クールジャパン★Cool Japan

今、日本のポップカルチャーが世界でどのように受け入られ影響を広げているのか。WEB等で探ってその最新情報を紹介。

マンガ・アニメの発信力の理由03

2010年08月31日 | マンガ・アニメの発信力の理由
日本のマンガ・アニメの発信力の理由、

①生命と無生命、人間と他の生き物を明確に区別しない文化、アニミズム的、多神教的な文化が現代になお息づき、それが作品に反映する

は、「日本文化のユニークさ」ということで挙げた三つの特徴のうち

(1)狩猟・採集を基本とした縄文文化が、抹殺されずに日本人の心の基層として無自覚のうちにも生き続けている。

に関連が深いことは、すでにみた。今回はそれを『宮崎アニメの暗号』を通して探ろう。

◆『宮崎アニメの暗号 (新潮新書)』(青井 汎)

宮崎アニメと、他のアニメその他のエンターテイメントの違いはなにか。それは宮崎作品の面白さのなかに隠されたとくべつの「仕掛け」にあると、著者はいう。それは作品のなかに自然に違和感なく溶け込んでいるため、ちょっと見には「暗号」のようだが、作品の血となり肉となって、宮崎作品のかぎりない魅力と豊かさとなっている。その豊かな背景とメッセージ性を明らかにしようというのが本書の意図だ。読んでなるほどと納得したり、そこまで深い背景が、と驚いたり、そのメッセージに共感したりすることが多かった。

まず冒頭で、『となりのトトロ』の背景に1972年のスペイン映画『ミツバチのささやき [DVD]』があったという事実が語られる。エリセのこの作品には、キリスト教に抑圧される以前の自然崇拝の古い世界観がもり込まれている。『となりのトトロ』は、この映画から影響を受け、似たようなシーンが見られるし、同様の世界観を表現している。ヨーロッパならローマ帝国以前のケルト人の森の文化、日本なら縄文時代やそれ以前の文化への敬愛が二つの映画の底流をなしている。

『となりのトトロ』にかぎらず、キリスト教や産業文明以前の、自然と人間が一体となった世界への共感は、宮崎アニメのいたるところに見られる。森や森の生き物に共感し、生き物と交流できたり、森から異界への入り込む森の人。キリスト教は、そのような能力をもった人々を魔女として迫害した。宮崎アニメには、そういう魔女的な一面をもった登場人物へのあたたかいまなざしがある。ナウシカにも魔女を思わせる不思議な力があった。狼少女サンにも同じような一面がある。サツキやメイはお化けを見たし、千尋は異界への通路をひらいた等。『魔女の宅急便』は挙げるまでもないだろう。

この本の中心にあるのは、『もののけ姫』の背後にある五行思想の「暗号」を解くことである。中国生まれの五行思想は、万物を木(生命の象徴)、火、土(大地の象徴)、金、水の五つの原素に分類する。木は燃えて火を生じ、火は灰を生んで土を生じ、土は金を含み、金は水を付着させ、水は木を育てる。逆に木は土から養分を吸い上げ、土は水をせき止める。水は火を消し、火は金属を溶かし、そして金属を斧は木を倒す。

この五行思想を宮崎は作品で駆使しているが、『もののけ姫』にはそれが地下水脈のように張り巡らされているという。たとえば、ひずめが大地に着くたびにそこから草が成長し、一瞬に枯れてしまうシシ神は、大地(土気)の象徴であろう。銃弾を受けたアシタカは、シシ神によって救われる。逆にタタリ神になった乙事主(猪)の生命は、シシ神によって吸い取られた。大地(土)は、木(生命)に命を与え、そして再び大地に返すのだから、アシタカも乙事主も木気を表しているといえるだろう。森の生き物たちは、シシ神(土気)の恵を受けてのみ、命を育むことができる。シシ神は森の秩序であるゆえ、あらゆる生き物がシシ神を畏れ、敬う。

