夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

「ブラック・ブレッド」

2012-07-30 21:50:25 | 映画
スペイン映画を見るのは久しぶり。『パンズ・ラビリンス』(2006)のような、ダークで重厚な世界観を期待して見に行った。

内戦後の1940年代のスペインが、この映画の舞台らしい。

主に、内戦によって運命を狂わされた一家と、その一族についての話だったように思う。

映画の冒頭、山中で、荷物を運ぶ馬車が何者かに襲われ、崖から突き落とされる。

崖下で、主人公の少年(アンドレウ、11歳。写真左)が最初の発見者となるが、殺されたのは幼なじみで同級生のクレットと、その父のディオニスだった。アンドレウは、息絶える前のクレットが「ピトルリウア」(洞穴に住む怪物の名)と言うのを聞き、彼らの死に不審を抱く。そして、純粋な好奇心のままに、その真相を知ろうと行動するアンドレウは、しだいに、嘘で塗り固められた大人達の悪と、忌まわしい過去を暴いていくことになってしまう。それは、アンドレウがずっと尊敬し愛していた父・ファリオル(写真右)にも及び…。

父は、家業を継いで農夫になるのが嫌で夜学に行き、革命派の教師の影響で左翼政党に入り、内戦後は弾圧される側になった。ディオニスとつるんで労働組合や裏の仕事をしていたが、貧しい生活は妻が紡績工場で必死に働いて支えており、聡明な息子が医者を志しているのに、自分のせいでその夢を叶えてやれる見込みがないことに苦しんでもいた。

冒頭の殺人も、父が農場主のマヌベンス家に金で買われてしたことだった。マヌベンス夫人の弟が亡くなった後、夫人がディオニスに書類を盗ませ、財産を横取りしようとした。しかし、ディオニスが夫人を脅して金を手に入れようとしたため、夫人が父を雇って殺させたのだ。

全てを知ったアンドレウは、しかし、マヌベンス家の養子となり、名門校で学んで医者となる道を選ぶ。映画の最後、学校にやって来た母親に冷たい態度をとり続けるが、母親は意外なことを告げる。「お父さんは夫人に、沈黙を守る代わりに息子を頼むと手紙に書いていた。今のお前があるのは、お父さんのおかげだ。…お母さんは、お父さんを許すことにしたわ」。

また、刑務所で死刑を前にして、父が面会に来た妻と息子に会うシーンも印象的だった。父は息子に、「内戦でみな傷ついた。戦争で一番恐ろしいのは、理想を忘れてからっぽになることだ。…人間にとって一番大事なものは、ここと、ここにあるんだよ」と言って、息子の頭と胸を手で押さえ、抱きしめてやる。…監督がこの映画で伝えようとしたことが、ここに現れているように感じた。


最初からハラハラしながら、あっという間に見終わった。たくさんの内容を詰め込みすぎで消化不良な感じは残るし、最後につながるにしても、筋が複雑すぎて、ついていきづらかったけれども、少年の成長というテーマはしっかり伝わったと思う。