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自然の恵みと脅威:風土と日本人(1)

2014年02月08日 | 自然の豊かさと脅威の中で
◆『風土―人間学的考察 (岩波文庫)

今回は、ブログの柱である「日本文化のユニークさ8項目」のうち、第6番目に関連して、和辻哲郎のあまりに有名な『風土―人間学的考察』を取り上げたい。

(6)森林の多い豊かな自然の恩恵を受けながら、一方、地震・津波・台風などの自然災害は何度も繰り返され、それが日本人独特の自然観・人間観を作った。

和辻は、上の本の中で風土をモンスーン、砂漠、牧場に分け、それぞれの風土と文化、思想の関連を追究した。日本はもちろんモンスーンに含まれる。モンスーンは季節風であり、特に夏の季節風で、熱帯の太洋から陸に吹く風である。だからモンスーン域の風土は暑熱と湿気との結合をその特性とする。湿潤なモンスーンが日本の自然を豊かにすると同時に、台風などの暴威ともなる。まさにこの二面性が日本人や日本文化の特性にどう関係するのかを和辻は考察している。

東北大震災からすでに3年が経とうとしている。あの震災とその後の津波や原発事故は、私たち日本人に強い衝撃を与え、その後の私たちの生き方や考え方に深い影響を及ぼした。しかし考えてみればそのような衝撃と影響は、日本人がはるか昔から大きな自然災害を経験するたびに何度も受けてきたものだ。和辻はこの本の中で震災や津波といった自然災害を直接論じているわけではないが、暑熱と結合する湿潤な自然が、しばしば大雨や暴風、洪水など荒々しい力となって人間に襲いかかることが、人間の態度や思考にどのような影響を与えるかを考察している。震災の記憶がまだ生々しく残っている今、和辻の風土論を読み直すことは何かしら意味があるかもしれない。

和辻は、モンスーン域の人間が、寒冷地や沙漠の人間に比べ、自然に対抗する力が弱く、受容的・忍従的になると言い、それはモンスーンの湿潤から理解できると言う。耐えがたく防ぎがたい湿気は、人間のうちに「自然への対抗」を呼覚まさない。その理由のひとつは、「陸に住む人間とって、湿潤が自然の恵みを意味する」からである。特に夏の暑熱と湿気のなかで大地に植物など多くの生命が豊かに育ち、成熟する。湿潤な自然は生命の豊かさに関係し、だから人間はそれに対して対抗的ではなく、受容的になるというのである。

理由の第二は、湿潤が自然の暴威をもたらし、しばしば大雨、暴風、洪水、旱魃などの荒々しい力となって人間に襲いかかるからである。それは「人間に対して対抗を断念させるほど巨大な力であり、従って人間をただ忍従的たらしめる」という。沙漠の乾燥も人間に死の脅威を与えるほどに厳しい。しかし乾燥は、湿潤と違って、同時に人間を生かす力ではない。人間は自分の生の力によって死の脅威に対抗しようとする。一方、湿潤な自然の暴威は、生を恵む力の暴威であり、この点で、沙漠の乾燥の脅威とは意味が違うというのだ。

こうして和辻は、こうしたモンスーン地域の人間のあり方を「モンスーン的」と名づけ、私たち日本人もまさにモンスーン的、すなわち受容的・忍従的であるとする。そしてさらに、その日本的な特殊性を吟味していく。私は、和辻のこの風土論に大方そうだろうと思いつつ、どこかで今ひとつ素直に受け入れがたいものを感じている。それがどこから来るのかは、もう少し和辻を論を追いながらはっきりさせていければと思う。

ただ今の段階でひとつ言えるのは、和辻の論がモンスーンと湿潤性とに一元化しすぎていることに不満があるということである。人間を含めたあらゆる生命を育む豊かな自然が、時に命を根こそぎにする脅威ともなりうる。そのような自然の脅威として地震や津波が日本人にとって持つ意味は、台風や大雨に比べ破壊力も格段に大きく、無視できるものではない。日本列島に住む人々は、縄文あるいはそれ以前の昔から、豊かな恩恵をもたらすと同時に、ときに狂暴化する自然のもとで生きてきた。地震や津波を含めた、そうした自然への畏敬が、荒魂(あらたま)・和魂(にぎたま)という、神の極端な二面性への信仰となり、また日本人独特の無常観をも醸成したのである。

もうひとつ気になるのは、「忍従的」という言葉である。「受容的」の方は中立的なニュアンスに近いので気にならないが、「忍従的」の方はどこか否定的な響きがあって引っかかる。東北大震災と津波の被害のあと、日本人が示した行動は、否定的どころか世界に驚嘆される素晴らしいものだった。「東日本大震災と日本人(2)日本人の長所が際立った」や「日本文化のユニークさ24:自然災害が日本人の優しさを作った」などの記事を参照してほしい。「忍従的」にまつわる問題については、モンスーン的風土の日本的特殊形態についての、和辻の具体的な分析に触れるときにまた考えることになるだろう。

《関連図書》
ニッポンの底力 (講談社プラスアルファ新書)
日本の大転換 (集英社新書)
資本主義以後の世界―日本は「文明の転換」を主導できるか
日本人て、なんですか?
日本復興(ジャパン・ルネッサンス)の鍵 受け身力
日本の「復元力」―歴史を学ぶことは未来をつくること (MURC BUSINESS SERIES 特別版)

《関連記事》
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1 コメント

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忍従的という言葉 (いきあたり飛蝗)
2014-04-28 15:09:26
いつも、ありがとうございます。
時々読まさせて頂いておりますが、初めてコメント致しました。

最近、海外で、日本の「しょうがない」という言葉が取りざたされていると何かの記事で読みました。
砂漠にすむ「インシュアラー」と同じような意味ととらえていましたが、モンスーン的という分類からは外れてしまうのでしょうか。
特に深い意味は無いですが、気になったので、
投稿させて頂きました。

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