ところがシシ神(土気)の怒りを買う産業文明(火気)が、森にやってくる。人は森から採取した鉄をタタラという炉で、火を使って銃弾に変える。そして生き物の命を奪う。それだけでなく森そのもの(木気)を奪う。『ミツバチのささやき』で荒れ果てたスペインの荒野が舞台となるが、それは人が深き森を伐採した結果なのだ。森の伐採はひとつの文明を滅ぼすさえある。それが宮崎のいう「祟り」の本質ではないか。宮崎の視野は、文明そのものがもつ「祟り」にまで及んでいるのだ。

『もののけ姫』の底流をなす五行思想をごくかんたんに見た。これだけだとこじつけのように感じられるかもしれないが、実際にはもっと詳しく周到に論じられており、読んで説得力がある。

またシシ神は、木気(大地)の象徴であるだけでなく、神話から洞穴絵画にいたるまで人類の何重もの歴史的なイメージを合わせ持つ存在として造形されている。それを説明するくだりも、興味尽きない。旧石器時代以来、欧州では「有角神」が信仰されていたが、キリスト教の興隆後は悪魔とされた。ケルトの有角神は、ケルヌンメスといわれ、動物の王でありながら、他の生物とともにあった。ここにシシ神の原型があるかもしれない。シシ神は、破壊と再生を一身に体現するという意味でモヘンジョダロのパシュパティのいう有角神にも連なる。さらに『ギルガメシュ叙事詩 (ちくま学芸文庫)』、最後には、旧石器時代の洞穴絵画のひとつ「トロワ・フレールの呪術師」という図像にこそ、始原のシシ神が見いだされる。

通読して、宮崎アニメがその上質のエンターテイメントのなかに、これほど遠くまで遡る歴史的視野と、文明の根源までを見据える深い批判精神を隠していたということに驚き、再度宮崎アニメを見直したいという思いに駆られた。宮崎アニメは、充分に意図的に、縄文・ケルト的な森の思想を表現しているのだ。

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マンガ・アニメの発信力の理由02

2010年08月13日 | マンガ・アニメの発信力の理由
昨日提出した、日本のマンガ・アニメの発信力の理由だが、さっそく少し変えてみた。①に少し語句を加え、②と③の順序を逆にした。①と②は関連が深いと思われるからである。

①生命と無生命、人間と他の生き物を明確に区別しない文化、アニミズム的、多神教的な文化が現代になお息づき、それが作品に反映する
②子ども文化と大人文化の明確な区別がなく、連続的ないし融合している
③宗教やイデオロギーによる制約がない自由な発想と表現
④民族や言語、階級などによって分断されない巨大で知的な庶民を基盤にする

ということで、続けて①についてもう少し続ける。①は、「日本文化のユニークさ」ということで挙げた三つ、

(1)狩猟・採集を基本とした縄文文化が、抹殺されずに日本人の心の基層として無自覚のうちにも生き続けている。
(2)ユーラシアの穀物・牧畜文化にたいして、日本は穀物・魚貝型とで言うべき文化を形成し、それが大陸とは違うユニークさを生み出した。
(3)大陸から適度に離れた位置にある日本は、異民族(とくに遊牧民族)による侵略、強奪、虐殺など悲惨な体験をもたず、また自文化が抹殺される体験ももたなかった。

のうち、とくに(1)に関係が深い。(1)との関連は、昨日触れたことからも明かだと思う。

さて、鳴海丈の『「萌え」の起源 (PHP新書 628)』は、すでに書評で取り上げたことがあるが、この本で著者は、日本の伝統との関連という視点から日本のマンガ・アニメの発信力を語っており、その発信力の理由を次のようにまとめている。

ア)日本人は本来、生命と無生命を区別しない文化を持っている。
イ)日本人は「小さくて丸っこくてカワイイもの」に愛着を感じる。
ウ)日本のヒーローは他人のため、自分を捨てて、見返りを求めずに戦うことで存在意義を見出している。
エ)日本人の理想とする正義とは、敵を否定し殲滅することではなく、みんなで幸福になるために互いに知恵と力を合わせることである。
オ)これら日本古来の感性と文化が手塚治虫の出現によって拡大され、マンガ・アニメをはじめとする戦後のサブカルチャーに受け継がれた。
カ)それは日本独自のものでありながら、言語や思想や文化の壁を越えて世界に受け入れられる普遍性を持っている(らしい)。

