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『日本辺境論』をこえて(2)『ニッポン若者論』

2012年02月19日 | いいとこ取り日本
◆内田樹『日本辺境論 (新潮新書)

海の向こうから来た文明の基準に合わせることにつねに汲々とし、自ら文明の基準を生み出すことができない。それが「辺境」日本のさだめだと内田はいう。だから知識人のマジョリティは「日本の悪口」しか言わなくなる。「政治がダメで、官僚がダメで、財界がダメで、メディアがダメで、教育がダメで‥‥要するに日本の制度文物はすべて、世界標準とは比べものにならないと彼らは力説する。」

この悪口は、「だから世界標準にキャッチアップ」という発想と込みになっていて、その世界標準を紹介・導入するのことが自分たち知識人の存在価値だと感じている。これは本当にその通りで、私の友人にもそういう人物が多くて閉口する。そういう人間たちが中心になって作っているから、メディアもそういう論調になってしまう。

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たとえば、かつてとりあげた朝日新聞の「天声人語」の記事などもそういう傾向と根は同じだ。(→日本の良さはきちんと報じられない)。彼らにとって日本の良い点を素直に認めることはがまんがならないらしい。もし読者の方々が、日本は犯罪が増加傾向にあり、かつてほど安全ではなくなったという印象を持っているなら、それも同じ根っこからくるマスコミの印象操作による(→三橋貴明「犯罪が減り続ける国」)。

しかし私は、内田のいう辺境人の「呪縛」から日本人は徐々に解放されつつあると感じる。団塊世代はまだ「呪縛」のなかにいるが、若い世代には明らかに変化の兆しが見える。そう私が感じるのは、いくつかのデータや、インターネット上での傾向などを見たときの全体的な印象からだ。個々の現象を見ていたのでははっきりしないが、総合的に判断すると、「辺境人」からの解放という像が浮かび上がってくると思う。

三浦展の『ニッポン若者論 よさこい、キャバクラ、地元志向 (ちくま文庫)』は、綿密な調査に基づいて現代日本の若者の意識や行動を探っている。

戦後に生まれ育った世代は、「近代合理主義」「進歩」「科学」「未来」「夢」などの価値意識を当然のごとく受け入れ信じていた。社会が近代化するということは、科学技術が進歩し、国民の意識がより民主的で個人主義的な方向に進歩することであった。しかし、1990年のバブル崩壊以降に小学生時代を送った世代(Z世代)は、こうした価値観が溶解するなかで育った。現代の若者にとっては、近代的でないもの、科学では説明できないもの、伝統的なものが新たな魅力を持ち始めたというのだ。その傾向はいくつかのデータで確認できる。

たとえば、過去30年間の調査によると若者の地元志向は強まる傾向にある(1977年には今住んでいる地元が好きだと答えた若者が約3割だったのに対し2007年には約5割に増えている)。これは、地方の若者が東京などの大都市に憧れなくなったということだ。かつて地方から近代的な大都市への若者の出郷は、日本の近代化を象徴する現象だった。だから若者の地元志向が増えるということは、近代化の時代が終わったことを示すのではないかと三浦はいう。

Z世代にはさらに、一種の和風志向、日本回帰的な現象がみられるという。戦後長らく日本の若者は洋楽志向だったが、Z世代が好きな音楽は圧倒的にJポップである(80.5%)。Jポップだけでなく、民謡、三味線など日本の伝統音楽も近年若者に非常に人気があるという。全国の若者によさこい祭りが流行し(踊ったことがある男子44.0%、女子37.8%)、着物、浴衣、甚平、手ぬぐい、花火、和風の服装、小物、行事を好む者が多い。

よさこいはなぜ人気なのか。日本社会の既存の価値観が溶解し、地方でもその地方固有の生活や歴史が溶解した。そして、それに代わる新たな原理も見つからない。そうした地域社会で、人生の意味や価値を見いだせずに生きる若者や住民の気持ちのはけ口として、よさこい祭りが全国的に人気になっているのではないかと三浦はいう。

