクロックとは何かといったことから始めなければならないだろう。

いわゆるパンクロックといえば、50年代のロックンロールと60年代のガレージロックの影響を受け、シンプルだがハードで攻撃的なサウンドと社会的不満をぶちまけるような歌詞、若者たちの体制への反抗を示すような過激なパフォーマンスを特徴としたもの、ということになるだろうが、パンクロックという呼称自体は60年代からガレージ系のロックバンドに対してすでに使用されており、その先駆的な存在としてはMC5やストゥージズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ニューヨーク・ドールズなどが挙げられる。70年代の半ばから、これらのバンドに影響を受け、ニューヨークのライブハウスであったCBGBを拠点として活動するようになっていたテレヴィジョンやパティ・スミス、ラモーンズなどをニューヨーク・パンクと呼び、スタイルとしてのパンクはここから始まるとされる。

このニューヨーク・パンクの影響がイギリスに波及し、セックス・ピストルズやザ・クラッシュが登場し、ロンドン・パンクとして大きな文化現象になっていくのは誰もが周知のことであるが、実はこの前に、一見するところパンクとはあまり縁のなさそうなフランスにおいてもパンク・ムーヴメントはすでに始まっていたというのである。

フランスにおけるパンク・ムーヴメントは1970年の初頭にはルー・リードのファンたちによって動き始めていた。マーク・ツェルマティとミシェル・エステバンの二人はレコードレーベルやショップを運営し、ロック雑誌を発行したり、イベントを企画したりするようになっていた。ヨーロッパで最初のパンクロック・フェスティバルはフランスのモン・ド・マルサンで1976年に開催されたという。フランスにおけるパンク・バンドとしてはメタル・アーベインやスティンキー・トイズなどがその最初期に登場した。

マーク・ツェルマティはこう語っている。
「本当のパンク・ムーヴメントはニューヨークで始まり、その影響がイギリスよりも先にパリにやってきたのは、僕らがニューヨークと本当につながっていたからなんだ」

マーク・ツェルマティは、マルコム・マクラーレンに「パンク」という用語を敢えて使うように説得したのだという。マルコム自身は実は「パンク」ではなく「ニュー・ウェーヴ」のほうを好んでいて、こちらを使いたがっていたらしい。

フランスがパンク・ムーヴメントに与えた影響としてはもう一つあって、それはマルコム・マクラーレンがまだ大学生だった頃にさかのぼる。1968年のこと、パリで起こった5月革命である。マルコムはパリにいる友人からその知らせを受けたが、自らはパリに行きたくても行けず、ただ、自分が通っていた大学を占拠した。マルコムはこの頃、5月革命を起こしたパリの学生たちに影響を与えたギィ・ドゥボールの著書「スペクタクルの社会」から影響を受けており、シチュアシオニスト・インターナショナルのイギリス支部とイギリスの左翼活動家が合流してできた、反芸術的な芸術運動を展開する「キング・モブ」のメンバーであった(「オックスフォード・ストリートの亡霊たち」にその影響がうかがえる)。

ギィ・ドゥボールの主張は例えば次のようなものである。
「近代的生産条件が支配的な社会では、生の全体がスペクタクルの厖大な蓄積として現れる。かつて直接的に生きられていたものはすべて、表象のうちに遠ざかってしまった」

そこで彼らが行うのが、「転用」あるいは「剽窃」とされる detournement という技法である。これはメディアによる既成のイメージをそれを批判する目的のために逆に利用することである。あるいはディック・ヘブディジのように「ブリコラージュ的戦術」といったほうがわかりやすいかもしれない。こうした技法がマルコムを通じてパンク・ムーヴメントにおけるファッションやグラフィック・デザインに顕著に現れた。より具体的に言えば、安全ピンやチェーンをアクセサリーとして身につけるというのもそうしたありかたの一つであるし、もともとは精神病患者を拘束するための「拘束衣」をファッション化するというのもそうであり、反体制のイメージで商業的な成功を収めるというのもそのねじれたありかたの一つであろう。

そんなわけで、フランスの5月革命から10年ほど経過したイギリスで、その思想がマルコム・マクラーレンによってパンク・ムーヴメントに流入したのである。

さて、ここからようやく動画の説明になるのだが、この動画はドッグスというバンドが1983年にTV出演したときの映像である。彼らは1973年にフランスのルーアンで、ボーカル&ギターのドミニク・ラブベを中心に結成された。ヴルヴェット・アンダーグラウンドやフレイミン・グルーヴィーズの影響を受けたガレージ系、パブ・ロック系、パンク・ニュー・ウェーヴ系のバンドである。2002年にドミニク・ラブベが45歳の若さで亡くなるまで、メンバーチェンジを繰り返しながら10枚のアルバムをリリースした。

この動画では彼らが1983年にリリースしたアルバム「Legendary Lovers」に収録された「Little Jhonny Jet」が演奏されており、当時のメンバー、アントワーヌ・マッシー・ペリエがダンエレクトロのギターリンを弾いている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音楽やバンドを題材にしたマンガとその後の展開