これらのうち、ア)とオ)を中心に見てみよう。

日本という国は、表現というジャンルにおいては昔から性の垣根がきわめて低いか、ほとんどないに等しかった。それどころか、人間と人間以外のものの境界もかなり曖昧で、人が動物や妖怪との間に子供をもうける物語も多く見られる。

歌舞伎は、その始まりからそういう傾向があった。阿国は胸に十字架をつけ男装して踊り、パートナーの男性は女装していたという。日本の芸能には最初から「性の置き換え」というモチーフがあって、観客もそれを楽しんでいたらしい。また桜の精が重要な役割を果たしたり、キツネが芝居にからんだりすることも歌舞伎には多いが、西洋の演劇ではほとんど見られない。

そういう観点から見ると手塚治虫も、日本の古来の文化的傾向を無意識に引き継いでいるところがある。手塚の作品には、メタモルフォーゼ(変身)に対する憧れのようなものが強く表現されている。『メトロポリス (手塚治虫漫画全集 (44))』など初期の作品からそういう傾向が強く出ている。この作品のミッチーという中性的人間型ロボットは、スイッチを押すことで男にも女にもなれる。男女差どころか、人間と機械の差も曖昧で、こうした変身の要素は、最初から手塚作品の根幹をなしている。

この本では、変身のモチーフが、手塚治虫の全作品のなかでどれだけ重要意味をもっていたかを、具体例をあげて詳しく語っている。手塚は、マンガ家として特異なヴィジョンと感性をもった表現者であり、それがその後の日本のサブカルチャーに大きな影響を与えた。しかし、手塚の自由奔放なメタモルフォーゼというモチーフも、もとを正せば日本古来の感性、アニミズム的な感性に根ざしているのかもしれない。

「性の置き換え」を自由に楽しんだり、人間と動物との交感が自由になされたりする文化的な傾向は、牧畜文明を知らぬまま、あるいは遊牧民との接触の経験をもたぬまま、高度に文明化した日本の独自の歴史に根ざすと思われる。これは、「日本文化のユニークさ」でいえば、もちろん(2)に関係するが、これに関してはまた追って触れることになる。
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マンガ・アニメの発信力の理由01

2010年08月12日 | マンガ・アニメの発信力の理由
今日から何回かに分けて「マンガ・アニメの発信力の理由」というテーマで連載する。その理由をまとめた以下の4項目は、すでにどこかで触れたり、紹介したりした論点を整理しなおしたものである。これもあくまで暫定的なものなので、今後、修正をするかも知れない。すでに触れたことをこうして整理しなおすのは、「日本文化のユニークさ」論と関連付けたいからである。

1)アニミズム的、多神教的な文化が現代になお息づき、それが作品に反映する

2)宗教やイデオロギーによる制約がない自由な発想と表現

3)子ども文化と大人文化の明確な区別がなく、連続的ないし融合している

4)民族や言語、階級などによって分断されない巨大で知的な庶民を基盤にする

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

まずは、1)「アニミズム的、多神教的な文化が現代になお息づき、それが作品に反映するについて。

この点については、呉善花が『日本の曖昧力 (PHP新書)』で触れている。彼女は、日本のポップカルチャーが世界で受け入れられる理由を、縄文文化という歴史の根っこにさかのぼることで見事に解き明かしている。

今、静かな日本ブームが世界的にひろがり、「日本風に恋する」層が着実に拡大している。今世界に広がる、自然環境や伝統的な生活と現代文明との間の軋みに対して、日本風が示す伝統とモダンの調和が注目されるようになっている。

著者は、日本を体系的に理解するには三つの指標が必要だという。欧米化された日本、中国や韓国と似た農耕アジア的な日本、そして前農耕アジア的(縄文的、自然採集的)日本だ。日本文化と特色は、アジア的農耕社会である弥生時代以前の歴史層に根をもち、それが現在にも生きていることにあるのではないかと著者はいう。

