クールジャパン★Cool Japan

今、日本のポップカルチャーが世界でどのように受け入られ影響を広げているのか。WEB等で探ってその最新情報を紹介。

マンガ・アニメの発信力:「かわいい」文化の威力

2011年08月06日 | マンガ・アニメの発信力の理由
今回は、昨日も取り上げた櫻井孝昌氏の『ガラパゴス化のススメ』に触れながら、「マンガ・アニメの発信力の理由」を考えてみたい。これまでこのブログでこのテーマを扱う中でまとめたのは、以下の5点であった。

①生命と無生命、人間と他の生き物を明確に区別しない文化、あの世や異界と自由に交流するアニミズム的、多神教的な文化が現代になお息づき、それが豊かな想像力を刺激し、作品に反映する。

②小さくかわいいもの、子どもらしい純粋無垢さに高い価値を置く「かわいい」文化の独自性。

③子ども文化と大人文化の明確な区別がなく、連続的ないし融合している。

④宗教やイデオロギーによる制約がない自由な発想・表現と相対主義的な価値観。

⑤知的エリートにコントロールされない巨大な庶民階層の価値観が反映される。いかにもヒーローという主人公は少なく、ごく平凡な主人公が、悩んだりり努力したりしながら強く成長していくストーリが多い。

櫻井氏が評価する日本の最大の魅力は「オリジナリティ」だという。「日本でしか生まれないものを次々に創り出していく」というのが、世界の若者がもっとも評価する点だというのだ。日本のアニメについていえば、その独創性のいちばんのかなめは、「日本のアニメだけが、アニメーションは子どもが観るものという世界の常識を無視して作られている」ことだ。これはもちろん上の5項目でいえば、③に関係が深い。もともと子ども文化と大人文化に断絶がなかったからこそ、マンガ・アニメが大人の表現形式にもなり得たのだ。

もちろん日本のアニメの強さは、他にもある。週刊マンガ誌という強力な母体から原作が生み出されること、在野のクリエーターのすそ野が広いこと、脚本やキャラクターの設定が深く、次の展開が読みにくいこと、制作上のタブーがきわめて少ないことなど。とくに最後のタブーが少ない点は、上の5項目の④と深くかかっている。タブーが少ないということは、マンガでもアニメでもファッションでも、何かを表現しようとするときに選択の自由があるということだ。

日本人はパリに憧れるが、逆にパリの若者たちはそこでの暮らしに満足していないという。そして彼らの眼は東京に向いている。「東京には選択の可能性がある」。パリをふくめ、ヨーロッパの若者たちは幼いころからアニメやマンガに囲まれ、日本への妄想に近いような思いを抱いているという。ヨーロッパの都市や人が意外と保守的なのは、その宗教に根ざした文化によるのかもしれない。

ファッションジャンルで日本の存在を急速に世界の若者に注目させたものに「ゴスロリ(ゴシック&ロリータ)」がある。ゴシックファッションは、もともとヨーロッパの伝統に根ざしているので、それをロリータと結びつける独創的な発想は、日本以外では生まれえなかった。上の5項目の②にあるような「かわいい」文化の独自性があったからこそ、こうしたユニークな結びつきが可能となったのだろう。

21世紀に入ってもっとも世界に普及した日本語は和製英語の「アニメ」だろうが、それに続く言葉が「カワイイ」ではないかと櫻井氏はいう。世界の若者が「カワイイ」といいう言葉を使うとき、そこには「東京的な」とか「日本的な」といった意味が含まれると語る女の子もいるという。確かに、キュートやミニョンを使わずわざわざ日本語のカワイイを使う以上は、そこに独自のニュアンスを込めたいからだろう。そこには日本や日本のポップカルチャー全体への憧れのようなものが反映されているのだろう。

カワイイという概念が急速に世界に広がったものまた、インターネットの力が大きい。ロリータファッションの愛好家に、その出会いを聞くと、やはりきっかけはアニメであることが多いという。アニメを通して、日本の生活やファッションに興味を持ち、インターネットで日本のものを次々にチェックしていく。櫻井氏の本を読んで知ったのは、どうやら世界では、日本のアニメ・マンガや日本の若者文化の魅力そのものが「カワイイ」という概念で特徴づけられる傾向が強いらしいということだ。「かわいい」文化のもつ発信力がますます大きな影響力をもちはじめているということか。

「かわいい」文化は、おそらく一神教的な父性原理の文化とは正反対の、アニミズム的ないし多神教的な母性原理の反映であり、一表現だ。だから、②の「かわいい」文化の独自性と、①のアニミズム的、多神教的な文化が生み出す想像力の魅力とが結びついている。今、世界は一神教的な文化の強大な影響力のもとに置かれ、しかもそれが行き詰まりを見せている。「かわいい」文化は、一神教的・父性原理的な文化に対する「反乱」の始まりを意味するかもしれない。

《櫻井孝昌氏の関連著作》
アニメ文化外交 (ちくま新書)
世界カワイイ革命 (PHP新書)
日本はアニメで再興する クルマと家電が外貨を稼ぐ時代は終わった (アスキー新書 146)

《関連記事》
『日本はアニメで再興する』(1)
『日本はアニメで再興する』(2)
アニメ文化外交 (ちくま新書):YouTubeでのJapan熱を裏付ける本(1)
「カワイイ」文化について

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« クールジャパン現象は終るの... | トップ | 日本文化のユニークさ29:母... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2011-08-07 00:37:23
まあ、最近は宗教団体とかが規制しようとがんばってますが・・・。
法の方もやばいですが、各地方自治体の条例で規制されてきているので「④」は今後も続くとは思えません。orz
返信する
Unknown (HEう)
2011-08-07 00:46:39
いつも読ませてもらってます。
少しだけ薀蓄を。

日本で言う処のゴスロリでの「ゴス」は
西洋で言う処のゴシック(古典)ではなく
バロック(退廃)に該当するものだと思われます。
私も80年代末期にこれらが拡大していった時に
その趣味の方何人かに聞いてみましたが
そもそもバロックと言う単語を知らなかった様です。
返信する

マンガ・アニメの発信力の理由」カテゴリの最新記事