クールジャパン★Cool Japan

今、日本のポップカルチャーが世界でどのように受け入られ影響を広げているのか。WEB等で探ってその最新情報を紹介。

日本の長所と神道(1)

2013年12月23日 | 日本の長所
◆『本当はすごい神道 (宝島社新書)

最近、この本を読んでいてちょっとびっくりした。「インターネットのサイトで『自覚すべき日本の良さ――クールジャパン』という匿名ブログがあります。例えば、日本のマンガやアニメ、音楽などがいかに海外から評価されているかが記されています」とあるのだ。

「自覚すべき日本の良さ」は、このブログの一記事のタイトルとして使ったことがあるので、「あれ、もしかしたら」と思いながら読み進めると、まさに「自覚すべき日本の良さ」という、かつて書いた記事で整理した「日本の長所11項目」が引用されていた。

1)礼儀正しさ
2)規律性、社会の秩序がよく保たれている 
3)治安のよさ、犯罪率の低さ 
4)勤勉さ、仕事への責任感、自分の仕事に誇りをもっていること
5)謙虚さ、親切、他人への思いやり
6)あらゆるサービスの質の高さ
7)清潔さ(ゴミが落ちていない)
8)環境保全意識の高さ
9)食べ物のおいしさ、豊かさ、ヘルシーなこと 
10)伝統と現代の共存、外来文化への柔軟性
11)マンガ・アニメなどポップカルチャーの魅力とその発信力

これらは、日本を訪れたり、住んだりしている多くの外国人の感想などをもとにして、その最大公約数的なものを整理したものである。上の本の著者である山村明義氏は、記事のタイトルをブログのタイトルと勘違いして紹介したものらしい。

この11項目をそのまま引用した後に、「これは、日本と日本人の良さが列挙され、大変的を得ている内容だと思います。しかし、日本の『クールジャパン』のほとんどすべての要素が、実は神道に由来しているといったら、日本人はどう思うでしょうか」かと問いかける。そして、この11項目に沿いながら、これらと神道とがどう関係するかを説明している。

1)の「礼儀正しさ」については、「例えば『小笠原流』など、日本の伝統的な礼法を見ても、『相手の心を大切にする』という神道の祭式礼法に端を発していると思われるものが少なくありません」とし、神道との関係を強調している。さらに4)の「勤勉さ、仕事への責任感、自分の仕事に誇りをもっていること」については、神道の精神性との関係を、別章で詳しく論じている。

私自身は、これら11項目と、このブログの中心である日本文化のユニークさ8項目との関係を少し取り上げたことがあり、今後ももう少し探ってみたいと思っていた。そこで、山村氏のこの本をきっかけにし、参考にしながら、私なりに何回かに分けて考えてみようかなと思っている。

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マンガ・アニメが呪縛を解く

2013年12月14日 | 世界に広がるマンガ・アニメ
一ヶ月ほど前に「日本的想像力」の可能性(1)という記事で、宇野常寛氏の『日本文化の論点 (ちくま新書)』という本を紹介した。そこで宇野氏は、「失われた20年」と呼ばれた世紀の変わり目に、戦後的なものの呪縛から解き放たれたもうひとつの日本が生まれ、育ってきていると書いている。それは、サブカルチャーやインターネットといった、新しい領域の世界であり、〈昼の世界〉に比べ陽の当たらない、いわば〈夜の世界〉だという。

「失われた20年」とは、バブル景気が崩壊した翌年の1991年から去年2012年までを指すが、この20年の間に日本人の心のなかに重大な変化が起こったのは確かなようだ。これについては、

『日本辺境論』をこえて(2)『ニッポン若者論』
『日本辺境論』をこえて(3)『欲しがらない若者たち』

で論じたことがある。

戦後に生まれ育った世代は、「近代合理主義」「進歩」「科学」「未来」「夢」などの価値意識を当然のごとく受け入れ信じていた。社会が近代化するということは、科学技術が進歩し、国民の意識がより民主的で個人主義的な方向に進歩することであった。しかし、1990年のバブル崩壊以降に小学生時代を送った世代(Z世代)は、こうした価値観が溶解するなかで育った。現代の若者にとっては、近代的でないもの、科学では説明できないもの、伝統的なものが新たな魅力を持ち始めたというのだ。その傾向はいくつかのデータで確認できる。