日本の神道は、強烈なものを排除する傾向が強い。強烈な匂いや音、色、血などを嫌い、静かで清浄な雰囲気を好む。その内容はアニミズムであるが、強烈な刺激や生贄の血や騒然たる踊りや音響を好まないという点では、世界のアニミズムとは正反対である。著者はこうした日本のアニミズムの特色を「ソフトアニミズム」と呼ぶ。他のアジア地域では、アニミズムそのものが消えていったが、日本ではソフトな形に変化しながら、信仰とも非信仰ともいいがたい形をとりつつ、近世から現代へ、一般人の間から文化の中央部にいたるまで残っていったのでる。

著者は、かつての「たまごっち」というサイバー・ペットの世界的な流行を、日本的なソフトアニミズムが世界に受け入れられる普遍性をもっていることの現われだととらえる。劇画やアニメはさらにはっきりと、こどもたちの柔らかなアニミスティックな世界から立ちおこった芸術表現だという。

「いけばな、サイバー・ペット、劇画やアニメなどの世界的な人気は、そうした自然な生命(アニマ)への聖なる感性が、やはり人類すべてに内在し続けていることを物語るものといえるのではないだろうか。現代世界にあって、日本的なソフトアニミズムの感性が多くの人々に迎え入れられることはたしかだと思われる。」

以上を町田宗鳳の『人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)』によりながら、やや別の視点から論じよう。近代化とは、西欧文明の背景にある一神教コスモロジーを受け入れ、男性原理システムの構築することだともいえる。ところが日本文明だけは、近代化にいち早く成功しながら、完全には西欧化せず、その社会・文化システムの中に日本独特の古い層を濃厚に残しているかに見える。それは一神教的なコスモロジーに染まらない何かを強烈に残しているということであろう。他のアジア地域では、アニミズムそのものが消えていったが、日本ではソフトな形に変化しながら、それが残っていったのでる。

日本列島で一万年以上も続いた縄文文化は、その後の日本文化の深層としてしっかりと根をおろし、日本人のアニミズム的な宗教感情の基盤となっている。日本人の心に根付く「ソフトアニミズム」は、キリスト教的な人間中心主義とは違い、身近な自然や生物との一体感(愛)を基盤としている。日本にキリスト教が広まらなかったのは、日本人のアニミズム的な心情が聖書の人間中心主義と馴染まなかったからではないのか。

アニミズム的な多神教的コスモロジーは、一神教よりもはるかに他者や自然との共存が容易なコスモロジーである。もし、アニミズムや多神教的コスモロジーという言葉を使うことに抵抗があるなら、「宗教の縛りが少なく、多様化をよしとする価値観と文化」(伊藤洋一『日本力 アジアを引っぱる経済・欧米が憧れる文化! (講談社プラスアルファ文庫)』)と言い換えてもよい。

世界がマンガ・アニメに引かれる背景には、現代文明の最先端を突き進みながら一神教的コスモロジーとは違う何かが息づいていることを感じるからではないか。日本のソフト製品に共通する「かわいい」、「子どもらしさ」、「天真爛漫さ」、「新鮮さ」などは、自然や自然な人間らしさにより近いアニミズム的な感覚とどこかでつながっているのではないか。そして、そのような感覚は今後ますます大切な意味をもつようになるのではないか。
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日本の長所15:伝統と現代の共存

2010年08月06日 | 日本の長所
前回「日本の長所」の、うち10)に修正を加え、11)を新たに付け足した。

まずは、10)伝統と現代の共存、外来文化への柔軟性

について。後半「外来文化への柔軟性」については、これまで多くの日本人論や日本文化論で指摘されきた。たとえば新しいところでは、『なんとなく、日本人―世界に通用する強さの秘密 (PHP新書)』でも触れられている。日本人の根源的な強さは、絶え間なくいろいろな文化を外部から取り入れ、日本的なものに変えて、自家薬籠中の物にしてきたことにあるというのだ。有史以来の絶えざる日本化、自由に取り入れて日本風に変えていくという持続性と変容性の両立こそ、日本人と日本文化の特徴なのだという。

