クールジャパン★Cool Japan

今、日本のポップカルチャーが世界でどのように受け入られ影響を広げているのか。WEB等で探ってその最新情報を紹介。

自覚すべき日本の良さ

2012年06月10日 | 日本の長所
日本人、そして日本文化のユニークさ、不思議さということをずっと考えてきた。日本人自身はあまりそれを自覚していないが、世界の歴史や文化を見渡してみると日本はやはりかなりユニークな歴史と文化を持っている。

そのユニークさが、マンガやアニメなどの影響もあって世界中に知られ始めている。日本のポップカルチャーの世界での広がりを積極的に取材する櫻井孝昌氏によれば、世界の若者たちは、日本中に当たり前のように溢れているアニメやマンガやファッションを、他の国にないユニークさとオリジナリティに満ちたものと感じ「敬意」を抱いているという。そして、海外に出るたびに現地のメディアから、「若者たちの考え方や生き方に、アニメやマンガがものすごい影響を与えていることを日本人は知っているのですか?」と聞かれるという。(『日本はアニメで再興する クルマと家電が外貨を稼ぐ時代は終わった (アスキー新書 146)』)  マンガやアニメの独自性は、それを生み出す日本の歴史や文化のユニークさから生まれる。 

東日本大震災のときに日本人が見せた落ち着いた行動やいたわり合い、危機的な状況のなかでも略奪や暴動などがなく素晴らしい秩序が保たれていたことなども、あらためて日本人の不思議さ、ユニークさを世界に印象づける結果となった。海外の多くのメディアがその様子を報道した。多くの人々がそうした記事に接したと思うが、ここでは一つだけ思い起こしてみよう。

アルゼンチン紙、略奪起きない日本を称賛 (2011.3.16)

「なぜ日本では略奪が起きないのか」。南米アルゼンチンの有力紙ナシオン(電子版)は16日、東日本大震災の被災地で、被災者らが統制の取れた行動を取っていることを驚きを持って報じた。

中南米では、昨年1月と2月に起きたカリブ海のハイチと南米チリの大地震の際、混乱した被災者らがスーパーなどから商品を略奪し、強盗被害も多発した。

同紙は茨城県内にいる特派員の情報として、被災者がわずかな食事の配給のために根気よく一列に並んで待っている様子を紹介。「仕方がない」と「我慢」の二つの言葉を胸に耐える日本人の強靱な精神をたたえた。

また別の記事で「どんな状況下でも隣人を尊敬するのが日本人の特性だ」と指摘。過去の戦争や原爆被害などを踏まえ「過去の世代が惨事を経験している」として、非常時の冷静な行動が「日本人のDNAに組み込まれている」と分析した。(共同)


日本人にとって当たり前と思われていることが、実は世界にとって当たり前ではない。それでいて日本人は、そのことの重要性をあまり気づいていない。しかし今、日本人自身が自分たちの文化やそのユニークさとその意味をもっと自覚すべきときに来ていると思う。日本の社会や文化、そして日本人の人間関係に含まれる見えない長所、日本人が多かれ少なかれもっている道徳心、好奇心、改善や創意工夫の意識、仕上げに凝る、仲間を助けるなどの姿勢などを、日本人はしっかりと自覚し、それを守っていくことがますます大切になっている。

それらは、日本人にとって当たり前すぎることなので、これまではきちんと分析して対象化する必要など感じなかったかもしれない。しかし、自分たちの文化や伝統にどのような意味と価値があるのかを知らずにいると、グローバリズムという名のもとに国外から押し寄せてくる変化の波によって、それらがかんたんに失われてしまい、取り返しのつかないことになる。だからこそ、これからはそれらがどれほど「価値ある資産」としてプラスの意味をもっているのかを、分析し、可視化し、体系化することがきわめて重要となる。分析され、その資産としての意味が自覚化されることで、その長所を守り、さらに活かし、伸展させていく方法も見えてくるからだ。

私は、これまでこのブログで、不十分ながらそのきっかけとなるような試みをしてきた。たとえば日本の長所として次のような11項目を挙げて見た。これらは、日本を訪れたり、住んだりしている多くの外国人の感想などをもとにして、その最大公約数的なものを整理したものである。

1)礼儀正しさ
2)規律性、社会の秩序がよく保たれている 
3)治安のよさ、犯罪率の低さ 
4)勤勉さ、仕事への責任感、自分の仕事に誇りをもっていること
5)謙虚さ、親切、他人への思いやり
6)あらゆるサービスの質の高さ
7)清潔さ(ゴミが落ちていない)
8)環境保全意識の高さ
9)食べ物のおいしさ、豊かさ、ヘルシーなこと 
10)伝統と現代の共存、外来文化への柔軟性
11)マンガ・アニメなどポップカルチャーの魅力とその発信力

そして、こうした日本の長所が出てくる背景を「日本文化のユニークさ」7項目として整理し、上と関連づけながら論じる試みもした。(その7項目については次を参照されたい→日本を探る7視点(日本文化のユニークさ総まとめ07))今後は、「日本文化のユニークさ総まとめ」というタイトルの連載として、この7項目にそいつつ、また「日本の長所」11項目も必要に応じて触れながら、これまでこのブログで書いてきたものを整理・統合して、さらに深めていくつもりである。