たとえば、過去30年間の調査によると若者の地元志向は強まる傾向にある(1977年には今住んでいる地元が好きだと答えた若者が約3割だったのに対し2007年には約5割に増えている)。これは、地方の若者が東京などの大都市に憧れなくなったということだ。かつて地方から近代的な大都市への若者の出郷は、日本の近代化を象徴する現象だった。だから若者の地元志向が増えるということは、近代化の時代が終わったことを示すのではないかと三浦はいう。詳しくは上に紹介した記事を参照されたい。

「近代合理主義」「進歩」「科学」「未来」「夢」などのに代表される価値観は、戦後はとくにアメリカ的な価値観と重なって意識されていた。西洋的な価値観が、圧倒的な物質文明を誇るアメリカによって代表されていたのだ。しかし、こうした近代的な価値観は、環境破壊問題やバブル崩壊の中で無条件に素朴に信頼すべきものではなくなった。福島原発の事故は、そうした価値観への不信を決定的なものにした。そして逆に、近代的価値観では見落とされたり、軽視されたりしていた伝統的なものや、科学では説明できないものへの関心が復活しつつあるのだ。

この時期と、日本のアニメやマンガに代表されるポップカルチャーが本格的に世界進出していった時期とが重なる。この時期の日本のアニメ事情を、津堅 信之著『日本アニメーションの力―85年の歴史を貫く2つの軸』を参考にみてみよう。

この本では、「アニメブーム」を、新たな様式や作風をもつ作品が現れて、その影響下で多くの作品が量産され、新たな観客層も広げていく現象ととらえている。その上でアニメブームを三期に分類している。

第1次アニメブーム:1960年代
『鉄腕アトム』放送開始をきっかけとして、省力化システムによって日本独自のテレビアニメが続々と制作された。特にSFものが流行。
第2次アニメブーム:1970年代
『ヤマト』から『風の谷のナウシカ』に至る作品の中で、青年層がアニメに熱狂し、アニメ観客層を大幅に拡大した。
第3次アニメブーム:1990年代後半から
『もののけ姫』(1997年)の成功。海外で anime という言葉が一般化し、アニメが日本発の世界的な大衆文化として認識された。

1990年代の前半の日本アニメは、『紅の豚』(宮崎駿監督、1992)や『平成狸合戦ぽんぽこ』(高畑勲監督、1994)などのスタジオ・ジブリ作品が話題になる。この頃から、輸出された日本アニメが、一般的なテレビアニメも含めて、オリジナルなまま公開、放映され、しかも日本作品であることが認識された上で受け入れられるようになったという。その意味でも anime の本格的な世界進出が始まった時代といえよう。

そして1995年は、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』と『新世紀エヴァンゲリオン』という話題作が登場した。しかも『攻殻機動隊』は、1996年8月に、アメリカ「ビルボード」誌のホームビデオ部門のヒットチャートで第一位を獲得したという。この頃からマスコミで「ジャパニメーション」という言葉が盛んに使われはじめた。それと前後して anime という言葉が世界に広がる。この1995年頃に、第3次アニメブームが始まったともいわれる。ちなみに宮崎駿の『もののけ姫』(1997)と並び『千と千尋の神隠し』(2001)も、この時期の作品であり、ともに日本やその伝統や神話に深くかかわる作品であることは象徴的である。とくに後者は、第52回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞や、第75回アカデミー長編アニメ賞受賞などを受賞し、海外で圧倒的な評価を得た。

第1次アニメブームのころから公開、放映され続けた多くのアニメ作品の中で、いつごろから近代的価値観の枠から自由な作品が多くなったか、その時期を明確にいうことはできない。第1次ブームの頃には、『鉄腕アトム』に代表されるような一種の科学信仰が色濃く残っていたのは確かだろう。その後に生み出された多様なアニメ作品のなかで徐々に、1990年のバブル崩壊以降に小学生時代を送った世代(Z世代)の価値観の変化に対応するような作品が多く生み出されていく。逆に、生み出されたアニメ作品が、子供や若者の価値観に影響を与えるという相互作用もあっただろう。『新世紀エヴァンゲリオン』に見られるような、何らかの形で世界が破壊された後を舞台とするようなアニメは、この時期の前後に多く存在し、若い世代に与えるその影響力はかなり大きかっただろう。それは、何らかの形で近代文明への懐疑の心を育てる。

