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マンガ・アニメの発信力の理由02

2010年08月13日 | マンガ・アニメの発信力の理由
昨日提出した、日本のマンガ・アニメの発信力の理由だが、さっそく少し変えてみた。①に少し語句を加え、②と③の順序を逆にした。①と②は関連が深いと思われるからである。

①生命と無生命、人間と他の生き物を明確に区別しない文化、アニミズム的、多神教的な文化が現代になお息づき、それが作品に反映する
②子ども文化と大人文化の明確な区別がなく、連続的ないし融合している
③宗教やイデオロギーによる制約がない自由な発想と表現
④民族や言語、階級などによって分断されない巨大で知的な庶民を基盤にする

ということで、続けて①についてもう少し続ける。①は、「日本文化のユニークさ」ということで挙げた三つ、

(1)狩猟・採集を基本とした縄文文化が、抹殺されずに日本人の心の基層として無自覚のうちにも生き続けている。
(2)ユーラシアの穀物・牧畜文化にたいして、日本は穀物・魚貝型とで言うべき文化を形成し、それが大陸とは違うユニークさを生み出した。
(3)大陸から適度に離れた位置にある日本は、異民族(とくに遊牧民族)による侵略、強奪、虐殺など悲惨な体験をもたず、また自文化が抹殺される体験ももたなかった。

のうち、とくに(1)に関係が深い。(1)との関連は、昨日触れたことからも明かだと思う。

さて、鳴海丈の『「萌え」の起源 (PHP新書 628)』は、すでに書評で取り上げたことがあるが、この本で著者は、日本の伝統との関連という視点から日本のマンガ・アニメの発信力を語っており、その発信力の理由を次のようにまとめている。

ア)日本人は本来、生命と無生命を区別しない文化を持っている。
イ)日本人は「小さくて丸っこくてカワイイもの」に愛着を感じる。
ウ)日本のヒーローは他人のため、自分を捨てて、見返りを求めずに戦うことで存在意義を見出している。
エ)日本人の理想とする正義とは、敵を否定し殲滅することではなく、みんなで幸福になるために互いに知恵と力を合わせることである。
オ)これら日本古来の感性と文化が手塚治虫の出現によって拡大され、マンガ・アニメをはじめとする戦後のサブカルチャーに受け継がれた。
カ)それは日本独自のものでありながら、言語や思想や文化の壁を越えて世界に受け入れられる普遍性を持っている(らしい)。

これらのうち、ア)とオ)を中心に見てみよう。

日本という国は、表現というジャンルにおいては昔から性の垣根がきわめて低いか、ほとんどないに等しかった。それどころか、人間と人間以外のものの境界もかなり曖昧で、人が動物や妖怪との間に子供をもうける物語も多く見られる。

歌舞伎は、その始まりからそういう傾向があった。阿国は胸に十字架をつけ男装して踊り、パートナーの男性は女装していたという。日本の芸能には最初から「性の置き換え」というモチーフがあって、観客もそれを楽しんでいたらしい。また桜の精が重要な役割を果たしたり、キツネが芝居にからんだりすることも歌舞伎には多いが、西洋の演劇ではほとんど見られない。

そういう観点から見ると手塚治虫も、日本の古来の文化的傾向を無意識に引き継いでいるところがある。手塚の作品には、メタモルフォーゼ(変身)に対する憧れのようなものが強く表現されている。『メトロポリス (手塚治虫漫画全集 (44))』など初期の作品からそういう傾向が強く出ている。この作品のミッチーという中性的人間型ロボットは、スイッチを押すことで男にも女にもなれる。男女差どころか、人間と機械の差も曖昧で、こうした変身の要素は、最初から手塚作品の根幹をなしている。

この本では、変身のモチーフが、手塚治虫の全作品のなかでどれだけ重要意味をもっていたかを、具体例をあげて詳しく語っている。手塚は、マンガ家として特異なヴィジョンと感性をもった表現者であり、それがその後の日本のサブカルチャーに大きな影響を与えた。しかし、手塚の自由奔放なメタモルフォーゼというモチーフも、もとを正せば日本古来の感性、アニミズム的な感性に根ざしているのかもしれない。

「性の置き換え」を自由に楽しんだり、人間と動物との交感が自由になされたりする文化的な傾向は、牧畜文明を知らぬまま、あるいは遊牧民との接触の経験をもたぬまま、高度に文明化した日本の独自の歴史に根ざすと思われる。これは、「日本文化のユニークさ」でいえば、もちろん(2)に関係するが、これに関してはまた追って触れることになる。
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2 コメント

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日本文化と母性文化 (阿部明)
2010-09-08 23:01:15
西洋、キリスト教文明に対して、日本文化は母性文化ではないかと考えています、
日本では、母親に対する悪口は、家族内ならいざしらず、社会的には許されません、そこには
宗教的なタブーがありそうです、
子供が可愛がられ、認められるのも、母性の強い文化だからではないでしょうか?
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母性文化 (cooljapan)
2010-09-16 19:57:55
阿部明さん、コメントありがとうございます。

確かに、キリスト教は、ユダヤ教、イスラム教と並んで父性原理の強い宗教ですね。それに対し、日本や熱帯の島々などに残る文化は母性原理の強い文化ですね。母性原理の文化、父性原理の文化と、世界地図を色分けしたら面白いなと思いました。
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