よさいこい祭りは「人間関係が希薄な都市において、新たなかたちの『つながり』を次々に形成していくことのできる祭りである。」それぞれの地域に独特の「何ものにも換えがたい自分や自分たちを表現する。‥‥その地域の習俗を活かしながら自分たちの感性で祭りや踊りを創造できる大きな喜びがあり‥‥マクロでグローバルな経済利潤の構造を超えて、ひとりひとりのミクロでローカルな自己実現という精神的な要因が『よさこい』系祭りの伝搬と生成の最も大きな理由である。」(よさこい研究者矢島妙子)

また、Z世代の調査結果で特に驚くべきは、彼らが、前世、死後の生まれ変わり、奇跡を信じるなど、非合理主義的な傾向が強いことだという。いくつか例を挙げれば、女子高校生の67.5%、男子高校生の75.5%が「奇跡」を信じ、女子高校生の54.5%、男子高校生の41.9%が「人間には前世がある」と信じているという。

いまの若い世代は、近代化が極限まで進んだ70年代(高度成長期の終わり)以降に育ったため、かえって科学では説明できないことに対する感覚に鋭敏になっているというのが三浦の理解だが、たしかにそういう傾向があるのだと思う。

この本では他にも多様な調査と分析が行われており、その解釈も単純ではない。ここでは「辺境論」との関係で押さえるべきところだけをかいつまんで紹介した。要点は、「近代合理主義」「進歩」「科学」といった価値だけを無条件に信奉する時代が確実に終わりつつあるということである。しかも、それが若者の意識や行動から確実に見て取れるということである。

「近代」や「科学」や「進歩」は、もちろん明治維新以来、日本が西欧から必死に学び、取り入れてきた価値である。辺境たる日本が、「世界標準」に追いつこうとして無我夢中で吸収してきたのである。その「呪縛」が、いま溶けはじめている。しかし、かつてのようにきょろきょろ見回して、次の新たな「世界標準」を見つけ出し、それに飛びつくこうとする行動が、若い世代に見られるわけではない。上に紹介した調査だけでも、自分たちの内側に自分たちの根拠を探ろうとする兆しが垣間見れるのではないだろうか。

この考察は、まだ何回か続けていきたい。


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14 コメント

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Unknown (ななし)
2012-02-19 15:24:38
私もその年代なんですが、日本回帰というか日本文化大切にしたいって思ってます
私含め、同年代で神道式の結婚式結構やってます
父親は団塊の世代ですが、私から見ると頭が固いなって思うこともしばしばで、ニュース番組見てても意見の衝突があります
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うれしいですね (cooljapan)
2012-02-19 16:44:30
日本文化を大切に思い誇りに思う若い人たちが増えていることはとてもうれしいことですね。

そういう若者が増えることで日本が「辺境」根性から脱出して、新しい日本を築いていくことができるのだと思います。
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ちょっとこわい (名無し)
2012-02-20 07:50:21
科学や進歩に背を向ける若者。日本の保守化は年配者から拡がっていくものと漠然に考えていました。しかし、海外留学したがらない学生が増えていることや、国粋主義的な発言が多く、中国人韓国人を口撃するネットの若者たちを見てると、確かに保守化は若者から始まっているように感じます。もしかすると、
明治の文明開化から昭和初期の軍国化と同じ道を敗戦から平成で進んでいるのかもしれません。ぐんくつの音が聴こえる?ようですw
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Unknown (Unknown)
2012-02-20 10:34:51
グローバリゼーションの反動として、ローカルの価値観が見直されるというのはある程度予測されていましたね。
それはネット上でのナショナリズムの発露という側面もありますが。
ただ、こういう現象はおそらく日本に限った話ではないような気もします。

一つ心配なのは前世など非合理的な思考を持つ人が増えているというところ。
新興宗教の再興か?とも思いますが、当の記事中では言われているZ世代は、オウム関連のニュースがテレビで狂ったように流されている時代に思春期を過ごしたんですよね。
しかし、一方では非科学的な思考もある。
だから、宗教色のないスピリチュアルだとかパワースポットという表現が多いんですかねえ。
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Unknown (pk)
2012-02-20 14:09:03
つーか確かに日本人は辺境意識在るけど、たまに外国人が「日本は世界一の先進国!」ってコメントしてたりするの見ると笑ってしまうw
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Unknown (cooljapan)
2012-02-20 21:18:35
名無しさん