一方で近年、『らき☆すた』や『かみちゅ』に代表されるような「神道ジャンル」とよばれるマンガやアニメが人気になっているのも、若い世代のあいだで日本の伝統的なものが積極的に興味をもたれていることのひとつの証だろう。科学で説明しきれないものや日本の伝統をテーマとした多様なアニメ作品が、続々と生み出されているのだ。これは、「アニメは子どもが見るもの」という縛りの中にとどまっていては、決して起りえなかった現象だろう。

マンガ・アニメ作品と時代の価値観の変化というテーマは、興味尽きないものがある。いずれ本格的に取り組んでみたいと思う。いずれにせよ、1990年代からの最近までの「失われた20年」とは、日本人の価値観に重大な変化が起こった時代であり、それは今も続いている。日本人は今、戦後の呪縛どころか、近代的価値観の呪縛からも自由になりつつある。そして新たな価値観をまさぐりつつあるのだが、その試みは、一方で伝統への回帰という形をとる。西洋のルネサンスは、古代ギリシャへの回帰でもあった。日本人には、縄文時代にまで遡る太古の伝統が受けつがれている。縄文文化に対応する西欧のケルト文化はほぼ消滅してしまった。農耕以前の文明までを視野に入れたまさぐりが、今日本でなかば無意識に行われているのかもしれない。そのようなまさぐりが、もっとも色濃く反映されているのが、マンガ・アニメに代表される、日本のポップカルチャーであり、しかもその影響力が世界に広がっている。そのことの意味は計り知れないものがある。

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日本ポップカルチャーはクリエイティブ?

2013年12月05日 | 世界に広がるマンガ・アニメ
◆『世界でいちばんユニークなニッポンだからできること 〜僕らの文化外交宣言〜

この本の著者の一人・櫻井氏の「アニメ文化外交」は、世界の様々な地域に及び、報告もされてきたが、アメリカでの活動と報告はこれまでほとんどなかった。しかしこの本では、アメリカでの状況も報告されている。2007年頃から世界を飛び回っていた櫻井氏が、本格的にアメリカに出向いたのは、2010年夏だった。その旅のスタートは、西海岸南端のサンディエゴで開催される「コミコン」から。これは、スパイダーマンなどのアメコミや、スター・ウォーズ、スター・トレックなどのSF映画もの中心のイベントらしく、それらを装ったコスプレイヤーが多いが、若者とくに女子のコスプレで圧倒的に多いのは日本のアニメキャラや初音ミクだったという。ガンダムやけいおん!のフィギュアも大人気であった。

この夏の櫻井氏の全米行脚のメインは、東海岸ボルチモアの「オタコン」へのゲスト参加だった。この年で17回目になる「オタコン」は、日本ポップカルチャー紹介イベントの老舗で、この年の動員数は約3万人とのこと。ここでは、著者が参加してきた世界中の日本ポップカルチャー系イベントの中では、群を抜いてコスプレ率が高く、来談者の半数以上がコスピレイヤーだったらしい。しかもそのキャラクターは、日本一色。

この年のアメリカ訪問での、櫻井氏にとって重要だったもう一つのイベントは、10万人規模で開催されたニューヨーク・アニメ・フェスティバルへの参加だった。ニューヨークでの講演や対話を通して興味深かったのは、接した人々が、ニューヨークを世界の最先端とは思っておらず、むしろ日本や東京を最先端と思っていることだとという。世界中を回って実感していたことを、世界の最先端を行くはずのニューヨークの人々にも感じ、さらに強い印象をもったのだろう。日本は、クリエイティブなジャンルにおいて、日本にしかないものを作り出す国だ。世界中で、日本のポップカルチャーを愛する若者たちがそう思っている。そして、世界の最先端を走っていると誰もが思うニューヨークでも、若者達が日本こそ世界の最先端を行くと感じている。日本人は、それで慢心する必要はないが、世界中でそのように思われているということにもっと自覚的であった方がいい。自己卑下するのではなく、現実の等身大の日本を自覚することが大切なのだ。

