私は、文・武・医。三道などというものを気取ってはいるわけではない。それらは、私の、何かをやると、とことんまでやり抜く根性(自分自身に対し、根性などという言葉を安直に使いたくないが)の発露の結果に過ぎない。私は子供の頃から、自分が打ち込めるものが何であるか、わからず、色々なことをやってみた。まずスポーツに打ち込んでみた。体力が無いので、集団でやるスポーツにはついていけず、個人でマイペースでやれるスポーツを色々とやってみた。医学部にすすんだのも、それほど医者になりたいとは思っていたわけではない。国公立の医学部は偏差値が高いので、何が何でも挑戦しようと思っただけである。幸い私は英語、数学、物理が得意だった。ので入れた。またモラトリアムのためでもあった。大学の間に、本当に自分のやりたいことが見つかるかもしれないと思ったからである。ただ理工学部に行こうとは思わなかった。理工学部に行っても、結局は企業に就職することになる。私はサラリーマンになって何かをやりたいとは思っていなかった。医学部には必然もあった。私は子供の頃から喘息で、体力がなく、医者に一生ペコペコ、頭を下げつづけることなど、とうてい耐えられなかった。自分の体なのに、自分ではどうにも出来ず、他人に診てもらわなければならない屈辱。それに一生、耐えなければならない。こんな屈辱がどうして私に耐えられよう。医学部に行ったのは、やはり私の宿命的な必然の結果である。しかし大学に入っても、将来、一介の医者になることにも虚しさを感じ出した。基礎医学の研究をしたいとも思わなかった。ある時、パッと、小説家になろう、と思いついた。これは私の潜在的な願望として、昔から心の中にあったものである。しかし、理系の私は小説を読むことも、あまりなく、しかも書き方もわからず、何を書けるのかもわからず、それは自分に不可能な夢の夢として潜在意識の下に押し込められた。ただ、表現したいことはあった。内向的で友達もおらず孤独。人との付き合いが苦手。一人でコツコツ出来る仕事が好き。現実より夢想の世界が好き。とくれば、まさに小説家の特性である。しかし筆一本で生きていける自信は全くなかった。作家になるには健康が絶対、前提条件、必要である。激しい過敏性腸症候群による体調不良。それによる不眠症とうつ病。冷え性。せっかく医学部に入ったのだから、卒業して、医師になって、出来るだけハードでない楽な仕事をしながら、小説を書こうと思った。私は単純に楽しむためとして本を読んではいない。あくまで、自分が小説を書く勉強になるものと感じたものに限定して読んだ。しかし、たくさん読んでいるうちに、だんだん文学の味というものがわかってきた。音楽とか、他のスポーツとか、自分の可能性に挑戦するために色々やってみたいとも思うが、それらはやらない。「何でも出来るは、何にも出来ない」という危険があるからである。ただ何かを体験すると、小説を書くヒントになることがある。読書と机の上での想像力より、ちょっとした体験、生活の方がインスピレーションや書きたいという動機を起こすことがよくあるのである。
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