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『日本辺境論』をこえて(3)『欲しがらない若者たち』

2012年02月24日 | いいとこ取り日本
◆『日本辺境論 (新潮新書)

ニッポン若者論 よさこい、キャバクラ、地元志向 (ちくま文庫)』(調査期間は2007~2008)で示された若者の和風志向・日本回帰という傾向を、別の調査で裏付けたい。

欲しがらない若者たち(日経プレミアシリーズ)』(山岡拓、2009)は、若者の消費動向を探るための調査結果をまとめたものだが、『ニッポン若者論』で示された傾向がより鮮明に見えてくる。その調査結果から浮かび上がる若者像をあらかじめ言葉で表現すると、以下のようになるという。

「今の若者が目指すのは、実にまったりした、穏やかな暮らしである。自宅とその周辺で暮らすのが好きで、和風の文化が好き。科学技術の進歩よりも経済成長を支える勤勉さよりも、伝統文化の価値を重視する。食べ物は魚が好き。エネルギー消費は少なく、意図しなくとも、結果的に『地球にやさしい』暮らしを選んでいるようだ。大切ななのは家族と友人、そして彼らと過ごす時間。親しい人との会話や、ささやかな贈りものの交換、好みが一致したときなどの気持ちの共振に、とても大きな満足を感じているようだ。彼らは消費の牽引車にはなれなくとも、ある意味では時代のリーダーなのかもしれない。」

この調査も、若者の価値観の変化の多様な側面がうかがえる。各章の見出しだけ見ても「若者男子は酒よりスイーツへ」、「縮小する性差」、「個の溶解と、浮上する共振型喜び」、「近代からの離脱と伝統文化への回帰」など興味尽きない。これらの傾向はすべて関連しているが、ここでは日本の伝統文化への回帰しようとする動きだけを取り上げる。この調査でも、和風志向の先頭に立つは20代の若者たちであることがはっきりする。その傾向は、茶道、華道、盆栽、神社仏閣、平安の美意識への関心から、日本の精神文化に深く分け入ろうとする傾向にまで及ぶという。

データで確認しよう。2008年の「若者意識調査」では、多様な項目から回答者に「重要であり、次世代に伝えたいと思うもの」を二つ選んでもらったという。20代でトップに選べれたのは「日本の伝統文化や季節感」で、4割を超えた。2位は僅差で、地球環境問題の重要性。逆に「経済成長やモノが豊かな暮らし」など戦後日本を代表する価値観の重要性を挙げた若者は、伝統文化の半分ほどの2割程度だったという。

さらに「神社仏閣、歴史的建造物」や「茶道や華道、日本画、書道など」等々、代表的な伝統文化を並べ、「5年前と比べて関心が高まったこと」を複数回答で聞いた結果、11項目中8項目で、20代の方が30~44歳より高くなったという。たとえば「神社仏閣、歴史的建造物」への関心が高まったと答えたのは20代で50%、30~44歳で44%であった。

「日本古来の精神文化」についても同様の結果(20代で38%、30~44歳で33%)が見られ、「日本の伝統家具やインテリア小物」への関心が高まったという率より、数パーセント高い。これは、和風志向が一時的な流行や表面的なファッションの問題ではなく、もっと深いところで進行していることを物語る。調査の回答者もまた、その半数近くが、和への関心の高低にかかわらず、「消費成熟化などで日本人が自国の伝統文化を見直している。短期的流行ではなく長期間続きそうだ」と答え、一時的な流行ではないという見方を示している。

若者の和風志向について、興味深いデータはまだたくさんあるが、その紹介自体が目的ではないのでこれぐらいでとどめたい。著者は、この調査結果の背景にあるものを「戦後日本の価値観からの離脱だ」と見ている。一方で「近代を貫く基本原理が内面からごっそり抜けおちた後の空洞を、より古い文化で埋めようとしているようにも見える」と言っている。

ここには時代的に二つの見方が語られている。若者が離脱しつつあるのは、戦後の価値観なのか、明治以降取り入れ続けた西欧近代の価値観そのものなのか、という二つだ。もちろん両方の見方ができる。二つの現象が重なっているともいえる。明治以降の日本人の傾向が変化し始めていると見るなら、それは現象をより深い視点からとらえていることになる。

これらの調査は、『日本辺境論 (新潮新書)』(内田樹、2009)がいう、文明の「保証人」を外部に求めようとする日本人のあり方が変化し始めていることを物語るのではないか。日本人に世界標準の制定力がなく、「保証人」を外部の上位者に求めてしまうことこそが「辺境人」の発想で、それは「もう私たちの血肉となっている」からどうすることもできないと、かんたんに断定できない変化が、日本人に起こり始めているのではないか。

私が言いたいのは、日本人に「世界標準の制定力」があるかないかは別として、文明の「保証人」を外部にもとめていつも「ふらふらきょろきょろ」していた日本人の姿は、少なくとも今の若者には見られないということである。このような若者を中心とした日本人の変化をどのようにとらえるか、もう少し考察を続けたい。

《関連図書》
欲しがらない若者たち(日経プレミアシリーズ)
ニッポン若者論 よさこい、キャバクラ、地元志向 (ちくま文庫)
論集・日本文化〈1〉日本文化の構造 (1972年) (講談社現代新書)

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クールジャパンに関連する本02
  (『欲しがらない若者たち(日経プレミアシリーズ)』の短評を掲載している。)

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1 コメント

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Unknown (名無し)
2012-02-24 12:49:41
特に反論なしです。どうして若者がそうなったか?の考察を楽しみに待ってます。
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