今し方まで激しく自己との格闘を続けていた、厳粛な雰囲気の残る部屋に通される。譜面台の上には、ぼろぼろのヘンレとデュラン版の楽譜。自分の番となり、おもむろにベートーヴェンのソナタを弾き始める。1フレーズごと止められ、厳しい指摘が続く。これが6年間ほとんど毎回の様子である。しかも、自分の悪い癖は一向に改善されていない。本当に自己嫌悪に陥ってしまう。師匠は、相手が誰であろうとも一音一音決して妥協はしない。プロでもなんでもない自分に容赦のない言葉を浴びせかける。音楽に全生命を賭けてきた男と、ただただ好きで趣味で続けてきた男。この天と地ほどの違い。しかし、どんなに出来が悪かろうとも、批判されようとも、やはり音楽は楽しい。どんなに稚拙な演奏しかできなくても、ほんの僅かでもいいから、やはり音楽の本質に近づきたいと思う。
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