外来文化を自由に受け入れながら、日本古来の伝統や感性を失わず、日本人特有の感性に合わせて日本化してしまう。伝統と現代が共存しうるのも、そういう背景と関係しているかもしれない。

ここからは、11)マンガ・アニメなどポップカルチャーの魅力とその発信力

にも関係する。おそらくマンガやアニメが世界的に流行する背景にも、上の本の著者がいう日本人の強みが直接・間接に働いていることは間違いないだろう。その点を直接に論じている本もある。『ジャパナメリカ 日本発ポップカルチャー革命』は、次のように指摘する。

「1970年代や1980年代、日本が世界的に認められるようになる中で、活躍中の前衛的なアーティストたちはアメリカ、ヨーロッパ、そしてアジアの諸文化から気に入ったものだけを習得し、独創的な作品を作り出した。ただし、彼らアーティストの作品は、ものの見方、視覚的アイコン、物語上の前提、そして空想で構成された文化的基盤の核心部分を共有する、自国の列島に住む観衆だけに向けられていた。徳川時代と同じように、日本は熱心に他国の文化を研究しながら、国内の観衆だけを相手に、クリエイティブな表現を磨いていたのだ。」

外国から習得したものを伝統と融合させながら、文化を共有する日本人だけにむけて表現を熟成していった結果、アメリカの若者にとって新鮮に感じられるポップカルチャーが出現したというわけだ。それが今や硬直ぎみのアメリカのポップカルチャーの代替物になろうとしているというのだ。

ではなぜ、日本では、文化の混ぜ合わせのような状態からクールなポップカルチャーが生まれてくるのだろうか。日本でとくにそのようなことが起る理由については、この本では触れていない。

日本には、異質な文化のパーツを自分の社会に平気で取り入れられる「混合文化社会」であり、原則にこだわらない融通無碍を特色とするという文化的な背景があり、それが強みになっているかもしれない。今、地球上の多くの国々は、キリスト教やイスラム教という一神教を文化の根っこにもっている。あるいは、ヒンドゥー教のような多神教でも、はっきりしたタブーがあったりする。そうするとどうしてもその教えの原則に合わない文化はたとえ無意識にでも排除してしまう傾向がある。日本の文化にはそれがないから、自分が気に入ったものを自由に取り入れて、そこから独創的なものを生み出す可能性がそなわっているのかもしれない。

また、日本に一神教がほとんど広まらなかったことと関係するが、そのためか現代の日本人の心の深層に、古代的なアニミズム的な心性がっかなり残っている。動物はもちろん、山や森や川にさえ魂を感じる世界観が、私たちの心の中に残っている。宮崎アニメは、かなり自覚的にそういう世界観を表現するが、日本人が作り出す、他のアニメやマンガにも多かれ少なかれ、そのような世界観が反映されていないだろうか。そして、それが日本のポップカルチャーが、世界中でクールと受けとめられるひとつの理由になっていないだろうか。

一神教的な文化にしばられない自由さ、一神教的なものに押し殺されない、古代的な生命観の魅力、これまで世界の主流であった文化にない何か新しいもの(同時に古いもの)、それがが混ざり合ったクールな魅力を発しているのではないだろうか。


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日本の長所14:修正と付け加え

2010年08月04日 | 日本の長所
再び、「日本の長所」シリーズに戻り、少し修正と付け加えを行なう。暫定的な10項目、

1)礼儀正しさ
2)規律性、社会の秩序がよく保たれている 
3)治安のよさ、犯罪率の低さ 
4)勤勉さ、仕事への責任感、自分の仕事に誇りをもっていること
5)謙虚さ、親切、他人への思いやり
6)あらゆるサービスの質の高さ
7)清潔さ(ゴミが落ちていない)
8)環境保全意識の高さ
9)食べ物のおいしさ、豊かさ、ヘルシーなこと 
10)外来文化への柔軟性