〉科学や進歩に背を向ける若者。日本の保守化は年配者から拡がっていくものと漠然に考えていました。

科学の進歩への無条件の信頼は、福島第一原発の事故で、さらに揺らいでいると思います。科学や近代化が無視してきたものに目を向け始めたというプラスの面もあると思います。

しかし、海外留学したがらない学生が増えていることや、国粋主義的な発言が多く、中国人韓国人を口撃するネットの若者たちを見てると、確かに保守化は若者から始まっているように感じます。

若者の保守化や中国・韓国への攻撃については、いくつかの要素がからんでいて複雑なのでしょうね。若者の屈折した心理の問題もあるし、相手側の問題もある。

〉もしかすると、
明治の文明開化から昭和初期の軍国化と同じ道を敗戦から平成で進んでいるのかもしれません。ぐんくつの音が聴こえる?ようですw

私は、戦後が伝統的なもの、日本的なものをほとんどすべて悪としてばっさり切り落としてきたことへの反動という面があると思います。戦後のあまりの行き過ぎも是正されなければなりません。極端から極端へとならないための落ち着いた眼が必要なのでしょう。
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Unknown (cooljapan)
2012-02-20 21:32:07
Unknownさん

〉グローバリゼーションの反動として、ローカルの価値観が見直されるというのはある程度予測されていましたね。‥‥ただ、こういう現象はおそらく日本に限った話ではないような気もします。

たしかにアメリカ主導のグローバリゼーションへの反動は世界中にあり、近代主義の行き過ぎへの反省も本家のヨーロッパの方が深いといえます。

日本は、欧米の基準の追い続けることへの反省と、近代主義への疑いという二つの要素が重なって時代の曲がり角に立っているのでしょう。

〉一つ心配なのは前世など非合理的な思考を持つ人が増えているというところ。
新興宗教の再興か?とも思いますが‥‥

組織的な新興宗教の勢力が、ある線を越えて拡大することはないと思います。これまでの日本文化の伝統からしても。ニューエイジとよばれるような個々人を中心とした精神世界への関心は広がるかもしれませんね。科学の唯物主義ではとらえきれない価値を求める気持ちが強くなっているので。
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Unknown (名無し)
2012-02-20 22:45:33
我が国は科学技術立国を自認し、これを更に推し進めることを国是としていた筈だが、若者がそれに背を向けるのならば、彼らはどんな未来を夢見ているのだろうか。多様化した価値観それぞれを個々人が尊重し合い、価値観を同一とするコミュニティ内でのみ人同士の繋がりが満たされる社会だろうか。それは江戸時代の町民?鎖国?それで少子化?将来ジジ捨て山に捨てられるのかな…極論か…
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Unknown (pk)
2012-02-21 09:29:28
「海外文化マンセー!」の時期と「やっぱり国風文化じゃね?」の時期が交互に来るのは今までにも在った事。別に珍しくも無いんじゃないの。


>ぐんくつの音が聴こえる?ようですw
海外からの「ぐんくつの音」は聞こえないのかな?w
戦争は一国だけじゃ出来ないんだけどねえ。
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Unknown (cooljapan)
2012-02-21 18:50:51
名無しさん、

〉我が国は科学技術立国を自認し、これを更に推し進めることを国是としていた筈だが、若者がそれに背を向けるのならば、彼らはどんな未来を夢見ているのだろうか。

背を向けるという意識的な態度があるわけではないと思いますよ。何となく科学へのかつての無条件の「信仰」はなくなっているという感じですかね。そして未来への熱い「夢」もなくなっているというような。

〉多様化した価値観それぞれを個々人が尊重し合い、価値観を同一とするコミュニティ内でのみ人同士の繋がりが満たされる社会だろうか。それは江戸時代の町民?鎖国?それで少子化?将来ジジ捨て山に捨てられるのかな…極論か…

次回触れようと思っているんですが、確かに大量消費時代とは違う、地域に根差したエコロジカルな生活態度というのが、若者の生き方にデータとしても出てきているようです。
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