勿忘草 ( わすれなぐさ )

「一生感動一生青春」相田みつをさんのことばを生きる証として・・・

丘の上の眼日記・その3

2009-03-10 22:33:34 | Weblog
 手術台に乗せられると、左腕には点滴、右腕には血圧計、眼には麻酔を打たれ、消毒をして重りを乗せられた。眼は触らないでくださいと言われると、余計にむず痒くなる。更に脚は伸ばしたままで身動きが出来ない。そんな状態で待つ時間は長く辛い。

 前の患者の手術が終わり小休止の間、「首が痒いんですけど」と言った。「どのあたりですか?」「肩の近くです」。看護士さんが掻いてくれた。「あっ、そこ。もっと強く」

 隣の台には同室で同い年の患者が、次の準備を済ませて待っている。「オシッコしたいんですけどダメですか?」と聞こえてくる。“この期に及んで何を言ってるんだ”と心の中で呟いたが、極度の緊張がそうさせることは痛いほどわかる。そして始まった手術は、切開も、縫い合わせも、糸を切る音もみな聞こえる。意識を他に持っていくことで恐怖感から逃れた。

 二人共病室に戻り、手術台の出来事で話が弾み、全員で爆笑。そして一夜が明けた。

 朝6時、検温後いよいよ看護士さんが眼帯を外しに来た。恐る恐る眼を開けて思わず叫んだ。
「エェ~~~~~~~~~~ッ!」
左眼だけで見ていた窓の外のパノラマの景観が右眼で見ると全く違う世界。白濁して霞んでいた世の中は、こんなに明るい色だったのか?片目づつ交互に見比べた。明日の手術を控えた左眼はセピア色に、手術した右眼は総天然色に見える。

 空の色がこんなに青く、雲の色がこんなに白いことに驚く。眼にするもの全てが新鮮に見えた。

 明日の手術はもう怖くない。こんな素晴らしい色の世界が待っているのだから。