のうち、10)外来文化への柔軟性、というのは日本人にとってはある程度、共通の認識になっていると思うが、外国人が日本および日本人の長所としては、それほど多くは取り上げないかもしれない。むしろ「伝統と現代の共存」という点を日本文化の素晴らしさや印象的なところとして挙げる場合が多い。ただ「現代」は、しばしば西欧文明に代表されるから、「伝統と現代の共存」という表現は、「日本の伝統と西欧文明の共存」と言い換えても、それほどはずれないだろう。要するに、中国文明や西欧文明を柔軟に取り入れながら、伝統的な日本文化も維持しているところが、日本の長所であり、日本文化の魅力にもなっているのだ。そこで10 )は、

10)伝統と現代の共存、外来文化への柔軟性

と並列する形にしておきたい。もちろんこれも暫定的なもので、今後表現を変えるかも知れない。

さらに11)として、

11)マンガ・アニメなどポップカルチャーの魅力とその発信力

を付け加えたい。日本人の長所、日本社会の長所と聞かれて、あらてめてこの点に言及する外国人は多くないかも知れない。しかし、実際問題としてこれだけアニメやマンガが世界に普及し、マンガやアニメを通して日本に取り付かれる若者が増えているのだから、これを「日本の長所」に付け加えない理由はない。

ということで、次回はまた「日本文化のユニークさ」シリーズに戻る。ただし、いま行なっているのは、「日本の長所」が「日本の文化のユニークさ」のどこから出てくるのか、その歴史的な背景を探ることなので、二つのテーマの相互に触れながら、先に進んでいく。また、これまでほかのカテゴリーで考察してきたことを、この二つのテーマと関係させながら、もう一度振り返るという作業も同時に進められていく。

とりあえず次回は、今日、修正し付け加えた11)と12)が、「日本文化のユニークさ」とどう関係するかを考えることになる。

もう一つ私の課題は、今は11項目になった「日本の長所」を、外国人にフィードバックする形で、アンケート調査をすることである。どういう方法でやるかは、充分検討する必要があるが、Twitterなども有効に使えないかなと思っている。


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日本文化のユニークさ11:侵略なしだからこそ日本の長所が

2010年08月03日 | 侵略を免れた日本
日本の長所としてとりあえず列挙した10項目のほとんどが、日本文化のユニークさ歴史的な背景のうち、3番目に関係するのではないかと前回指摘した。

(3)大陸から適度に離れた位置にある日本は、異民族(とくに遊牧民族)による侵略、強奪、虐殺、征服など悲惨な体験をもたず、また自文化が抹殺される体験ももたなかった。

これに対して、ヨーロッパにしてもアジアにしても大陸の国々は、異民族との戦いに明け暮れ、異民族に侵略され、征服され、虐殺されるというような悲惨な歴史を繰り返してきた。それゆえ大陸の人々は傾向として、常に相手からつけこ込まれたり、裏切られたりするのではないかと怯え、基本的には人間を信頼しない。つねに警戒すると同時に、どうやったら相手を出し抜き、ごかませるかと、攻撃的、戦略的に身構える。そこには前提として人間不信がある。

一方日本のように、異民族との闘争のない平和で安定した社会は、長期的な人間関係が生活の基盤となる。相互信頼に基づく長期的な人間関係の場を大切に育てることが可能だったし、それを育て守ることが日本人のもっとも基本的な価値感となった。その背後には人間は信頼できるものという性善説が横たわっている。

加えて、日本は稲作農業を基盤とした社会であった。人口の8割以上が農民であり、田植えから刈入れまでいちばん適切な時期に、効率よく集中的に全体の協力体制で作業をする訓練を、千数百年に渡って繰り返してきた。侵略によってそういうあり方が破壊されることもなかった。

礼儀正しさ、規律性、社会の秩序、治安のよさ、勤勉さ、仕事への責任感、親切、他人への思いやりなどは、こうした歴史的な背景から生まれてきたのであろう。

また、異民族に制圧されたり征服されたりした国は、征服された民族が奴隷となったり下層階級を形成したりして、強固な階級社会が形成される傾向がある。たとえばイギリスは、日本と同じ島国でありながら、大陸との海峡がそれほどの防御壁とならなかったためか、アングロ・サクソンの侵入からノルマン王朝の成立いたる征服の歴史がある。それがイギリスの現代にまで続く階級社会のもとになっている。