《関連記事》
日本の長所03:長所を自覚する大切さ
『日本はアニメで再興する』(1)
東日本大震災と日本人(2)日本人の長所が際立った

《参考図書》
★加藤恭子編『私は日本のここが好き!―外国人54人が語る』(出窓社、2008年)        
★加藤恭子編『続 私は日本のここが好き!  外国人43人が深く語る』(出窓社、2010年)
★櫻井 孝昌『世界カワイイ革命 (PHP新書)』(PHP新書、2009年)
★櫻井孝昌『日本はアニメで再興する・クルマと家電が外貨を稼ぐ時代は終わった (アスキー新書 146)
★櫻井孝昌『アニメ文化外交 (ちくま新書)

アトムと縄文(2)

2012年06月08日 | マンガ・アニメの発信力の理由
『鉄腕アトム』のアトムは、幼い少年の顔をしている。どう見ても低学年の小学生くらいのかわいいイメージである。少年漫画の主人公なのだからそれは当然と思うかもしれない。しかし、それは日本人の感覚なのである。

『鉄腕アトム』を原作とした米国版のコンピューターアニメーション映画『ATOM』(アトム、米題:Astro Boy、2009年)では、制作にあたってアトムの幼い顔が大いに問題になったという。

アメリカの製作者側がデザインした最初のアトムは、かなり大人びたイメージだったようだ。アメリカ人には、手塚のアトムはあまりに幼すぎ、ヒーローとしては不自然さを感じさせてしまうというのでそうなったという。

しかし、これには日本側が納得しなかった。何度かの厳しいやりとりとデザインの変更の末、原作のアトムよりは少しあどけなかさがとれたくらいの顔に落ち着いた。小学生高学年くらいか。こうして日本側の要求がある程度受け入れられたのも、契約書に日本側の承認権を入れていたためという。おかげで、私もさほど違和感なく楽しむことができた。ハリウッド版のアトムのイメージは以下を参照されたい。

http://youtu.be/aJQ-bsGoG_8

日本人には、アトムの幼い姿形やかわいさが自然に受け入れられるが、アメリカ人には不自然に感じられる。その背景には、あどけなさやかわいさに対する日本人の独特の感覚がある。もちろん、現代の「カワイイ」文化の流行も、根は同じところにある。つまり、縄文時代以来の一貫した母性原理の文化が日本人独特の、かわいさへの感性を形づくっているのではないか。

元来「かわいい」は二人称的な関係の中での相手に対する主観的な感情を表すが、「美しい」は、より客観的な評価に近いようだ。「かわいがる」という日本語は普通に使われる、「美しがる」という言い方は不自然だ。「かわいがる―甘える」というような親密な関係が、元々「かわいい」の背景にはある。親しい関係を成り立たせる場の存在が前提となっている言葉なのだ。

日本人は未成熟で子供じみたものにひときわ愛着を示し、また自分の子供っぽいイメージを進んで周囲に示したがる傾向すらある。それは、幼稚であること、無害であることを通して隣人の警戒を解き、互いにその幼稚さを共有しあいながら統合された集団を組織していくからではないか。つまり、甘え合える親しさをよしとする母性原理の社会なのであある。

言い方を変えれば、日本は太古からほどんどずっと、子供っぽさ、幼稚さ、無害、素直さなどをどこかで互いに認め、共有しあって社会関係を結ぶことが許される平和な社会だったのである。逆に、成熟し独立した人格こそが、人間にもっとも大切な価値であるとする社会とは、個々が人が独立した主体として責任をもって判断しながら生きていかなければ、いつ殺されるかもしれない熾烈な社会なのではないか。「かわいい」ことが生き延びていくうえでプラスにもなる社会と、かわいかろうとなかろうと、殺されるときには殺されてしまう社会との違い。

この違いは、日本と西欧との子供観の違いとも重なっている。西欧では、子供は未完成な人間であって、教え導かれ知性と理性を磨くことで、初めて一人前の「人間」に成ると考える傾向がある。子どもはその意味で「人間になる途上の不完全な存在」という文化が支配的であった。一方日本では、「子供は人間らしさの原点」と考えられる。大人になるとは、その無邪気な人間らしさが何がしか失われていくことを意味する。

前回、テクノ-アニミズムと縄文の関係を見た。子どもイメージのアトムが不自然と感じられない日本人の感性も、「カワイイ」文化一般とともに、どうやら縄文以来の母性原理と関係が深そうだ。

《関連記事》
『「かわいい」論』、かわいいと平和の関係(1)
『「かわいい」論』、かわいいと平和の関係(2)
「カワイイ」文化について
子どもの楽園(1)
子どもの楽園(2)
子供観の違いとアニメ
『「萌え」の起源』(1)

《関連図書》
★『世界カワイイ革命 (PHP新書)
★『「かわいい」の帝国
★『逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)
★『「萌え」の起源 (PHP新書 628)