渡来宏明は今回のアルバムでは前作「How to Rock」以上にバラエティに富んだ楽曲群を揃えていて、このことはザ・ビートルズの2枚組のアルバム、通称「ホワイト・アルバム」が意識されていることは言うまでもないが、さすがに4対1、オノ・ヨーコも加えれば5対1となる戦いには渡来宏明といえどもさすがに及ばずといったところである。しかしその戦いに勝利することがこのアルバムの一番の目的ではなく、「2001年宇宙の旅」のモノリスがそうであったように、それに触れた者に知恵を与え、生き方を変えること、もしくはありとあらゆるポップ・ミュージックの歴史の流れや様々な手法が蓄積されたアルバムを作ろうとしたのである。これはモノリスに知恵を授かった猿とも違い、ピラミッドのような偉大な過去の遺産を作り出した孤独な王様とも違い、音楽そのものが衰退している時代において、ポップ・ミュージックのあらゆる要素を遺伝子レベルに刻み込んだスター・チャイルドの出現に賭けているわけだ。