2024-05-11 20:48:21 | Music Life
音楽やバンドをテーマにしたマンガの人気が楽器業界にも波及した例としては、ハロルド作石の「BECK」、かきふらいの「けいおん!」、最近では、はまじあきの「ぼっち・ざ・ろっく!」などが思い浮かぶ。実際、これらのマンガの人気が上昇するとともに、物語に共感し、主人公たちと同じようにギターを弾き、バンドを組みたいと思う少年少女たちが増え、登場人物が使用した楽器(主にギター)と同じタイプのものが売れるようになったり、こうした動きに合わせ、初心者を対象にしたリーズナブルなシグネチャーモデルがつくられたりもして、楽器業界は大いに盛り上がることになった。「ぼっち・ざ・ろっく!」に至ってはギターマガジン2023年8月号の表紙を飾り、特集記事も組まれたが、ギターマガジン史上、マンガやアニメの架空のキャラクターが表紙になったのはそのときが初めてなのだそうだ。

ハロルド作石の「BECK」は1999年から2008年まで月刊少年マガジンに連載された。平凡な中学生だったが、天性の歌声を持つコユキ(田中幸雄)と7つの弾痕があるレスポールですさまじいサウンドを紡ぎ出す南竜介を中心に、様々な挫折を経ながらも成長していくバンドの物語が描かれている。

かきふらいの「けいおん!」は2007年から2012年までまんがタイムきららに連載された。女子高の軽音楽部の物語であるが、音楽的なことよりも日常生活が中心に描かれたことによって、バンド活動を身近なものにし、バンド人口の裾野を広げた。主人公の平沢唯も平凡な中学生だったが、高校で何かやろうと思い立って軽音楽部に入り、実は音感に優れているなど、隠れた能力を発揮していく。

はまじあきの「ぼっち・ざ・ろっく!」は2018年からまんがタイムきららMAXで連載中である。いわゆる陰キャ、コミュ障である主人公後藤ひとりが、父親から借りたギターにのめりこみ、動画投稿サイトでは評判になるほどの演奏技術を獲得したものの、人前での演奏となるとその性格のゆえうまくできないというところからバンド活動を通じて成長していく物語が描かれている。

これらの作品に共通しているのは、特に何の取柄もない平凡な少年少女がバンド活動を通じて隠れた才能を開花させ、やがて奇跡を起こしていくといった物語であり、ギターを弾ければカッコイイ、バンド活動は楽しく、気心の知れた仲間でバンドを組めば小さな奇跡を起こせるかも、と誰しもを夢見させる。しかし、ギターを始めてみればすぐに気がつくが、マンガの主人公たちのようにすぐに弾けるようにはならないのである。そこで、弾けない原因はギターにあるのではないかと考えだすと、チューニングが気になり、弦高が気になり、ネックの反りが気になり、しかし何をどうすればいいのかがわからないとなると、弾いていてもだんだん楽しくなくなってきてしまい、楽しくなくなればそのうち弾かなくなってしまうというわけだ。弾かなくなれば弾けないままギターのことなどそのうち忘れてしまうだろう。ギター初心者が直面するこうした問題に、今までの音楽マンガは応えることはできなかったと思う。

そんな中、それまでとはちょっと変わった音楽マンガが現れた。2018年からビッグコミックで連載中の髙橋ツトム「ギターショップロージー」がそれである。この店名はAC/DCの楽曲「ホール・ロッタ・ロージー」から取られたものであり、店を切り盛りする兄弟の名前もアンガスとマルコムというくらい、AC/DC愛に溢れているのだが、このショップを舞台に、ギターの修理を頼みに来る客とギター自体の物語が展開していくのである。こうしたリペアショップを題材にすることによって、ギターを弾くというだけではなく、ギターの構造、修理やモディファイのノウハウ、ひいてはギターの歴史やギターが担ってきた音楽の歴史など幅広い内容を盛り込むことが可能となる。



「ギターショップロージー」は現在3巻まで単行本化されており、第3巻の第14話にダンエレクトロの59DCが登場する。オリジナルの3021とは違うのだが、例えばヘッドに角度がついている部分などはきちんと描かれていたりする。物語は、ギターは低い位置で構えるのがやはりカッコイイというところで、ジミー・ペイジやポール・シムノンの話をしているところにジミー・ペイジのそっくりさんが店に現れるというところから始まる。そっくりさんはダンエレクトロを持ってきて、ネック側のピックアップが断線して音が出なくなったのをすぐに直したいと言ってくる。ブリッジ側のピックアップだけで乗り切るのはどうかと言えば、「そんなのはダメに決まっている」と言っているのに、結局ブリッジ側のピックアップをネック側に移して、ネック側のピックアップだけで通すことにするというのはどういうことなのか、今一つよくわからないところではあるが、いずれにせよ、このそっくりさんは新潟県出身であることも含めてジミー桜井氏をモデルにしていることは言うまでもないだろう。名前を赤船平次というのだが、赤はレッドを鉛のLEDではなく赤のREDに読み換え、船は当然のことながらツェッペリン伯爵が開発した硬式飛行船から取られているわけで、このキャラクターは今後も登場するだろうし、その伏線も張られている。

ギターというものは安いものでなくても、弾いているうちにどこかしら調子が悪くなってくるもので、ジャックの接触が悪くなるだの、トーンやボリュームのノブにガリが出てくるだの、ボディをぶつけて傷つけてしまうだの、ネックが反るだの、ピックアップが断線して音が出なくなってしまうだの、色々ある。なのでギターを弾くようになったら、本来なら自らハンダゴテを手にして電装系のパーツを交換するくらいはできるようになっておくべきなのだが、それがかなわないのなら、近所にギターのことを相談できる店があるとよい。「BECK」、「けいおん!」、「ぼっち・ざ・ろっく!」をきっかけにギターを手にしたら、その次には「ギターショップロージー」を読んで、リペアショップとのつきあい方を学ぶのもよいかもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする