このWild Thingはダンエレクトロの2011年モデルで、60年代に試作品がつくられただけのものをリイシューしたという意欲的な試みではあったが、売れているという話もあまり聞かないし、このギターを使用しているギタリストを見かけることもほとんどない。これをステージで演奏したのは私の知るところではMickey Romanceただ一人である。
Wild Thingというネーミングからまず連想されるのはザ・ワイルド・ワンズがオリジナルで、トロッグスやジミ・ヘンドリックスがカバーしたことで知られる楽曲だろうが、もともと「手に負えないやつ」とか「大胆なことをする」とかいった意味があり、そう思って見てみれば、確かにこのギターのホーン部の、本来ネック側に向かって湾曲するはずのものが外を向いてしまったシェイプからは、手に負えない無法の暴れん坊ぶりやら、やっちまった感といったものがあふれ出してくるから不思議なものである。
次に連想されるのはモーリス・センダックの絵本「Where the Wild Things Are(かいじゅうたちのいるところ)」であろう。ここでWild Thingsは「かいじゅうたち」と訳されているわけだが、ダンエレクトロのWild Thingはある意味怪物的な、ミュータント的な存在のように思えないこともなく、遺伝子の変異により形質が変化したものの、自然淘汰の圧力に勝てずに消えてしまう運命を背負った哀しみを感じさせたりもする。実際、エレクトリック・シタールを例外として、真の意味で独創的なダンエレクトロのギター開発はここで終わったとみることもできる。
ここで改めてダンエレクトロのギターの形状を時系列で見てみると、シアーズから依頼され、とりあえずつくってみました的なSilvertoneの1375のようなギターがUシリーズとして洗練されたものとなり、そのカッタウェイがシングルからダブルになってショートホーンが誕生、さらにそのホーン部の先端が尖鋭化して1448となって、そしてそのホーン部がぐにゃりとあらぬ方向を向いたWild Thingに至る、というような変遷をたどることができる。
MCAに売却されたあとのダンエレクトロはどうかといえば、HawkやHornetなどに代表されるDaneシリーズのシェイプはFenderとの異種交配の結果と見ることができるだろうし、Coralに至ってはKawaiやVoxなどとのさらなる雑種化が進んでいったと見ることもできるだろう。そしてこのような異種交配が原因で次第にダンエレクトロらしさは失われていき、やがて絶滅していったと考えることもできそうではある。
その一方で、弦楽器の起源であるリラにさかのぼってデザインされたロングホーンのように、様々な淘汰圧力にも耐え、その形質を維持したギターもある。そしてPro1は、ゲーテのいう「原植物」のような、いわば「原ダンエレクトロ(Ur-Dano)」とでも呼ぶべきギターとして、ダンエレクトロのギターの中でも特筆すべき存在と言えるだろう。装飾的な曲線をできるだけ排し、シンプルさを極限まで追求したかたちにダンエレクトロのすべてが実は含まれており、ダンエレクトロのギターの形状の変遷をPro1の収縮と拡張によるメタモルフォーゼとして記述することができれば、ダンエレクトロの形態学なるものを展開できるかと思う。