さて、日本のポップカルチャーのオリジナリティや創造性は、どこから来るのだろうか。本ブログでは、日本のマンガ・アニメの発信力の理由をいかの視点から考えてきた。これらのすべてが、多かれ少なかれオリジナリティを生み出す源泉になっているといえよう。

①生命と無生命、人間と他の生き物を明確に区別しない文化、あの世や異界と自由に交流するアニミズム的、多神教的な文化が現代になお息づき、それが豊かな想像力を刺激し、作品に反映する。

②小さくかわいいもの、子どもらしい純粋無垢さに高い価値を置く「かわいい」文化の独自性。

③子ども文化と大人文化の明確な区別がなく、連続的ないし融合している。

④宗教やイデオロギーによる制約がない自由な発想・表現と相対主義的な価値観。

⑤知的エリートにコントロールされない巨大な庶民階層の価値観が反映される。いかにもヒーローという主人公は少なく、ごく平凡な主人公が、悩んだりり努力したりしながら強く成長していくストーリが多い。

日本のポップカルチャーについて世界の若者がもっとも評価する点は、その「オリジナリティ」だ。「日本でしか生まれないものを次々に創り出していく」独創性、その独創性のかなめは、「日本のアニメだけが、アニメーションは子どもが観るものという世界の常識を無視して作られている」ことだ。これは5項目でいえば、③に関係が深い。もともと子ども文化と大人文化に断絶がなかったからこそ、マンガ・アニメが大人の表現形式にもなり得たのだ。アメリカのアニメーションの根底に依然として「アニメーションは子どもが観るもの」という常識があるのとは、まさに対照的だ。

この常識、アメリカだけでなく世界の常識を唯一無視してきたのが、日本のアニメだった。日本のアニメは、「子どもが観るもの」という常識を無視して、製作者たちがそこで様々な映像表現の可能性をさぐる場となった。その複雑な世界観やストーリー展開の魅力は、アニメーションで育った世界の若者たちに、乾いた砂に水が浸み込むように自然に受け入れられていった。

「子どもが観るもの」には様々な制約がある。その制約がはじめからなければ、マンガ・アニメという表現の場は、逆に限りなく自由な発想と表現の場になる。実写映画は、登場する生身の人間のリアリティに引きずられて発想と表現に自ずと制限がかかる。マンガ・アニメはその制約がなく、想像の世界は無限だ。その特徴が、上の④「宗教やイデオロギーによる制約がない自由な発想・表現と相対主義的な価値観」という日本文化の性格と重なって、日本アニメの最大の特徴である「多様性」を生み出していったのだ。

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ロシアの若者も熱狂した上坂すみれ

2013年12月01日 | 世界に広がるマンガ・アニメ
◆『世界でいちばんユニークなニッポンだからできること 〜僕らの文化外交宣言〜

著者・櫻井孝昌氏の何冊かの本についてはこれまでたびたび取り上げてきた。

『日本はアニメで再興する』(1)
『日本はアニメで再興する』(2)
アニメ文化外交 (ちくま新書):YouTubeでのJapan熱を裏付ける本(1)
アニメ文化外交 (ちくま新書):YouTubeでのJapan熱を裏付ける本(2)
「カワイイ」文化について
世界カワイイ革命 (1)
世界カワイイ革命(2)
マンガ・アニメの発信力:「かわいい」文化の威力

出版される度に取り上げるのは、アニメ・マンガが世界にどのように広がっているか、その現場からのなまのレポートとして貴重だからだ。今回取り上げる上の本も、その最新のレポートとしての意味合いもある。今回は、著者の単著ではなく、声優・上坂すみれとの共著である。

彼女のことは、この本ではじめて知ったが、櫻井氏との因縁浅からざるものがあるようだ。というよりも、日本のマンガやアニメがロシアで熱狂的に受け入れられる今、声優・上坂すみれの出現はたんなる偶然とも思えない。なぜなら彼女は、高校生の頃からのソ連・ロシアおたくで、現在上智大学のロシア語学科に在籍する学生でもあるからだ。11月23日・24日にはモスクワの日本フェスティバルで熱唱したばかりだ。ツイッターでその記事を紹介しておいたので参照されたい。



彼女へのインタビューのいくつかを紹介しよう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ―ライブを終えた手応えは。

