陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

グルジア戦争とBTCライン

2008-08-18 00:04:52 | Weblog
 正直言ってグルジア戦争が起きるまで、私には「BTCライン」についての認識が殆ど無かった。カスピ海沿岸のバクー油田から、地中海の港へ巨大なパイプラインを引いたという話は漠然と聞いていたが、欧州はバクー原油を入手出来て便利になるのだろう程度の知識だった。ところがグルジア戦争が起きると、背景にはこの「BTCライン」が大きく影を落としているように感じた。

 「BTCライン」とは、Baku (アゼルバイジャン共和国)-Tiflis (グルジア共和国)-Ceyhan (トルコ共和国)を結ぶ原油輸送パイプラインで、総延長1768km(トルコ国内分は1076km)の途中に中継所を儲けた巨大な送油システムである。2002年に着工し、2006年5月に完成、現在日量100万バーレルを搬送している。
http://www.powerlineblog.com/archives2/2008/08/021212.php

 建設したのは、ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)を中心とする欧米資本であるが、日本も資金や技術提供で関与している。これで、ロシア共和国内を全く通過しないで、バクー原油を欧米へ搬出することが出来る。アゼルバイジャンの隣国、アルメニアを通せば、パイプラインはより短くなるけれども、アゼルバイジャンとアルメニアは仲が悪いし(ナゴルノーカラバコフ紛争)、アルメニアは山ばかりだから、地形的判断も加わってグルジアを通すことにしたと思われる。

 一度巨大パイプラインが出来ると、その増強は比較的容易であり、またカザフスタンからの天然ガス用パイプラインの並行設置も現実味を帯びて来る。バクー油田を始め、カスピ海沿岸地下資源に強力な発言力を持つBPは、カスピ海を横断するガスコンテナー船を増強し、更にカスピ海を横断してバクーに接続するガス輸送パイプラインを企画中らしい。

 グルジアは、シュワルナゼ前大統領の影響があるから、ソ連解体以来、西欧化が進んだ。恐らく、米国は石油資源と共に戦略基地配備でグルジアに力を入れていたであろう。新型戦車などの近代兵器刷新は、イスラエルにやらせ、高性能レーダー配備も進めていた。規模は分からないが、米軍軍事顧問団も送り込んでいた。

 グルジアの東側はアゼルバイジャンとチェチェン、南側はトルコ、アルメニアと何れもイスラム国家であり、グルジア正教徒が大半のグルジアはキリスト教国として西欧化に馴染みやすい体質があると想像する。

 現在のサーカシビリ大統領(41歳)は、愛国意識の強いことで知られる。キエフ大学卒業後、コロンビア大学とジョージ・ワシントン大学で法律を学んだ経歴を持ち(法学博士)、帰国後シュワルナゼ政権の法相とて活躍した。政権内の不正を暴くなどしてこれを離れたが、国民の人気は高く、<バラ革命>でシュワルナゼ氏が辞任した後2004年1月に圧倒的多数で大統領に選任された。昨年、安倍前首相がグルジアを訪問して彼と懇談するなど、日本との関係は良好である。

 チェチェン共和国を押さえつけたプーチン首相は、グルジアの西欧化が気に入らないし、NATOへ加盟しようと画策しているサーカシビリ大統領が眼の上のこぶになっていた。しかも2年前の「BTCライン」完成は、プーチン首相の対欧州石油戦略に齟齬を来たすことが明らかだ。それで、北オセチア共和国に大軍を移動させ準備を整えてから、南オセチア自治州にグルジアが進攻するよう図っていた。

 <北京五輪>終了までは、ロシアは手を出さないなどの偽情報も恐らく流したであろう。サーカシビリ大統領は、それに乗ってプーチン首相のいない間に南オセチア自治州からロシア兵力を追い出す作戦に出た。プーチンは待ってましたとばかりに北京からロシア軍の越境を指令、一度州都を制圧したグルジア軍はロシアの電撃作戦に敢え無く敗北する。

 グルジア本土内に侵入したロシア軍は、BTCラインを攻撃したが、これを破壊していない。ロシア空軍の戦力を以ってすれば、パイプラインを容易に破壊出来ると思うのだが、それをしないのは、現段階で米・WEU+トルコのNATO勢力と全面対決になることを避けたのではないか。一方では、鉄道網や電力網を破壊しているので、間接的に「BTCライン」へ影響を与えたはずだ。

 まず、サーカシビリ大統領を辞任へ追い込み、より中立的あるいは親露的な政権を作らせるのがプーチン首相の当面の目論見であろう。そうなれば、これ以上の「BTCライン」強化を防止出来る。

(追記:8月18日)

 以下のCNN記事に有るとおり、ロシア軍はやりたい放題である。

ロシア軍、グルジアでクラスター爆弾使用か 人権団体が報告

ロシア軍が侵攻した南オセチア自治州、グルジアでの武力衝突で、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(本部ニューヨーク)は15日、ロシア軍がグルジアの住宅地域でクラスター(集束)爆弾を使用、数十人を死傷させたことを示す証拠を入手したと報告した。

同爆弾は中部ゴリ市などで使われ、同市では11人が死亡したとしている。同爆弾は殺傷能力が強く、民間人への被害も大きいことから多数の国が禁止している。今年の5月には、全面禁止条約を目指す国際会議がノルウェーで開かれたが、米国やロシアなどは参加していなかった。

一方、ロシアのタス通信によると、同国国防省はヒューマン・ライツ・ウオッチの主張を否定し、「偏見のある目撃証言などを集めただけだ」と反論した。

同団体によると、ゴリでのクラスター爆弾攻撃は12日に市庁舎がある広場前で発生。食糧配給を待つ住民ら数十人が集まっている所を襲われ、多数の小爆発が秒間隔で起き、次々と地面に倒れていったという。死亡者には、オランダのテレビ局カメラマンも含まれている。負傷者はグルジアの首都トビリシの病院に運ばれ、手当てを受けたとしている。

ゴリでは8月9日から同12日までロシア軍機が空爆を繰り返したとされている。
http://www.cnn.co.jp/world/CNN200808150036.html
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