すでに触れたが、日本にそのような異民族による制圧の歴史がなかったことが、日本を階級によって完全に分断されない相対的に平等な国にした。武士などの一部のエリートに権力や富や栄誉のすべてが集中するのではない社会にした。特に江戸時代、庶民は自らの文化を育て楽しみ、それが江戸文化の中心になっていった。庶民は、どんな仕事をするにせよ、自分たちがそれを作っている、世に送り出している、社会の一角を支えているという「当事者意識」(責任感)を持つことができる。自分の仕事に誇りや、情熱を持つことができる。

階級によって分断された社会では、下層階級の人々はどこかに強力な被差別意識があり、自分たちの仕事に誇りをもつという意識は生まれにくい。奴隷は、とくにそういう意識を持つことができない。日本文化のユニークさのひとつは、奴隷制を持たなかったことであった。奴隷制の記憶が残り、下層階級が上層階級に虐げられていたという記憶が残る社会では、労働は押し付けられたものであり、そこに誇りをもつことは難しいだろう。

私は日本のここが好き!―外国人54人が語る』や『続 私は日本のここが好き!  外国人43人が深く語る』を読んで、私がいちばん強く印象に残るのは、外国人が日本人の仕事への責任感や誇り、誠実さを語る部分である。私たちは、こういう私たちの長所をもっと自覚すべきだと思う。自覚してこそ、守り伝えていくこともできるのだから。


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日本文化のユニークさ10:性善説人間観と日本の長所

2010年08月02日 | 侵略を免れた日本
かつて日本人の人間観・その長所と短所(1)というエントリーの中で岸田秀の『日本がアメリカを赦す日 (文春文庫)』の次のような主張を取り上げた。日本人は、ある種の人間観を前提として行動しているが、その前提についてはほとんど無自覚だというのだ。それは人間は、本来善良でやさしく、そして一人では生きることのできない弱い存在だから、互いにいたわり合い、助け合って生きていくしかないという性善説の人間観で、そんな人間観を前提にして日本の社会や規範は成り立っているというのだ。

ただし、このような日本人の人間観の致命的な欠陥は、それが言語化されていないということ、言葉で確認できる形で日本人に意識化されていないということだ。さらに日本人の問題は、このような人間観を他国や他民族にも共有される普遍的なもとの信じ込んで、行動することだ。しかし、日本人のような性善説に立つ人間観はむしろ例外的で、世界の大部分はそういう前提に立っていないから、日本の他国への期待は裏切られることが多い。それでトラブルが絶えない。岸田の説は、むしろそういう無自覚な人間観のマイナス面を強調していた。

しかし、「日本の長所」というシリーズを読んでいただいた読者の方々は、すでにお気づきのことと思う。10項目にまとめた長所の多くが、そのような性善説の人間観に関係しているらしいということを。

1)礼儀正しさ
2)規律性、社会の秩序がよく保たれている 
3)治安のよさ、犯罪率の低さ 
4)勤勉さ、仕事への責任感、自分の仕事に誇りをもっていること
5)謙虚さ、親切、他人への思いやり
6)あらゆるサービスの質の高さ
7)清潔さ(ゴミが落ちていない)
8)環境保全意識の高さ
9)食べ物のおいしさ、豊かさ、ヘルシーなこと 
10)外来文化への柔軟性

9)以外は、何らかの形で性善説の人間観に関係していると思うが、とくに2)~6)あたりは関係が深いだろう。人間の誠意や真情を互いに信頼することで、社会の「和」や秩序が保たれる。自分のわがままを抑えることで、相手も譲ってくれ、そこに安定した「和」の関係ができるという性善説を無意識のうちに共有しているから、規律や秩序、治安のよさ、謙虚さ、親切、思いやりなどが維持される。