 私の拙いロシア語を聞いてくれて、すごい歓声をくれて、とにかく「うれしい」としか言えない。そもそも歌が日本語だし、歌も私も知らない人もたくさんいるだろうから、本当にみんな聞いてくれるかどうかけっこう不安だった。でも、日本から来たファンがペンライトを配ってくれてうれしくて、ロシア人が楽しそうに振っているのを見ると、これからロシアでペンライトが人気になるんじゃないかなと。いつかモスクワ「赤の広場」で歌い、ロシア人がペンライトを振ってくれたらいいな。いけますかね(笑)。それが夢になりました。

 ―ロシア各地からファンが来ていた。

 ライブ後に写真を撮ったり、サインを書いたり。モスクワから離れた都市から来た人もいて、私のサインで喜んでくれたり、「ツイッターを見ています」「写真を見ています」「歌を聞いています」と言ってくれたりするのに本当にびっくりした。


 ―自分を一言で説明すると?

 私はロシアも好きだし、そうじゃない要素も入っているので、一つの形容詞には決め難い。でも強いて言えば、ロシア、ソ連、ロリータ・ファッション、サブカルチャー、ミリタリーなど。きっと日本の声優の中では、ロシアが一番好きなのは私だと思う。これから日本にロシアの良さを広め、ロシア人が日本を待っているということを広め、自分もロシア語を勉強していく。大学卒業後もロシア語を勉強して、今度はロシア語だけでトークを展開するライブができるよう頑張りたい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

さて、紹介した上の本は、彼女と櫻井氏が交互に各章を書く構成になっており、当然ロシアのマンガ・アニメファンの現況を語る部分も多い。ロシアの若者の、日本のアニメやマンガに対する知識量が半端でないことは、彼女も強く実感しているようだ。櫻井氏は、極端に言えば、日本とロシアの関係が、モスクワの若者からの日本への片思いのような状況になっているという。

2010年にモスクワで行われた「ジャパン・ポップカルチャー・フェスティバル」(今回、上坂すみれが出演したJ-FESTの前身)では、ロシアで初上映になった『エヴァンゲリオン新劇場版:破』を見るため、氷点下の中、最前列は5時間も前から若者達が並んでいた様子は、以前の本でも紹介されていた。他にも、オーディションで選ばれた一般のロシア人女子が、原宿ファッションの人気ブランドを着こなす「原宿ファッションショー」の熱狂ぶりや、劇場版『涼宮ハルヒの消失』上映後の、絶賛の声の嵐など。この映画の複雑な世界観もすんなり受け入れて楽しめるほど、ロシアの若者も日本のアニメで育ってきたのだ。

初音ミクも間違いなくロシアに浸透しているといいう。ロシアだけでなく世界中のコスプレやアニメのイベントに行くと、現在もっとも多いのは、初音ミクなどボーカロイドのキャラクターのコスプレイヤーだという。初音ミクは日本語だからよいという膨大な数の若者が世界中で増えている事実があるようだ。櫻井氏は、「アニメが日本語を世界に広めたように、初音ミクの存在が日本の歌全体に対する関心の先がけになっている可能性はきわめて高い」という。

海外で、日本に関心の高い女子たちに人気の高いジャンルは「ビジュアル系」だという。モスクワのある女子は、男のものだったロックの魅力を女子に教えてくれたのが日本のビジュアル系だと語った。ともあれ日本語を話せないロシアの女の子が、日本語で歌える歌がいくつもあるというのだ。ロシアの女子が日本の歌を日本語で歌うのは、いわば「日常」になっているという。ロシアの若者にとって日本がどれほど特別な国になっているか、多くの日本人は知らない。

そんな中で上坂すみれが出現し、櫻井氏との協力のもと先月、モスクワに乗り込んだ。そしてロシア語で語りかけながら日本のアニメソングを歌った。彼女のアニメやロリータファッションへの愛は半端ではないが、ロシアへの愛も半端ではない。それがロシア人に伝わらないはずはない。この二つの要素が、彼女とロシアの間でどんなケミストリーを生み出すか、今後が楽しみだ。ロシアの若者たちからの、日本のポップカルチャーへの一方的な愛が、上坂すみれの出現を触媒にしてどんな新たな反応を示していくか、今後じっくり見守っていきたいと思う。

ちなみに下の動画でも、私が読めないロシア語のコメントがかなり多い。

上坂すみれ「七つの海よりキミの海」



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