漱石の代表作「こゝろ」。仕事柄、何度も扱っている作品であります。しかし、最近気づいたことがある。「私」が親友Kの恋心をふさごうとして放った言葉「精神的に向上心のないものはばかだ。」が繰り返されるとき、2度目にはなんと読点が付け加えられているではありませんか?こういう具合です。「精神的に向上心のないものは、ばかだ。」つまり「ばかだ」が強調されているわけです。このことに気づいたとき、自分は今までなんと大事なポイントを見落としてきたのだろう、と考えさせられました。漱石のねらいが自分の中で長い間、見過ごされてきたのです。思うに天才的な人は、こうしたことを見過ごすことはないのです。凡人は、すぐれた作品の一部しか見えていないのではないでしょうか。フランスの名ピアニストハイドシェック氏は、確かムジカノーバ誌の中で、ショパンの幻想曲、ベートーヴェンのテンペストの例を挙げ、彼自身が今まで見落としてきた重要な音型について言及しています。つまりそれに気づくか気づかないかで、作品の仕上がりが天と地ほど違ってくるのです。自分は凡人の域を出ない人間ではありますが、天才たちが血を吐く思いで世に遺した作品をじっくり丁寧に研究していくつもりであります。
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