では、こういう日本人の特徴はどこから来るのかと言えば、「日本文化のユニークさ」でまとめた、三つの特徴

(1)狩猟・採集を基本とした縄文文化が、抹殺されずに日本人の心の基層として無自覚のうちにも生き続けている。

(2)ユーラシアの穀物・牧畜文化にたいして、日本は穀物・魚貝型とで言うべき文化を形成し、それが大陸とは違うユニークさを生み出した。

(3)大陸から適度に離れた位置にある日本は、異民族(とくに遊牧民族)による侵略、強奪、虐殺など悲惨な体験をもたず、また自文化が抹殺される体験ももたなかった。

のうち、とくに(3)の特徴によるところが大きいことは、容易に想像つくだろう。この点は、次回もうしこし考察する。


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日本の長所13:長所に自覚をもって

2010年08月01日 | 日本の長所
日本の長所として暫定的にまとめた10項目のうち、残りの4項目

7)清潔さ(ゴミが落ちていない)
8)環境保全意識の高さ
9)食べ物のおいしさ、豊かさ、ヘルシーなこと 
10)外来文化への柔軟性

については、今あえて説明を加える必要はないだろう。私としては、それぞれの項目について日本人の独りよがりではないといえるような、ある程度客観的なデータによる裏づけが欲しいと思っている。安全性などは犯罪率のデータを挙げれば歴然としているが、他はなかなか難しい。そこで外国人などによる感想などを多く集めることが、ある程度の裏づけとはなるだろう。

8)環境保全意識の高さ、については各国を比較した意識調査の結果があったと思う。見つけたら紹介したい。9)食べ物のおいしさ、豊かさ、ヘルシーなこと、についてはミシュラン東京なども一つの裏づけだし、最近の和食ブームもその表れだ。これについては、カテゴリー・世界に広がる日本食にもある程度集めてある。今後も積極的に日本食関連の記事を掲載していきたい。

さて何回か取り上げてきた、『続 私は日本のここが好き!  外国人43人が深く語る』から、「日本の長所」全体にかかわる素晴らしい感想を紹介したい。滞在16年のトルコ人男性である。

「日本に住んで感じる日本の良さとして、いつも思うことがあります。ひとつは、この国には現代の人が欲しいと思っている、快適さのすべてが整っていることです。それは清潔、安全、マナー、便利さなどであり、近代的な住みやすい国ですね。その一方で日本は伝統を重んじ、お盆や正月などの昔からの行事を継続していることには感動しました。国の歴史、伝統的芸術や芸能、風習など、日本独特の文化が文化財としてだけでなく、人々の手によりよく保護保存されています。」

「しかし今の日本人は、日本という恵まれた国にいるということを、あまり自覚していないように思えます。‥‥敗戦後にゼロの状況から出発し、ここまで発展した日本人の資質も含め、世界から見れば稀なほど、すばらしい国と素晴らしい国民です。これらを自覚すれば、自然に感謝の気持がわいてくるのはないでしょうか。」

「日本人は、現在とてもあせっているように見えます。礼儀正しく、謙虚で静か、知的で多くの好奇心を持ち、外国人に対しても公平というとことが、ほかの国とは違いうと感じます。もっと自信を持ち、このような気持を大事にしていれば、大きく変らなくともいいのでは。なぜなら日本人は、何かあれば持ち前の良さを発揮し、みんなで危機を乗り越える力がありますからね。」

日本が、世界の国々の中でも、このように恵まれた国などだということを、何よりも今の子どもたちに知ってもらいたい。そして自信と誇りをもってもらいたいと切に思う。

さて、このシリーズ第一回目(日本の長所01)で次のように書いた。

「まずは、日本の長所とは何かをしっかりと把握すること。その上で、それをしっかり守り、ますます伸ばしていくこと。日本人は、自己批判の心が強すぎて、自分たちの文化や社会を必要以上に低く、価値のないものとして評価する傾向があった。そして自分たちの社会の素晴らしい面に無自覚で、自信がなかった。」「日本の文化や社会の「長所」とは何なのか。それをはっきりと自覚した上で、それを守り、さらに伸ばしていく。このブログでは、そのためにも日本がなぜクールと受けとめられるのか、それを探求していきたいのだ。」

ということで「日本の長所」シリーズも、「日本文化のユニークさ」シリーズも、その他の探求もさらに続けていく予定である。



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